売上は目標の5倍!それなのに『クロスタ』のカードが安すぎる理由とは? ​: ~プロデューサー対談で見えた「1周年のリアルな課題」と、2年目の大逆転戦略~


トレーディングカードゲーム(TCG)の世界は今、まさに群雄割拠の戦国時代を迎えています。毎月のように新しいタイトルが生まれては消えていく厳しい市場の中で、2025年8月のリリースから無事に1周年を迎えたタイトルがあります。それが『クロススターズ(通称:クロスタ)』です。

今回は、ある動画やDiscordでのやり取りをきっかけに実現した、クロスタのプロデューサーとの対談内容を紐解いていきます。見えてきたのは、好調な売上の裏にある「贅沢な悩み」と、2年目に向けた熱い戦略でした。

1. 売上目標は5倍達成!それなのに「カードが安すぎる」のはなぜ?

まず驚くべきは、クロスタの現在の立ち位置です。リリースから1年間の区切りで見ると、なんと業界の売上トップ10に入るほどのヒットを記録しています。ぶっちゃけた話、当初の売上目標と比べて約5倍もの数字を叩き出しているそうです。

すごい快挙ですよね。

この爆発的な売上を引っ張っているのは、推しのタレントのカードを集める「コレクション層」の圧倒的な熱量です。他社の同基準のカードゲームと比べても、上位レアリティのカードに対する需要がすさまじく、パックが飛ぶように売れています。

しかし、ここで一つの奇妙な現象が起きています。パックはこれほど売れているのに、いざゲームで遊ぶためのカードを集めようとすると、「シングル買い(パックを開けるのではなく、カードショップなどで欲しいカードを単品で買うこと)」で驚くほど安く揃ってしまうのです。

プレイヤーにとってはありがたい話に聞こえるかもしれません。ですが、カードゲーム全体の寿命を考えると、これは少し危険なサインでもあります。

なぜこんなことが起きるのでしょうか?理由は、カードショップなどの「二次流通(プレイヤー間でカードが売買される市場)」における需要と供給のバランスにあります。コレクターの方々が目当ての希少カードを引き当てるために大量のパックを開封すると、その副産物として、対戦でよく使われるSR(スーパーレア)やエースカードが市場に大量に溢れかえります。いわば、大豊作すぎて値崩れを起こしてしまった野菜のような状態です。結果として供給過多になり、カード単体の値段がつかなくなってしまうのです。

さらに、他社の歴史あるカードゲームなら5段階ほどのレアリティ差があったり、過去の人気カードが豪華な加工で再録されたりしますが、クロスタはまだ1年目のタイトルです。LR(レジェンドレア)の上にLRP、SRの上にSRPと、レアリティの差が1段階しかないことも、市場価値の差が生まれにくい要因になっていました。最近になってようやく「リバース」などの汎用カードにSR風の加工を施したものを出し始めた段階であり、ここは今後の伸びしろと言えそうです。

2. 「気軽に遊べるはず」がガチ環境へ?開発陣の想定とリアルなギャップ

もう一つ、開発陣が頭を抱えている興味深いギャップがあります。それはプレイヤーの「遊び方」です。

元々クロスタは、他のゲームをメインで遊んでいる人が合間に気軽に楽しめる「サブTCG」としての立ち位置を意識して設計されていました。30枚のデッキを作る際も、好きなタレントのリーダーを4人選べば、残りのカードは自動的にほとんど決まる仕組みになっています。例えるなら、メインのおかずを4品選べば、あとは勝手にお弁当箱が彩りよく埋まるような手軽さです。お気に入りのタレントで安くデッキを組んでも、大会で勝ち越せるくらいのカジュアルな環境を想定していたのです。

ところが、蓋を開けてみるとどうだったか。

予想以上に「絶対に勝ちたい!」というハードなプレイヤーが多かったのです。結果として、カードの需要が一部の「ティア(環境におけるデッキの強さのランク付け)が高いデッキ」や強力なエースカードばかりに集中してしまいました。

実は、2,000円〜3,000円ほどで組める中堅デッキでも、十分に戦えるカードはたくさん用意されています。ただ、初心者やライト層が「自分でゼロからデッキを組む」のは、想像以上にハードルが高かったのです。さらに、世間がその「安くて強いデッキの組み方」を知るための情報やコンテンツの供給も不足していました。

開発の裏話:第2弾で貯金がゼロに!?
なぜここまでコンテンツ供給やプロモカードの設計に手が回らなかったのか。実は、第1弾のリリース時は半年ほどの制作スケジュールの余裕があったそうなのですが、第2弾のタイミングで様々なトラブルが重なり、その貯金がすべて吹き飛んでしまったそうです。カードゲームは「ちょっと一度休止します」が絶対に許されないジャンルです。ギリギリの進行で走り続け、今回の1周年(ファーストアニバーサリー)でようやく体制が追いついてきたというのが偽らざる本音でした。

こうした反省を踏まえ、公式も動き出しています。動画制作はコストや手間がかかるものの、まずはこれまで出せていなかった「公式デッキレシピ」の公開を強化するとのこと。第5弾では16人のリーダーが採用されますが、その16人全員を使い切るまでレシピを提案し続ける予定です。また、最新のEXスタートデッキも、エースカード4枚を入れ替えるだけで本格的に戦えるほど強力な構築に仕上げられています。

