​新R25元編集長が12年で学んだ、組織で伸ばすメディア運営「10の教訓」



ウェブメディアを運営した経験がある方なら、一度は「数字を追っているのに、なぜか現場が疲弊していく」という壁にぶつかったことがあるのではないでしょうか。

元『新R25』編集長の渡辺将基氏が、通算12年以上のメディア運営と試行錯誤から導き出した「10の教訓」。これは単なるPV稼ぎのノウハウではなく、組織とチームでメディアを動かすリーダーや経営者にこそ知ってほしい、極めて本質的な知見の記録です。

現場の熱量を絶やさず、事業として成果を出すための10の指針を紐解きます。

1. メディアの命は「中の人のグルーヴ感」

「事業的に正しいテーマだから」と理屈だけで進めても、メディアはまず立ち上がりません。

新R25の立ち上げ当初、大衆向けに時事ニュースの解説を扱っていました。手堅い戦略に見えましたが、作り手自身の熱量が乗らず、市場の反応も鈍い状態が続いたのです。風向きが変わったのは、ノリ半分で企画したサイバーエージェント藤田晋氏の「お財布事情」に切り込むインタビューでした。吹き出し形式のビジネスインタビューという看板スタイルが生まれ、一気に波に乗ったのです。

事業の目的は欠かせません。しかしそれ以上に、「現場が本当に面白がれているか」という熱量との接点を粘り強く探す必要があります。

2. 立ち上げ期はデータより「手応え」を信じる

初期フェーズで「クリック率が0.2%落ちたからフォントを変えよう」といった微修正を繰り返すのは、ほとんど意味がありません。

立ち上げ期とは、いわば実験期です。バットを短く持って小刻みに当てるのではなく、フルスイングで何度も振り抜く必要があります。うまくいく企画には、数字の小さな変動とは違う、明らかな「手応え」が伴います。「あの記事、読んだよ!」と周囲から直接声がかかるような、肌で感じる熱気です。マネジメント側も細部を締め付けず、メンバーがのびのびとバットを振れる環境を整えることが先決です。

3. メディアに「逆算の計画」は通用しない

営業組織のように、最終目標を因数分解して日々のタスクに落とし込み、きれいに積み上げていく手法はメディアと相性がよくありません。

コンテンツの反響には大きなボラティリティ(波・振れ幅)があります。1本の爆発的なヒットが全体の流れを一変させる世界だからです。最初から整然とした登山ルートを描こうとすると、かえって身動きが取れなくなります。

4. KPI設計に魂を込める(数字には「色」がある)

計画的な積み上げが難しいからこそ、KPIの設計には徹底的にこだわる必要があります。

KGI(最終ゴール):PVや登録者数、売上など。これらは結果指標に過ぎず、チームが直接コントロールしづらいため、日々のモチベーションには不向きです。

KPI(中間指標):現場の行動でコントロールしやすく、チームを鼓舞できる指標を設定します。

新R25では自力で話題を生む力を鍛えるため、検索やニュースアプリ経由ではなく「SNS上で2万PVを超えるヒット記事を月10本出す」というKPIを置きました。週に2〜3本はタイムラインを賑わせる計算です。

数字に色はないと言われますが、そんなことはありません。検索で稼いだ10万PVと、SNSで熱狂的にシェアされた10万PVでは、宿る「色」がまるで違います。その色こそが、メディアのブランドを形作ります。

5. リーダーの仕事は「やらないこと」を決めること

明確なKPIを引くと、必ず「数字を稼ぐための抜け道」が見つかります。「あのインフルエンサーを取り上げれば確実にバズるから」と、同じ人物ばかり取材するようなケースです。

