DMM.com会長の亀山敬司さんと、人気YouTuberのスーツさんが交わした雑談には、ビジネスで長く生き残るための知恵と、人生を軽やかに楽しむためのヒントが驚くほど詰まっていました。
1. 「100億円」より「上げすぎない」が楽?急成長の落とし穴と3本の矢
ビジネスでもYouTubeでも、急激に伸びた後の「立ち回り」は実に難しいものです。実業家の堀大輔さんの動画が反響を呼ぶ中、スーツさんは亀山さんに「急成長した後はどう振る舞えばいいのか」と問いかけました。
亀山さんの答えは、実にリアルでした。会社というものは、一度急上昇して少しでも下がると、世間からすぐに「落ちぶれた」と言われてしまうのです。たとえば、売上が100億円まで行った会社が50億円に下がったとします。客観的に見れば50億円でも十分にすごい規模のはずなのに、なぜか売上10億円規模の人から「あそこはもうオワコン(終わったコンテンツ=時代遅れ)だよね」と揶揄されてしまうのです。言われた本人も、気持ち的に落ち込んでしまいますよね。
だからこそ、「あまり無理に上げすぎない方が、個人的には楽なんだよ」と亀山さんは語ります。ただ、一度でも「100億」という頂上の景色を見てしまうと、自分の意識を抑えるのは難しいもの。上がってしまったら、もう仕方がないのかもしれません。まるで、一度スピードを上げたジェットコースターを途中では止められないような感覚でしょうか。
では、当のスーツさんは今、どんな軸で未来を見据えているのでしょうか。彼は現在、「3つの希望(柱)」を育てようとしています。
1つ目:まだまだ伸びしろのある自身の旅行チャンネルで、しっかり数字を大きくすること。
2つ目:社員の皆さんに稼いでもらい、自分自身のキャラクターに依存しない「再現性のある事業」を作ること。
3つ目:英語を話して、海外の視聴者にも動画を見てもらうこと。
日本人向けに特化すれば規模は大きくなりますが、もし飽きられてしまったら、そこで道がプツッと途絶えて終わりになってしまいます。電車の路線が1本しかなければ、運休した瞬間に身動きが取れなくなるのと同じです。だから、今のうちに英語などの「種まき」を10個ほどしておき、3年後くらいに何か1つでも芽が出ればいいと考えているそうです。
亀山さんもこの姿勢に深く頷きます。今すぐには必要なくても、「後々のことを考えたらやっておいた方がいいこと」に手を打っておく。それこそが、状況が悪くならないための本当の危機管理なのです。
2. 「ドパガキ」的な刺激の先で見つかる、何気ない日常の尊さ
世の中には、若者にアドバイスをしたがる年長者がたくさんいます。しかしスーツさんは、そうした周囲の声はあまり参考にせず、「亀山さんの言っていることを聞いておけば、たぶん大丈夫だろう」と信頼を寄せています。
その理由は、単にお金を持っているからではありません。亀山さんがいつも「俺は毎回面白いよ」と語り、人生を楽しみながら、結果的にお金も稼いでいるからです。
日本有数の資産家になった気分について聞かれると、亀山さんは「『ちょっと嬉しい』の連続かな」と表現しました。爆発的な幸福というより、小さな喜びの積み重ねが大事だというのです。実際に最近の亀山さんは、「やったことがないことをやってみよう」をテーマに、過酷なフィットネスレースである「HYROX(ハイロックス:ランニングと筋力トレーニングを組み合わせた室内競技)」に挑戦しようとしたり、ドラマに1回だけ出演してみたり、キャバクラに行ってみたりと、初めての経験を無邪気に楽しんでいます。2回目は行かないかもしれませんが、「1回目を味わう楽しさ」には確かな価値があります。
ここで話題に上がったのが、「ドパガキ(ドーパミン中毒のガキ:次々と強い刺激や快楽ばかりを追い求める状態を指すネットスラング)」という言葉です。スマートフォンのショート動画は、指でスクロールして新しい画面が次々と現れる瞬間そのものが面白いですよね。1時間のドラマをじっくり見たいわけではないけれど、「こんなものがあったのか!」という発見が楽しくて、退屈しのぎも兼ねて次々と新しいことを試してしまう。
ただ、面白いなと感じるのはその先です。そうやって刺激を求めてあれこれ試していると、たまに「あ、これはずっと続けてもいいな」と思えるものが見えてきます。それが何かというと、意外にも「日頃の日常」なのです。
もし明日、地球が滅亡するとしたら、皆さんは後悔しますか?
