子ども時代、あの巨大な店内に足を踏み入れた瞬間のワクワク感を覚えている人は多いのではないでしょうか。
おもちゃ専門店の代表格である「日本トイザらス」が2026年10月1日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請しました。負債を抱えての経営破綻です。しかし、同時に発表された救済の枠組みが世間を驚かせました。「ドン・キホーテ」を傘下に持つパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)がスポンサーとして名乗りを上げ、事業を引き継ぐと合意したのです。
PPIHの完全子会社が店舗やオンラインでの玩具・子ども用品事業を承継し、譲渡実行日は10月30日を予定しています。
国内1号店の誕生から約35年。全国に約150店舗を展開する巨人は、なぜ自力再建を断念せざるを得なかったのでしょうか。
理由は明確です。深刻化する少子化に合わせた業態転換の遅れと、EC(ネット通販)との激しい価格競争。これらが重なり、売上低迷と赤字決算が続いていました。実は2017年に米国本社のToys“R”Usが経営破綻した際、日本法人を含むアジア事業は財務的に切り離されていたため、生き残ることができていました。しかしそれから9年、今度は日本市場そのものの構造変化に耐え切れなくなった形です。
とはいえ、トイザらスがただ手をこまねいていたわけではありません。
彼らが起死回生の策として注力していたのが「キダルト(Kidult)」市場でした。キダルトとは、「Kid(子ども)」と「Adult(大人)」を組み合わせた言葉で、フィギュアやキャラクターグッズ、プラモデル、トレーディングカードなどを楽しむ大人たちを指します。
トイザらスは2025年春、ダイバーシティ東京 プラザに通年型のキダルト専門店を開設。その後も京都や横浜などに店舗を広げ、既存店でも中身が分からないコレクション玩具「ブラインドボックス」の扱いを強化するなど、大人の取り込みを急いでいました。蒔いた種が大きく育つ前に時間切れとなってしまった、というのが実情に近いでしょう。
ここで浮かぶのが、「ドンキのPPIHがなぜトイザらスを買うのか?」という疑問です。
単に店舗数を増やしたいだけなら、他にも手段はあります。PPIHの狙いは、トイザらスが築いてきた強力なブランド力と、ファミリー層を中心とした顧客基盤にあります。そこにPPIHが掲げる顧客生涯価値(LTV=一人の顧客が長期的に生み出す価値)の最大化戦略が重なります。子どもが成長して玩具を卒業しても、キダルト向けホビーやエンタメ雑貨へ誘導できれば、顧客との関係は一生続きます。
トイザらスが「ドンキ化」して圧縮陳列の迷路になるかといえば、おそらくそうはならないはずです。PPIHは全店舗の継続営業や全従業員の雇用維持を目指す姿勢を示しており、トイザらスの看板を残しながら中身をアップデートしていく戦略が見え隠れします。
裁判所の許可など越えるべき手続きは残っていますが、この買収は単なる救済にとどまらず、従来型の「子どものための玩具店」が「全世代に向けたエンタメ小売店」へと生まれ変わる契機になるかもしれません。
かつての子どもたちが大人になった今、トイザらスがどんな新しい遊び場を見せてくれるのか。その行方に注目が集まります。