​カリスマの限界をどう越えるか――「代表の会社」から「組織で勝つ集団」へ脱皮する、急成長企業の組織論(タイミー小川嶺 × ナハト安達)


急成長するスタートアップは、いつ創業者の「ワンマンチーム」を卒業し、持続可能な「強い組織」へと生まれ変わるのでしょうか?

創業者の強烈なリーダーシップで急拡大した会社が、必ず直面する「成長痛」や「組織の壁」。それらをどう乗り越え、次のステージへと脱皮していくのか。

今回は、SNSマーケティングを武器に8期目で売上高310億円を突破した株式会社ナハトの取締役・足立氏と、スキマバイトアプリとして東証グロース市場への上場を果たし、社員1,500人規模へと急拡大を続ける株式会社タイミーの代表取締役・小川嶺氏による対談をお届けします。

タイプの異なる2人の若手トップランナーが語る、生々しくも本質的な「組織づくりのリアル」を紐解いていきましょう。


第1章:カリスマ性で走り出す――それはいつ、限界を迎えるのか?

立ち上げ初期の会社を前に進める原動力は、理屈ではなく「創業者の熱量」そのものです。

しかし、そのスタイルは経営者によって実にさまざまです。

タイミーの小川氏は、自ら最前線に立つ「トップ営業型」として会社を牽引してきました。「無名ベンチャーの役員では、大企業の社長には会ってもらえない」と、年間365日のうち実に340日も会食を重ね、あらゆる産業のドアを叩き続けました。自らが広告塔となり、背中で語るシンボルとしてのリーダー像です。

対照的なのが、ナハトの足立氏です。表舞台で引っ張るよりも、方向性を定めて現場を後ろから支える「プロデューサー型」のスタイルを一貫して取ってきました。自らのカリスマ性に頼るのではなく、会社という仕組み自体に資産を残そうとしてきたのです。

アプローチは違えど、創業初期の共通点は「自ら隅々まで把握する執念」でした。足立氏も初期は、クレジットカードの明細を100円単位で自らチェックしていたといいます。

では、そうした創業者の強い牽引力は、組織にとって「武器」なのでしょうか、それとも「リスク」なのでしょうか?

小川氏はこう語ります。楽天の三木谷氏が楽天モバイル立ち上げで先陣を切ったように、あるいはサイバーエージェントの藤田氏がABEMAの立ち上げを自らリードしたように、「中長期で会社の命運を分ける巨大な挑戦をするときや、危機的状況のときには、リーダー自らがカリスマ性を発揮して突破口を開く必要がある」と。

一方で、日常の事業運営まで社長ひとりに依存していては、会社はいずれ頭打ちになります。

小川氏がその限界を痛感したのは、社員数が300人を超えたときでした。「社員全員の顔や性格、家族構成まで把握できなくなる」という感覚が訪れたのです。

車に例えるなら、自分でハンドルを握って全速力で走っていた状態から、複数のドライバーに運転を委ねる段階へのシフトです。小川氏はここから現場への直接の介入を減らし、役員陣へ戦略やカルチャーを権限委譲していきました。

一方、足立氏のスタンスは「リスクの上限をあらかじめ排除した上で、現場にのびのびやらせる」というものです。「ここまでなら失敗しても致命傷にならない」という防波堤を経営陣が先に築き、その内側では現場に裁量を預ける。途中で口を挟むのではなく、事前の環境設計で自由を守るアプローチです。


第2章:組織へと作り替える――「個人の集まり」から「組織で勝つ集団」へ

会社が拡大するにつれて、求められるスタンスは「起業家」から「経営者」へと変化します。

この2つの違いは何でしょうか?

足立氏は、ゼロからイチを生み出すのが「起業家」であり、人・モノ・カネといったリソース(経営資源)をどう分配・運用するかを考えるのが「経営者」だと定義します。

新規事業のアイデアを形にするときは起業家として動き、既存事業の成長を加速させるときはリソースアロケーション(経営資源の最適配分)を行う経営者として俯瞰する。拡大期には、この両方の視点を柔軟に行き来するバランス感覚が求められます。
そして、組織が大きくなるほど「チームのあり方」も再定義を迫られます。

かつてナハトでは「個人ファースト」の空気が強く、比率でいえば個人8割、組織2割のような状態でした。しかし現在では、「組織が51%、個人が49%」という絶妙なバランスを意識しているといいます。「組織が勝つからこそ、個人も勝てる」。まず全体の勝利を目指し、その果実を個人へ還元する文化へと脱皮したのです。

もちろん、組織が急激に大きくなれば「成長痛」も起こります。そこでタイミーを支えたのは、「売上はすべてを癒やす」というシンプルな原則でした。事業が伸び、利益が出ているからこそ、年率約10%に及ぶような昇給で社員に還元できる。業績の成長が、組織の摩擦を乗り越えるエネルギーになったのです。