3. タレントIPならではのジレンマと、渋谷で見えた巨大なポテンシャル

カードゲーム戦国時代を生き残るには、サブTCGの枠に収まらず、メインのゲームを食いに行くくらいの勢いが必要です。なぜなら、サブTCGはメインで遊んでいる中心人物が離れてしまうと、周囲のプレイヤーも一気にいなくなってしまう危うさを持っているからです。

「それなら、大会の優勝景品に10万円くらいの価値がつく超豪華なカードを出せば盛り上がるんじゃない?」

そう思う方もいるかもしれません。実際、4,000円〜5,000円でデッキが組めて、大会で勝てば数万円の景品が手に入るという設計のサブTCGは多く存在します。しかし、クロスタにはそれができない特有の事情があります。

実在のタレントや様々なIP(知的財産)を扱っている以上、「全員が平等であること」を強く意識しなければならないのです。特定のタレントのカードだけが高額景品になったり、あるいは逆に値段がつかなかったりすることを、タレント側や版元が非常に嫌がるケースが多いのです。

そこで対談の中で生まれたのが、「特定のタレントの顔が出ないカード(汎用的なタクティクスカードやローダーなど)を徹底的に豪華にする」というアイデアでした。これなら誰にも負担をかけず、純粋な希少性によってカードの需要を高めることができます。個人的にこのやり取りを聞いていて、制約があるからこそ生まれる見事な逆転の発想だと唸らされました。

1周年ポップアップストアの反省と発見

また、1周年の「ファーストアニバーサリーセット」を巡っては、渋谷の公式ポップアップストアで先行販売が行われた際、全国の小売店(カードショップ)側にその情報がうまく伝わっておらず、発注時に混乱が生じるという一幕もありました。

プロデューサーとしては、案内資料に太字で2回記載し、毎弾の説明会でも伝えていたつもりだったそうですが、結果としてうまく届いていませんでした。元々ショップに無理に在庫を押し付けるつもりはなく、「公式でどれくらい売れるかインパクトを測りたい」「お店でも見かけたら嬉しいよね」という意図だったものの、渋谷という一等地で先行販売をしてしまった場所の悪さについては反省しているとのことです。

ただ、この渋谷のポップアップストアにプロデューサー自身が立ち続けたことで、非常に大きな発見がありました。

普段の大型大会(CCなど)に行くと、参加者の顔ぶれは大体わかるそうです。しかし、渋谷の会場に来ていたお客さんのうち、顔見知りのプレイヤーはわずか2割程度。残りの8割は、普段の大会では全く見かけない「ライトユーザー」だったのです。

彼らはカードゲーム専門のYouTubeチャンネルは見ません。かといって、タレントに「案件(PR)」として対戦動画を撮ってもらうと、ルールが曖昧なままプレイしてしまい、ゲーム本来の魅力が伝わらず視聴者の熱も冷めてしまいます。だからこそ、公式番組の『クロスタTV』では、無理に対戦を押し出すのではなく、タレント自身が純粋に企画を楽しみ、「カードを集めること」を自然に受け入れてもらえるような番組作りに注力しているのです。

4. 2年目の大逆転劇へ!「勝たなくていいイベント」が空気を変える

グッズとしてカードを買っている膨大な数のライト層。彼らが「対戦」へと一歩を踏み出せない最大の理由は何でしょうか。

答えはとてもシンプルです。「怖いから」です。

あなたも、新しく興味を持った趣味の世界で、ベテランたちのピリピリした空気に圧倒されてしまった経験はありませんか?

大会で「勝つこと」に大きなメリット(景品など)が生まれると、どうしても真剣になるあまり言動がキツくなったり、初心者に対して高圧的になったりする人が現れます。一度参加してみればライトな雰囲気だとわかるはずなのに、この「0を1にするハードル」が途方もなく高いのです。

そこで対談の終盤、すべての課題を解決する画期的な糸口が見つかりました。

  • 勝敗に関係なく、ランダムで景品(パックなど)がもらえる公認店イベントを作る
  • ガンスリンガー形式(時間内に色々な人と次々に対戦できる形式)などで、とにかくカジュアルに回す
  • ティア2・ティア3くらいの「好きなタレントのサンプルデッキレシピ」を公式からセットで提示する

もし「勝つこと」に特別な意味がなくなれば、どうなるでしょうか。高圧的な態度をとる理由は消え去り、そうした層を自然と排除できます。会場の空気がカフェの交流会のように柔らかくなれば、初心者も安心して飛び込めますし、運営するショップ店員さんのストレスも劇的に減ります。

さらに、「勝たなくてもいい場所」があることは、「最強ではないけれど、自分が好きなタレントのカジュアルデッキを組むこと」を肯定してくれます。そうなれば、今まで見向きもされなかった様々なカードに新しい需要が生まれ、パックを開封する価値も自然と高まっていきます。

まさに、一石三鳥のアイデアです。

ランダムでパックを配る形式であれば、タレントの権利関係(IP)の問題もクリアできます。準備期間を考慮しても、来年の前半(約半年後)には全国の公認店で実現できそうだという頼もしい言葉も飛び出しました。

カードゲームは通常、早ければ1〜2年でサービスを終了してしまう厳しい世界です。しかし、この2年目の壁さえ乗り越えれば、3年目、4年目と長く愛される未来がはっきりと見えてきます。2周年でもポップアップストアなどの展開が予定されている『クロススターズ』。推しのカードを手にしたファンたちが、笑顔で気軽に対戦テーブルを囲む日は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。