企業の決算資料を開くと、無機質な数字や聞き慣れない専門用語がずらりと並んでいて、思わずページを閉じたくなった経験はありませんか?
今回は、株式会社ドリコムの「2027年3月期 第2四半期決算説明資料」(目次:1. 2027年3月期 第2四半期 業績概況、2. 2027年3月期 通期業績予想、3. 中期的に目指す姿(〜2031)、4. Appendix)の内容を、ひとつの物語を読み解くようにわかりやすく紐解いていきます。
1. 「売上は微減、でも利益は3割増」のカラクリ:通期業績予想の修正
まずは一番のビッグニュースから見ていきましょう。ドリコムは2026年10月29日、上期(4月〜9月)の実績と足元の進捗を踏まえて、1年間の成績見通しである「2027年3月期 通期業績予想」を修正しました。
2026年5月12日に公表された期初予想と今回の修正予想を比べると、売上高は当初の180億円(18,000百万円)から175億円(17,500百万円)へと、5億円(▲2.8%)引き下げられています。しかし、本業の儲けを示す「営業利益」は10億円(1,000百万円)から13億円(1,300百万円)へと3億円(+30.0%)も引き上げられ、そこに財務上の損益などを加味した「経常利益」も、9億円(900百万円)から11億5,000万円(1,150百万円)へと2億5,000万円(+27.8%)増額されました。
まさに、鮮やかな「減収増益」への転換です。
売上の見通しが下がったのに、利益が3割も増えるなんて、少し不思議に思いませんか?その秘密は、売上の「中身」と「お金の使い方」の変化にあります。上期を振り返ると、自社で配信しているゲームタイトルは堅調だったものの想定の売上には届かず、他事業の計画見直しもあって全体の売上予想は少し控えめに修正されました。一方で、他社が配信を担当する主力タイトルが想定を上回って好調に推移したのです。こうした売上構成の変化に加え、アプリ課金時などに発生する「決済手数料」が減ったことで採算性がグッと良くなり、さらに広告宣伝費をムダなく効率的に運用できたことが、上期の営業利益を大きく押し上げました。なお、経常利益については、営業利益が増えた一方で、新しい借り入れに伴う手数料や支払利息が増加したことが反映されています。
身近な例でたとえるなら、レストランの来店客数が少し減って売上総額は下がったものの、利益率の高い看板メニューがよく売れ、食材のロスやチラシ代を賢く抑えた結果、店主の手元に残るお金が大幅に増えたような状態です。個人的には、単に規模を追うだけでなく「しっかり利益を残せる体質」へと筋肉質に進化している様子が見て取れる、非常に頼もしい修正だと感じます。
2. 主力ゲームの2周年ラッシュと、未来の種をまくコンテンツ事業
では、現場のビジネスは今どう動いているのでしょうか。まずは会社の柱であるゲームの状況から覗いてみましょう。
大きなイベントの谷間、いわゆる「端境期(はざかいき)」となった第2四半期(2Q:7月〜9月)には、コラボ企画を実施して売上が前年比+11.7%と健闘したものの、社内が目指していた高い水準には一歩届きませんでした。少し悔しい結果ですね。
しかし、第3四半期(3Q:2026年10月〜)に入ると空気が一変します。10月15日から主力タイトルの「2周年施策」がスタートし、これまで遊んでくれた多くのユーザーへの感謝を込めてキャンペーンやクエストの追加などを実施したところ、これが好調な滑り出しを見せたのです。10月1日から10月28日までの売上速報値は、なんと15億円。前年の同じ期間(10月1日〜28日の12.9億円)と比べて+16%という力強い伸びを記録しています。
続いて、ゲーム以外の領域を束ねる「コンテンツ事業セグメント(出版・アニメ事業、その他)」の2Q累計(上期)の成績に目を向けてみます。この部門の売上高は、前年同期(2026年3月期 2Q累計)の3億2,400万円(324百万円)から、今期(2027年3月期 2Q累計)は4億3,800万円(438百万円)へと大きく伸びました。一方で、営業損益は前年の4億5,900万円の赤字(▲459百万円)から、5億円の赤字(▲500百万円)へと損失幅が少し拡大しています。
売上が伸びているのに赤字が増えた理由は、各分野の内訳を見るとスッキリ納得できます。
- 出版:上期はコミック17点・ノベル(小説)8点の計25点を刊行し、前年同期と同水準のペースを維持しています。売上も前年並みで推移しており、今後は下期、特に年度の締めくくりとなる第4四半期(4Q:1月〜3月)を中心に多くの刊行を計画しています。
- アニメ:前年同期と比べて増収となったものの、制作に出資したお金を期間ごとに費用として計上する「出資金の償却費」などにより、費用も増加しました。
- MD(マーチャンダイジング):MDとは、キャラクターや作品の知的財産である「IP」を使ったグッズ化などのビジネスのことです。他社IPを中心としたグッズの企画販売が好調で、前年同期から売上が大きく伸びています。