同時に、人事・評価制度のアップデートも不可欠でした。

ナハトでは当初、成果主義を重視した強いインセンティブ設計にしていました。しかしそれでは、担当するクライアントの規模や市場の運といった「本人の努力以外の要素」で報酬が左右され、不公平感が生じてしまいます。そこで柔軟にボーナス制度を導入し、適正なチューニングを重ねていきました。

タイミーでも、数年後にどれくらいの報酬になるかが見通せるよう、細かな「ミッショングレード制」(担う役割や成果に応じた等級制度)や賞与制度を導入しました。「この会社で長く走り続けられる」という安心感の設計です。


第3章:求める人材の変化と、揺るぎない「カルチャー」

組織のフェーズが変われば、現場に求められる役割も変わります。

タイミーの営業は、かつては「人手不足の解消にスキマバイトを使いませんか」という直球の提案でした。しかし現在では、飲食や物流などの現場に深く入り込み、「何時から何時までタイミーを活用すれば、人時生産性(従業員1人が1時間あたりに生み出す成果)が最大化されるか」を顧客とともに導き出す、高度なコンサルティング営業へと進化しています。

では、そうした進化を支えるために、両社はどのような人材を求めているのでしょうか?

ナハトが掲げる採用基準は、非常にユニークです。それは「やる気・運気・雰囲気」の3点です。

やる気:シンプルに仕事へ前向きであること。

運気:オカルトの話ではありません。「目の前の顧客に誠心誠意向き合うことで、口コミで仕事が舞い込んでくる」といった、自分の認識を超えて良い循環(気)を引き寄せる行動力を指します。

雰囲気:「職場の30人の中で、一緒に飲みに行きたい人を思い浮かべたとき、自然と名前が挙がるような人」。要するに、他者から愛され、信頼される引力のことです。

一方のタイミーが大切にしているのは、「素直でいい人」「向上心」「自社サービスへの愛」の3つです。

お客様が喜んでくれたことを自分の喜びに変え、困っている同僚がいれば自分の目標(KPI)に関係なく手を差し伸べられる人。そして、役職を目指して貪欲に成長しながらも、自社のプロダクトに誇りを持てる人を求めています。

時代や規模が変わっても、両社が絶対に手放さない「カルチャーの芯」があります。
ナハトの根底にあるのは、「関係性の質」へのこだわりです。「月曜日が憂鬱になるような会社にはしたくない」。だからこそ、社員同士が「この人と一緒に働きたい」と思える魅力的な人間関係を大切にしています。

タイミーが守り続けるのは、年齢や役職にとらわれない「フラットで、コトに向き合う組織」です。上司の顔色をうかがうのではなく、常に顧客ファーストで「それは違うのではないでしょうか」と率直に意見を言える環境を重視しています。


第4章:社会から「信頼される会社」へ、そして次世代へ

スタートアップが一時的なブームで終わらず、社会から真に「信頼される企業」になるために必要なものは何でしょうか?
足立氏の答えは極めて明快です。「成果、結果、そして規模感」です。電通や博報堂、サイバーエージェントにも社員500人の時代があったように、社会に対するインパクトと実績を残し続けることこそが最大の信頼につながると語ります。

小川氏が見据えるのは、「質の高い成功事例の蓄積」です。単なる人手不足の穴埋めにとどまらず、「タイミーをきっかけに正社員採用へつなげる」「業務を切り分けて既存社員の残業を減らす」といった成功事例を世の中に発信し、サービスの社会的価値(格)を高めていくフェーズに入っています。

対談の最後、2人はこれから社会に出る若い世代へ向けたメッセージを残してくれました。

足立氏は、自身の体験を振り返りながらこう語ります。「自分が楽しいと思える趣味のような領域が、意外と仕事になることがある。世の中にはたくさんの会社があるからこそ、自分が本当に情熱を注げる場所を見つけてほしい」と。

小川氏は、激動の時代を生き抜くための選択肢を提示します。「AI時代において最も大切なのは、どこでも通用する『自力』をつけること。経営陣との距離が近く、若いうちから責任あるプロジェクトを任せてもらえるような成長企業に飛び込むことは、自力を鍛える上で素晴らしい選択肢になるはずです」。


まとめ:カリスマを越えて、仕組みと人で勝つ

「個人の力で立ち上げ、組織の力で勝つ」。

言葉にするのは簡単ですが、その過程には、権限移譲の葛藤、制度の歪み、求められる役割の変化など、数え切れない試行錯誤が存在します。

創業者が自らの役割を柔軟に定義し直し、現場が自律的に走れる環境を整えること。そして、組織が大きくなっても「人が人を惹きつけるカルチャー」を守り抜くこと。
急成長の階段を駆け上がる2社の歩みは、これからの時代に強い組織をつくろうとするすべてのビジネスパーソンにとって、多くの示唆に富んでいます。