スーツさんも亀山さんも、「後悔はまったくない」と言い切ります。地球ごとなくなるなら何かを残す必要もないし、亀山さんに至っては、滅亡の日でもいつも通りプールに行ってテレビを見て過ごすだろうと笑います。逆に「地球が無限に続きますよ」と言われた方が、「生きている間に何か成し遂げなきゃ」と焦るかもしれない、という視点は実にユニークです。
一方で、もし「余命1年」と宣告されたらどうでしょうか。スーツさんは「1年という期限付きで生きる娯楽」として貴重な経験になりそうだと語り、亀山さんは周囲への責任もあるため、残される人に憂いがないよう事業の畳み方を真面目に考えつつも、やっぱり基本は「日常」を過ごしたいと語ります。
朝起きて犬と散歩し、少し仕事をして、プールで泳ぎ、ご飯を食べて友達と飲む。そんな亀山さんの日常も、かつて1年中旅をしていたスーツさんが「一通り興味のある場所を巡り終えた今は、家にいてYouTubeを見たり、亀山さんたちと話して新しい発見をしたりする方が居心地がいい」と語る現在の日常も、結局は「自分が一番そうしたいと思っている状態」に他なりません。刺激を一周した人だからこそ、毎日の白いご飯のような「日常の美味しさ」がわかるのかもしれませんね。
3. 生身の人間(3D)が放つ「光と影」は、AIには奪えない
自宅で動画を見るのも楽しいものですが、今回の撮影で堀大輔さんに直接会ったお二人は、「やっぱり生身の人間は違う」と口を揃えます。
画面の中で平面(2D)として見ていた人が、目の前に立体(3D)の状態で現れる。すると、筋肉の質感や空気感、さらには「人間が本来持つ欲望、光と影(陰影)」が共存している様子まで、圧倒的な解像度で伝わってくるのです。スーツさんはこの体験を通じて、「すべてがAIに置き換えられることはないだろう」と確信したそうです。
確かに、動画の視聴者が見られるのは、カメラの録画ボタンが押された後の姿だけです。しかし現場にいれば、会場入りした瞬間の少しピリピリした緊迫感や、挨拶した時に不器用そうにペコリとお辞儀だけする素の姿、そして目の下に濃いクマを作って自分を追い込んでいるような生々しい人間味に触れることができます。
SNS(旧Twitterなど)で文字を書き込むのとは違い、生身の人間が目の前にいれば、相手の表情を見ながら本人に直接言いたいことをぶつけ、さらに深く突っ込むことができます。「やっぱり生はいいね」という亀山さんの一言には、デジタル全盛の時代だからこそ忘れがちな、対面のコミュニケーションの重みが凝縮されています。
4. 「なぜこれが流行るのか?」理解不能なものを面白がる技術
ところで、亀山さんという人物の不思議な魅力は、相手が若者であれ年上であれ、誰に対しても態度を変えずフラットに接するところにあります(年上には敬語を使うくらいだそうです)。現在29歳のスーツさんでさえ「日々、自分の中に固定観念ができてきている」と感じるのに、なぜ亀山さんは自分の信念や先入観に縛られないのでしょうか。
年齢を重ねて頭が固くなってしまう人は、若者の間で流行っているショート動画や『ちいかわ』、若い女の子の流行り言葉、あるいは美容整形に対する感覚などを見たとき、「なぜこんなものが受けるのか理解できない」とシャットアウトしてしまいます。
しかし亀山さんは、努めてそれらを見るようにしています。それは、自分の感覚と社会の流れをすり合わせる作業であり、何より「まったく理解不能なまま世代間で分断され、その面白さを知らないまま死ぬのが嫌だから」です。若い人たちと一緒に話して楽しめる自分でいたい、という純粋な好奇心ですね。
実は、この「理解不能なものへの歩み寄り」には、ビジネスにおける大きなヒントが隠されています。
