昨年の秋ごろ、ドリコムの株をめぐる空気は、まさに「一触即発の綱引き」のような状態でした。
2025年9月末の時点では、値上がりを期待して借金で買う「信用買い残」が約210万株。それに対して、値下がりを見込んで株を借りて売る「空売り勢(信用売り残+機関投資家などの貸付残)」も約211万株。株価450円〜470円あたりを舞台に、買い方と売り方がほぼ1対1の同数に組み合っていたのです。
ところが、そこから約10ヶ月が経った2026年7月、その景色はすっかり様変わりしました。一体、水面下で何が起きていたのでしょうか?
一番大きな変化は、「空売り勢が静かに、しかも大量に撤退した」ことです。
かつて211万株もあった売り残と貸付残の合計は、7月中旬には約82.7万株まで減りました。実に6割近い空売りポジションが解消された計算になります。
特に動きが激しかったのが2026年の4月から5月にかけてです。大口の投資家が借りていた株を1週間で20万株単位でゴソッと返却(買い戻し)する場面が相次ぎ、5月中旬にはその買い戻しの勢いも手伝って、株価が一時459円まで跳ね上がりました。
これまで株価の頭を上から強く押さえつけていた「売り崩しの重し」が、春から初夏にかけてすーっと軽くなっていったわけです。
では、もう一方の「買い方」はどう動いたのでしょうか。
個人の信用買い残は、昨年11月に記録した約219万株というパンパンに膨れ上がったピークから、少しずつダイエットを続けています。
直近の7月17日時点では約169.5万株まで減り、ピークから約50万株(2割強)の整理が進みました。特にここ1ヶ月ほどは4週連続で減っており、株価が400円前後で足踏みを続けるなかで、「もう待ちきれない」と荷物を下ろした人たちが一定数いたことがうかがえます。
「空売りが6割も減って、買い残も順調に減っている。じゃあ、ここからは邪魔者なしでスルスル上がるんじゃない?」
そう思いたくなるところですが、相場の需給というのは少しひねくれた一面を持っています。
たしかに、しつこく売り浴びせてくる相手が減ったのは間違いなくプラス材料です。ただ、空売りが減ったということは、裏を返せば「株価が上がったときに、慌てて買い戻す人たち(=踏み上げの燃料)」もピーク時の4割程度まで減ってしまったということでもあります。
ロケットでいえば、邪魔な向かい風は止んだものの、爆発的に加速するためのブースター燃料もだいぶ使い果たしてしまった状態です。
しかも、買い残が50万株減ったとはいえ、まだ約169.5万株が残っています。82.7万株まで減った売り方と比べると、まだ買い方のほうが約2倍も多い「買い長(かいなが)」のバランスなのです。
これをエレベーターに例えるなら、超満員だった状態から何人か降りて少し息はしやすくなったけれど、まだ定員オーバー気味で、ワイヤーがちょっと重そうに軋んでいる……そんなイメージに近いかもしれません。
特に、昨年秋から冬にかけて買い残が200万株を超えていた頃の株価(420円〜460円あたり)には、「買値に戻ったらすぐにでも売ってプラマイゼロで逃げたい」と待ち構えている人たちがまだたくさんいます。株価がこのゾーンに近づくと、「やれやれ、やっと戻った」という戻り売りが上からパラパラと降ってきやすいのです。
空売りによる激しい攻防戦が一巡し、嵐の後の静けさに入った現在のドリコム。ここから420円〜460円の「見えない天井」を突き抜けていくには、空売りの買い戻し頼みではなく、純粋に「この会社の株を長く持ちたい」という新しい現物買いのお金がどれだけ入ってくるかが一番のカギになりそうです。
この需給の変化を踏まえて、最近の出来高(1日の売買の盛り上がり)に対して残りの買い残がどれくらいのペースで消化されそうか、さらに掘り下げて見てみます。
ドリコム(3793)の信用買い残1,694,600株(2026年7月17日時点)について、実際の出来高データと照らし合わせると、「平常時の商いではかなり重いが、出来高が15万〜20万株を超える局面では急速に軽くなる」という二面性が見えてきます。
需給の重さを測る代表的な指標である「出来高倍率(信用買い残 ÷ 1日平均出来高)」と、実際の返済ペースから消化日数を算出して分析します。
