ゲーム業界の現場では今、何が起きているのでしょうか。
今回は、最近業界内外で大きな波紋を呼んだ3つのトピック――「経営陣はゲームを遊んでいるのか問題」、「企画のミスマッチで散った新作ロボットゲーム」、そして「大作タイトルの天文学的な開発予算の噂」について、開発現場のリアルな実態を交えながら掘り下げていきます。
1. 「上層部は自社のゲームを遊ばない」――原田氏の発言が浮き彫りにした業界の病理
まず最初の話題は、『鉄拳』シリーズを30年以上にわたり手掛けてきた原田勝弘氏による発言です。原田氏はバンダイナムコを退職後、サウジアラビアのオイルマネーを背景に持つSNKが出資した新拠点「VSスタジオ」の代表に就任しました。
海外メディアのインタビューにおいて、原田氏は「日本の大手ゲーム会社の上層部は自社開発のゲームを一切プレイしない。完成版はおろかプロトタイプすら触らない」という趣旨の指摘を行い、SNSを中心に大きな議論を巻き起こしました。
この言葉だけを切り取ると、「経営者失格だ」と感情的な批判に走りたくなるかもしれません。しかし、問題の本質はもっと根深いところにあります。
そもそも、多忙を極める経営陣がすべてのゲームを自ら遊び尽くすのは現実的ではありません。世の中には星の数ほどゲームが存在し、1本のクリアに数十時間かかることも珍しくないからです。料理店のオーナーがすべてのメニューの調理法を熟知していなくても、腕利きの料理長を雇えば店が回るように、ゲーム作りも分業制で成り立っています。プログラミングはプログラマーへ、デザインはデザイナーへ任せればいいはずです。
問題は、「誰が本物で、誰が偽物か」を見抜く目利きが経営陣に備わっていないことにあります。
たとえば、過去の大ヒット作に関わった経歴を持つ人物がいたとします。その人は本当に現場を牽引した中核メンバーだったのか、それとも単に名前を連ねていただけの「お荷物」だったのか。2Dゲームでの実績があっても、全く勝手の異なる3D大作を指揮できるのか。ゲームの本質を理解していない上層部には、そうしたリスクを判断する解像度がありません。「人柄が良いから」「酒の席で気持ちよく話せるから」といった属人的な印象だけで重要な決断を下してしまうのです。
その結果、莫大な予算を注ぎ込んだプロジェクトが迷走し、資金が水泡に帰す「大事故」が起きます。バンダイナムコの『BLUE PROTOCOL(ブループロトコル)』などは、その典型例と言えるでしょう。
ゲーム開発費が高騰し、インフレも重なる現代において、この構造的な欠陥をどう解決すべきでしょうか。経営者自身が筋金入りのゲーマーとして判断力を磨くか、あるいは任天堂のように現場の感覚を持った優秀な人材を正しく登用・信頼する体制を作るか。その二者択一が迫られています。
2. 『SYNDUALITY Echo of Ada』のサービス終了に見る「文化の食い合わせ」
続いては、同じくバンダイナムコが手掛けたメカアクションゲーム『SYNDUALITY Echo of Ada(シンデュアリティ エコーズ オブ エイダ)』の話題です。
本作は実質的なオンラインサービス終了を発表し、オフライン専用タイトルへと移行することになりました。Steamでの同時接続者数は初動の約3,600人から170人規模にまで落ち込んでおり、厳しい結末を迎えました。
なぜ、ここまでの失速を招いてしまったのでしょうか?
最大の原因は、「ロボット愛好家の文化」と「PvPvE脱出シューター」というゲーム性の致命的なミスマッチにありました。
PvPvE(プレイヤー対プレイヤー対敵AI)脱出シューターとは、危険な戦場に潜入して物資を集め、生還を目指すジャンルです。人気作『Escape from Tarkov(タルコフ)』に代表されるように、「倒されたら持ち込んだ装備をすべて失う(全ロスト)」という極限の緊張感が醍醐味となっています。
しかし、ロボットを愛するプレイヤーの心理を想像してみてください。
ガンダムの「愛機」やガンプラに象徴されるように、ロボットファンは丹精込めてカスタマイズした自分の機体に強い愛着を注ぎます。丹精込めて仕上げた大切な宝物を、見知らぬ他人に理不尽に破壊され、そのまま奪い去られる――そんな体験を歓迎できるはずがありません。案の定、プレイヤーからは「怖くてお気に入りの機体で出撃できない」「理不尽すぎる」という悲鳴が上がりました。
ミリタリー系シューターであれば「銃を奪われた」で済む話が、ロボットという題材では心へのダメージが大きすぎたのです。
開発陣も途中で軌道修正を図ったものの、限られた予算と開発トラブルのなかで、シングルプレイ専用(PvE)として耐えうる膨大なボリュームを用意することはできませんでした。対戦要素を主軸に据えるのが最も手っ取り早い解決策だったのでしょう。
皮肉なことに、オフライン化によって「全ロストの恐怖」から解放されるため、残ったファンにとっては高級な機体を気兼ねなく乗り回せる歓迎すべき環境になるかもしれません。
3. 小島秀夫監督の新作『PHYSINT』――噂される「4億ドル」の真相
最後は、小島秀夫監督が発表した次世代アクションエスピオナージ(スパイアクション)タイトル『PHYSINT(フィジント)』を巡る予算の噂です。
海外メディアを中心に、「小島監督が当初ソニーに提示した制作予算は4億ドル(日本円で約600億円規模)に達しており、ソニーがこれを払いきれなかったのではないか」という報道が飛び交いました。マイクロソフト(Xbox)との契約に関しても様々な憶測がなされています。
東京ゲームショウ(TGS)期間中、都内のバーやパーティー会場では、海外記者たちの間で「3億ドルから6億ドルの間で数字が飛び交っている」と話題になっていました。
では、この「4億ドル」という数字はどこまで信憑性があるのでしょうか。
結論から言えば、数字そのものは話半分に受け止めるべきですが、桁外れの規模を求めていたこと自体は事実と考えられます。
ゲームの開発費というものは、集計の仕方によって大きく変動します。
純粋なソフトウェア開発費だけなのか
世界規模の宣伝広告費(マーケティング費)を含んでいるのか
映画やアニメといったメディアミックス展開まで見据えた長期総予算なのか
条件次第で、見積もりは倍近く跳ね上がります。かつて『ブループロトコル』の開発費が当初の100億円から最終的に300億円規模まで膨らんだと噂されたように、初期の提示額と着地点には往々にしてズレが生じるものです。
小島プロダクションがソニーとの交渉を経て、スタジオ存続のために条件を調整した可能性は十分にあります。いずれにせよ、世界トップクラスのクリエイターが手掛ける挑戦には、国家予算並みのリスクとリターンが渦巻いていることは間違いありません。
まとめ
世界的なゲーム不況とスタジオ閉鎖が相次ぐなかで、中東のオイルマネーが業界に新たな風を吹き込み、一方で企画やマネジメントの判断ミスが巨額の損失を生み出しています。ゲームが巨大産業へと成長したからこそ、ビジネスとクリエイティブの舵取りはかつてないほど難しくなっています。
変化の激しいこの業界の行方を、今後もじっくりと見守っていきたいところです。