コムドットや『ちいかわ』の分析:最初は良さがわからなくても、先入観を捨てて1時間ほどじっくり考えながら見てみると、自分自身が直接ハマることはなくても「こういう物語や論理(ロジック)があるから面白いのか」という構造までは理解できるようになります。
承認欲求の理解:かつてSNSに投稿する人の気持ちがまったくわからなかった亀山さんも、50歳を過ぎてから「なるほど、これが承認欲求というものか」と理解できるようになりました。
あえて関心のないものを見る:亀山さんはNHKの数学の未解決問題に関する番組や、短歌の番組など、普段なら「よくわからない」「こんなの嫌だ」と避けてしまうようなテーマほど意識的に見るようにしています。すると、「数学者は社会をこう捉えているのか!」といった意外な発見があるのです。
物事やビジネスがうまくいく時は、「ここでこうすれば、こうなる」という仕組みやルールが一通りわかっているものです。スーツさんも、自分には理解しがたいものをあえて理解する習慣をつけた結果、「あの流行と同じ構造だから、この動画も伸びているのか」と法則が見えるようになり、自身のYouTubeの数字もさらに伸びていったそうです。分からないものを「分からない」で終わらせない姿勢は、私たちも今日から真似できそうですよね。
5. 「港区女子」の生態系と、狭い世界の罠から抜け出す方法
では、お二人が「どうしても理解できなかったもの」は何だったのでしょうか。スーツさんが挙げたのは、六本木近くにあった以前のオフィスの周辺でよく見かけた「港区女子(東京・港区の華やかなエリアに集まる若い女性たち)」の存在でした。なぜ彼女たちは、美容医療などを駆使して、みんな同じようなお人形さんのような顔になるのでしょうか。
その謎は、「港区女子が大好きなおじさん経営者」と話したことで氷解しました。世間一般からは揶揄されることがあっても、六本木やキャバクラという特定の環境では、そうした「お人形さんのような姿」を好む強い需要があり、そこに適応した結果として供給が成り立つ「エコシステム(生態系=互いに依存し合う仕組み)」が存在していたのです。さらに、女性同士の激しい競争社会の中で勝ち抜くために、極端に痩せたり薬を使ったりと、行動が先鋭化していく構造もありました。
これを聞いたスーツさんは、自分たちYouTuberの世界も同じだと気づきます。「世間一般から見てもらうための作戦」と、「旅行系YouTuberという同業者の中で1位になるための作戦」はまったく別物であり、狭い業界内で抜きん出ようとすると、どうしても極端な過激さに走りがちなのです。
同じ世界にずっと閉じこもっていると、その中の基準がすべてになってしまいます。これを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
答えはシンプルです。「意識的にアルゴリズム(ネット上で個人の好みに合わせて自動的に情報を選び出す仕組み)を壊すこと」です。
私たちが普段見ているYouTubeの画面は、自分の思想や好みが丸裸になるほど偏っており、いわば個人情報そのものです。だからこそ、お二人はこんな工夫を提案しています。
パートナーのスマホを覗く・動画を送り合う:妻が見ている動画を送ってもらったり、スマホを借りて見たりすると、かわいい犬の動画など、自分の画面には絶対に出てこない世界が広がり、おすすめ表示がガラリと変わります。夫婦のコミュニケーションにもなり、相手が何に影響を受けているのかを知る勉強にもなります。