- テクノロジー活用(その他):現在は歩数などに応じてポイントが貯まる「ウォーキングポイントアプリ」を運用中であるほか、新規オンラインくじサービス「くるくじ」を開始しました。これらは開発や運用の体制を整えるための投資が先に発生する「費用先行」の段階にあります。
つまり、出版が安定して走り続け、MDやアニメが売上を押し上げたものの、新しい事業領域への「種まき(先行投資)」にお金をかけているため、一時的に損失が拡大しているのです。果樹園で言えば、今ある木からリンゴを収穫しながら、隣の畑を耕して新しい果物の苗木を植えている時期と言えるでしょう。
3. 2031年に向けた成長戦略:IPの量産と「AI×人間」の新しい組織づくり
こうした足元の動きを踏まえて、ドリコムは2031年までの「中期的に目指す姿」として、どのような未来図を描いているのでしょうか。ここで鍵を握るのが、「IP(知的財産)の創出」と「AIを前提とした組織への転換」という2つのテーマです。
ドリコムは現在、注力するIPへ投資して売上規模を拡大し、広告宣伝投資の最適化や不採算タイトルの赤字幅縮小を進めています。また、先行投資の費用がかさむ分野についても、多くの小さな挑戦から新しい作品を生み出し、ヒット作品やアニメなどのメディア化作品を増やすことで収益を改善しようとしています。
会社の成長を測る目標値である「KPI(重要業績評価指標)」として掲げられている、各ジャンルのIP創出状況は以下の通りです。
- PC・コンソール(家庭用ゲーム機)ゲーム:小〜中規模で自社開発するタイトルと、社外クリエイターと協働する「DRECOM CREATORS STUDIO」のタイトル(移植タイトルは除く)を推進しています。インディーゲームスタジオで新たに販売・配信(パブリッシュ)する3タイトルを発表したことで、上期に開発中が3本増え、現在は「発売済1本・開発中5本」となりました。期末には「発売済2本・開発中6本」を目指します。
- ノベル:上期に4シリーズを創出し、累計55シリーズに達しました。下期は4Qを中心に刊行し、期末目標の74シリーズを追いかけます。
- コミック:主に第1四半期(1Q:4月〜6月)に、「ドリコミ+」の創刊に合わせたオリジナル作品を中心に新シリーズを生み出し、上期に8シリーズ増えて累計31シリーズとなりました。こちらも下期は4Q中心の刊行計画で、期末目標の52シリーズを目指します。
- MD(グッズ化事業)の位置付け:IPを収益化する手段(ポートフォリオ)をゲーム以外にも拡大することで、自社IP・他社IPを問わず幅広く収益化し、案件数を増やせる事業として位置付けています。
これだけの数の作品を次々と世に送り出すには、相当なエネルギーがいりますよね。そこで最後にご紹介したいのが、個人的に最も注目している「AIを前提とした組織への転換」です。
ドリコムは1Qに示した大方針として、「意思決定に集中し、産み出すスピードを高める」「クリエイティブに集中し、より良いコンテンツを産む」「AIを活かせる人材の採用を強化し、より多くの成果を目指す」という3つの柱を掲げています。
ここでとても人間味があって素敵だなと感じるのは、「クリエイティブな領域の作品づくりは人が担う」と明確に一線を引いている点です。作品そのものをAIに丸投げするのではなく、外部業務などをAI活用で効率化し、収益性とスピード、そして投資効率を高めようという戦略なのです。
数字で見ると、その本気度がよくわかります。前年度(2026年3月期)の年間の固定費(ゲーム開発費の資産計上額▲を差し引いた後の合計額)は117億円ありました。内訳には、労務費(人件費)、研究開発費、減価償却費のほか、外注費及び原材料仕入高、広告宣伝費、その他費用が含まれています。ドリコムは、このうち外注費・原材料仕入高や、広告宣伝費・その他費用の一部にあたる約40億円分の領域を、AIで効率化する対象に定めました。具体的には、開発業務、ゲームのバグなどをチェックする品質管理(QA)、カスタマーサポート、海外向けに翻訳するローカライズ、データ分析・集計、マーケティング、そして管理事務といった幅広い業務がターゲットです。
これはまるで、一流レストランのシェフが「新しいレシピの考案」や「最後の繊細な盛り付け」という人間にしかできない創造的な仕事に100%集中できるよう、野菜の下ごしらえや在庫管理、お皿洗いを最新のスマート家電に任せるようなものです。人が心を動かす物語を作り、AIがそれを支える。そんな次世代のエンタメ企業の姿が見えてきませんか?
もちろん、ビジネスの世界には不確実性がつきものです。企業を取り巻く経済情勢や社会的動向、提供するサービスに対する需要動向による相対的な競争力の変化など、これらに限らず業績に影響を与えうる重要な要因(リスク)は常に存在します。だからこそドリコムは、非財務情報を含めた開示の充実を図り、株主や投資家との真摯な対話やIR活動を大切にする姿勢を打ち出しています。足元の利益をしっかり固めながら、AIという新しい翼を得て数多くの物語を世に送り出そうとする同社の挑戦に、これからも注目していきたいところです。