# 1. 出来高から見た「需給の重さ」の実測データ
2026年7月以降の実際の商い(東証グロース市場の日次出来高データ)を見ると、時期によって1日の出来高に大きな波があります。
* 評価:出来高が1日12万〜20万株規模に膨らんだことで、需給の体感的な重さは7月中旬の約3分の1〜4分の1まで劇的に軽減されています。
# 2. 「実質的な消化日数」のシミュレーション
実際の市場では、1日の出来高のすべてが「信用買いの返済売り」になるわけではありません(現物の売買やデイトレード、新規の信用買いが含まれるため)。
一般的に、日々の出来高のうち「既存の信用買い残の純減(実質的な消化)につながる割合」は出来高の10%〜20%程度と推計されます。
この前提で、約169.5万株の買い残が「適正水準(100万株前後=約70万株の削減)」および「半減(約85万株の削減)」に至るまでの期間を計算すると以下のようになります。
## 3. 価格帯別の「しこり」と回転が効くライン
なぜ7月中旬に出来高が5万株まで細り、その後8月〜9月にかけて出来高が10万〜30万株へ増えて株価が500円台へ動いたのか、需給の構造から3つのポイントが挙げられます。
1. 400円〜420円台は「投げ売りが出にくい膠着ゾーン」
7月中旬のように株価が410円〜420円で横ばいの時は、含み損を抱えた信用買い方が「損切りもせず、ただ耐える」状態になるため、出来高が5万株程度まで枯渇します。このペース(週3.3万株減)だけでは、需給改善に半年近くかかってしまいます。
2. 450円〜500円突破で「やれやれ売り」が一気に回転する
2025年秋〜冬にかけて信用買い残が200万株を超えていた時の中心価格帯が430円〜470円です。8月下旬〜9月のように株価がこのゾーンを抜けて500円台に乗せると、長期間捕まっていた買い方の「建値撤退(やれやれ売り)」と「新規の買い」がぶつかり、1日の出来高が15万〜30万株へ急増します。この状態に入ると信用買いの回転(新陳代謝)が一気に進み、実質1〜2ヶ月で上値のしこりが溶けていきます。
3. 制度信用の6ヶ月期日(2026年5月・6月買い分の期日到来)
2026年5月中旬(株価459円へ急騰した週)や6月中旬(株価390円台で買い残が増えた週)に作られた信用買いポジションは、2026年11月〜12月にかけて制度信用の返済期日(6ヶ月)を迎えます。株価が500円前後を維持できていれば利益確定としてスムーズにこなされますが、400円台前半に押し戻された場合は期日売りが上値を抑える要因になります。
昨年の秋から冬にかけて、ドリコムの株価の上には、まるで「4つの巨大な漬物石」が乗っかっているような息苦しさがありました。
株価が少し頭をもたげようとするたびに、外資系や国内大手の機関投資家が上からグッと空売りを浴びせて押さえ込む。個人投資家からすれば、「どれだけ業績や材料に期待しても、この大口たちがいる限り上がらないのでは……」とため息が出そうな展開が続いていたのです。
ところが、その重苦しい漬物石が、実はここ半年ほどの間にひとつ、またひとつと静かに取り除かれていたとしたらどうでしょう。
まず最初に動いたのは、JPモルガン証券でした。昨年末(2025年12月22日)、株価が400円を割り込んで396円の底値をつけたタイミングで、いち早く買い戻しを完了して「保有割合0.5%未満(報告義務消失)」へと撤退したのです。年が明けた1月中旬には、彼らが返却したとみられる株券(貸付残)が30万株以上も一気に減り、最初の重しが外れました。
続いて動いたのが、ゴールドマン・サックスです。株価が400円前後でしぶとく踏みとどまり、「これ以上は簡単に下がらないぞ」という底堅さを見せた今年3月末(2026年3月27日)、彼らも0.5%未満へと手を引きました。直後の4月上旬には、わずか2週間で33万株を超える貸付残がゴソッと減り、5月中旬に株価が459円まで跳ね上がるきっかけを作っています。
さらに6月23日には大和証券が撤退。そしてついに8月13日、株価が460円台を固めるなかで、最後まで残っていた大ボス格のバークレイズ証券も報告義務ライン(0.5%)を下回りました。
つまり、昨年の秋からドリコムの頭を押さえつけていた主要な機関投資家は、この8月中旬をもって「全員が表舞台から姿を消した」のです。
では、最後の重しが外れたあと、株価はどうなったでしょうか?