シークレットモードとテレビの活用: スーツさんは朝から夕方までYouTubeを研究し、成功の理由を言語化する勉強をしていますが、自分のアカウントの偏りを消すため、あえて履歴が残らない「シークレットモード」にして、初期状態のYouTubeが何を表示するかを観察しています。また、受動的に多様な情報が飛び込んできて視野を広げてくれる「テレビ」を見ることも、実はとても大切です。
日常のルートを変える:亀山さんは、「通勤でいつも降りる駅を意識的に変えてみる」「わざと電車に乗り遅れて途中下車してみる」といった日常の小さな冒険を勧めます。わざわざ海外まで行かなくても、すぐ隣に知らない世界はいくらでも転がっているのです。
6. イギリスの鉄道マニアを狙え!細分化する市場と「海外事例」の勝ちパターン
他人の視点を取り入れると、思いがけない巨大市場に気づくことがあります。たとえば、スーツさんの奥様は「VTuber(バーチャルYouTuber:2Dや3Dのアバターを使って動画配信を行うタレント)」が大好きなのだそうです。
自分が興味を持たないと気づきにくいものですが、VTuberの市場規模やファンの熱狂度合い、そしてお金が動く金額は凄まじく、今やグローバルに展開されています。しかも、その3Dの仮想空間という狭い世界の中で、さらに細かなブームが次々と生まれているのです。コンテンツが極限まで細分化されている現代だからこそ、ビジネスチャンスは無限に広がっています。
この「細分化」に目をつけたスーツさんの海外進出戦略は、実に鮮やかなものでした。
いきなり海外の人に向けて「日本の観光動画」を出しても、テーマが広すぎて誰の心にも刺さりません。広い海に闇雲に釣り糸を垂らすようなものです。そこで彼は、熱狂的な文化を持つ「イギリスの鉄道マニア」にターゲットを絞り、車両の連結器の構造といったディープな鉄道動画を届けることから始めようとしています。狭い範囲に深く、着実に刺しにいく作戦です。自動翻訳技術の進化で言語の壁が消えつつある今、こうしたニッチな挑戦を10種類ほど試せば、1つは世界規模で当たるかもしれません。
また、英語圏のYouTubeは、日本のような「テロップ(字幕)文化」がなく、音声や構成など動画文化そのものがまったく異なります。「なぜこうなっているのだろう?」と海外の動画を見るだけでも大変な勉強になりますし、何より「海外で伸びている企画をそのまま日本に持ってくる」のは、ビジネスにおける極めて手堅い勝ちパターンになります。
まだ言語の壁が厚い日本では、海外の成功事例を取り入れるだけで、予想通りに数字が取れる「外さない戦い方」ができるのです。スーツさんは「全然イノベーティブ(革新的)でもクリエイティブ(創造的)でもないですけどね」と謙遜しますが、亀山さんもビジネスの定石としてこれに大きく同意します。
アメリカや、最近では中国のビジネスモデルを参考に日本へ持ち込むのは、ビジネスの世界でもよくある手法です。民族性の違いで失敗することはあっても、前例がある分だけ成功率は高まります。逆に、ゼロから完全にオリジナルで考え出したアイデアは、難易度が跳ね上がり、ほとんど成功しません。
「自分が『これはいい!』と思いついたアイデアなんて、だいたいダメなんですよ。過去の誰かがすでに一度思いついて、やってみて失敗しているものばかりだから」。
お二人のこの言葉には、数多くの修羅場と試行錯誤をくぐり抜けてきた人だけが持つ、深い説得力がありました。ゼロから奇をてらうのではなく、すでにある成功の型を学び、ほんの少しだけ自分なりにアレンジする。そして、自分の知らない世界への好奇心を絶やさず、最後は穏やかな日常を愛する。
車窓の景色が流れ、目的地に到着するまでのわずかな時間に語られたこの対話は、私たちがこれからの時代をしなやかに生き抜くための、最高の道しるべと言えるのではないでしょうか。