ここで「もっとバランスを考えて」と曖昧に伝えると、メンバーはアクセルとブレーキを同時に踏まされた状態になり、迷ってしまいます。

目標はシンプルに掲げつつ、「これだけは絶対にやらない」という明確な禁止ルールを引く。ストップをかける役割を引き受けることこそが、リーダーの哲学であり美学です。

6. クリエイターの目標は「質を定量化」する

作り手が最も萎えるのは、「月間100万PV」や「月に20本執筆」といった、いわゆる“脳筋目標”を押し付けられたときです。自力で制御しにくい上に、注いだ工夫や仕事の「中身」を評価してもらえないからです。

モチベーションを引き出すには、制作プロセスや反響に根ざした目標を組み合わせる必要があります。

反響目標:「コメント数100件以上の動画をつくる」「経営陣から名指しで褒められる企画を出す」

チャレンジ目標:「新ジャンルの開拓企画を今期5本投入する」「Aランクの豪華ゲストを月5人ブッキングする」

スキル目標:「企画の採用率を上げる」「上司のチェックを一発でクリアする確率を50%にする」

新R25では、制作工程ごとの採点シートを運用し、「平均80点を超えたら一人前として単独進行を認める」といった基準を設けていました。自分の技術が正当に評価されていると実感できて初めて、クリエイターの心に火がつきます。

7. コンテンツは、思っている以上に早く飽きられる

どれほど手応えのある金脈を掘り当てても、読者が飽きるスピードは想像を超えて早いものです。現代のウェブ空間は、コンテンツの激流だからです。

メディア運営は「日常的にリピートされる箱ティッシュ」のような日用品ビジネスとは根本的に異なります。一本の企画がヒットして右肩上がりに伸びている真っ最中に、すでに次の実験を仕込んでおかなければなりません。主力コンテンツが踊り場を迎えたとき、第二の柱が立ち上がっている状態を常に作り続ける必要があります。

8. 「改善」すべきか、「打開」すべきかを見極める

状況が思わしくないとき、私たちはつい慣れ親しんだ「細部のブラッシュアップ」に逃げがちです。しかし、この2つは明確に違います。

改善:すでにうまくいっているものを、さらに伸ばすための微修正

打開:手応えがないときや、明らかな下降トレンドを打破するための根本的な方針転換

雲行きが怪しいときにサムネイルの微調整などの小手先の手当てをしても、下りのエスカレーターを逆走することはできません。停滞を感じたなら、痛みを伴ってでも大きく舵を切る「打開の勇気」が求められます。

9. 広告一本足のビジネスモデルは疲弊する

タイアップ広告だけに頼る収益モデルは、長期的には消耗戦に陥ります。

単発の案件はストックされにくく、同じクライアントを過剰に取り上げ続けることもメディアの信頼性を損ねます。広告枠が埋まるほど、メディアの純度を保つために通常コンテンツの制作本数を増やさざるを得ないという、過酷なデスマーチが発生します。

自社事業への送客、採用ブランディング、会員制コミュニティや有料サブスクリプションなど、最初から「広告以外で成立する収益の柱」を設計しておくことが極めて重要です。

10. 直接効果だけでメディアの価値を測らない

「YouTubeの概要欄リンクから商品が何個売れたか」。

もしその直接的な費用対効果だけでメディアの価値を判断しようとしているなら、そもそもオウンドメディアはやらないほうが賢明です。

メディアの真の価値は、数字の網の目をすり抜ける「波及効果」にこそ宿ります。動画を見たユーザーが後から指名検索して購入する間接コンバージョンや、認知拡大に伴う運用型広告の獲得効率の改善。さらには「メディアを見て応募してきた」という優秀な人材の採用や、番組出演をきっかけにした新しいビジネスアライアンスの創出などです。

これら目に見えにくい価値をどこまで信じ切れるかは、経営陣の胆力とメディアへの理解にかかっています。

メディアを育てるのは、緻密なスプレッドシートではなく、現場の熱量と、それを信じて守り抜くマネジメントの覚悟です。あなたのチームのメディアは今、作り手がワクワクしながらバットを振れているでしょうか。