また、株価が上がったところで、機関投資家は再び「モグラ叩き」のように売りを仕掛けてきているのでしょうか?
答えは、その後の株価の動きが何よりも雄弁に物語っています。
バークレイズが撤退した8月13日(終値463円)の直後から、ドリコムの株はまるで重りから解放された気球のようにスルスルと高度を上げ始めました。
わずか2週間後の8月25日には節目の500円を突破し、9月17日には568円まで到達。最後の機関投資家が去ってから、一気に2割以上も駆け上がったのです。
途中で30万株を超える大商いとなって490円まで押し戻される日(9月2日)もありましたが、その場面でも、0.5%を超えるような大口の空売り報告は一件も出てきませんでした。
つまり、最近の株価の揺れは機関投資家による攻撃ではなく、長らく400円台で捕まっていた個人投資家の「やっと買値に戻ったから売ろう」「少し利益が出たから確定しよう」という、ごく自然な新陳代謝(回転)だったわけです。
なぜ、500円を超えてきたのに機関投資家は再び売ってこないのでしょうか?
それを理解するカギは、空売りファンドを「獲物を狙うハンター」に置き換えてみるとよく分かります。
彼らが大挙して押し寄せた昨年の秋は、個人の信用買い残が約219万株とパンパンに膨れ上がっていました。
ハンターからすれば、「木を少し揺らせば、借金で買って耐えきれなくなった個人投資家の投げ売り(損切り)がボロボロ落ちてくる」という、極めて狩りやすい状態だったのです。
しかし今はどうでしょう。個人の信用買い残はピークから50万株以上も減って身軽になり、しかも「400円付近には固い岩盤がある」ことが半年かけて証明されました。さらに1日の出来高も15万〜20万株へと増え、買い方の体力も回復しています。
いま無理に空売りを仕掛けても、以前のように簡単に株価が崩れるどころか、逆に買い戻しを迫られて火傷をするリスクのほうが高い――だからこそ、機関投資家は手を出さずに様子を見ているのだと考えられます。
「じゃあ、もう機関投資家の影は1ミリも気にしなくていいの?」
そう言い切りたいところですが、相場にはひとつだけ知っておきたい「死角」があります。それは、東証の空売りルールが「発行済株式数の0.5%以上(ドリコムなら約14万〜15万株以上)しか名前が公表されない」という点です。
レーダーに映らない海面スレスレを飛ぶ飛行機のように、いくつかのファンドが「0.4%(約11万株)」といったギリギリのサイズで、こっそりポジションを残している可能性まではゼロと言い切れません。
実際、7月中旬時点でも、空売りのタネになる「貸付残」は約72万株残っていました。
もし今後、機関投資家が再び牙をむくとしたら、どんな前兆が現れるのか。最後に、これからの相場を見るうえでチェックしておきたい「3つの警戒サイン」を整理しておきます。
* サイン①:株価550円〜600円台での「名前」の再浮上
株価がさらに上がって過熱感が出たとき、「空売り残高」ページにゴールドマンやバークレイズ、モルガン・スタンレーといった見覚えのある名前が「0.5%以上」として再びひょっこり現れないか。
* サイン②:毎週の「貸付残」のひそかな増加
0.5%未満の「ステルス空売り」が集まると、ファンドの名前は出なくても、週1回発表される日証協の「貸付残(基準は72万株前後)」が先に増え始めます。ここが週に5万〜10万株ペースで2週連続して増えるようだと、水面下でタネが撒かれているサインです。
* サイン③:個人の「信用買い残」の急増(一番のエサ)
機関投資家が何より好むのは、高値圏で個人投資家が再び強気になって信用買い残を積み上げたタイミングです。株価500円台で、せっかく169万株まで減った買い残が再び180万株、200万株へと膨らみ始めたら、ハンターを呼び寄せるエサになりかねません。
長かった機関投資家との我慢比べを乗り越え、ようやく自分の足で歩き始めたドリコムの株価。上記の3つのサインにだけ少し目を配りつつ、現在の活発な出来高を保ったまま500円台の足場を固められるかどうかが、次のステージへ進むための見どころになりそうです。