​「現実世界に美少女なんていない」――キム・ヨンハが語る『ブルアカ』成功の裏側と、UE5新作『プロジェクトRX』の野望


『ブルーアーカイブ』の快進撃と、その先に描く新作『プロジェクトRX』。開発陣のインタビューから浮かび上がってきたのは、綿密な計算と、オタクカルチャーへの偏執的なまでの情熱でした。文字起こしの熱気そのままに、彼らが歩んできた軌跡とこれからの野望を紐解きます。


日本市場という「試金石」への挑戦

「日本で通用するなら、世界でも通用する」

すべてはNEXON Games代表の一言から始まりました。サブカルチャーの本場であり、最も目が肥えたファンが集まる日本市場へ、韓国の開発陣がいきなり殴り込みをかける。それは大きな賭けでした。

他人の好みに合わせようとすると、表現はどこかで嘘になります。「自分たちが愛してきたカルチャーを信じるしかない」。スタッフたちは自分たちのオタクとしての感性を頼りに開発を進めました。日本でのフォーカスグループテスト(FGT)で高評価を得たとき、ようやくチームに「この道で合っている」という確信が灯ったのです。
しかし、開発の現実は泥臭いトラブルの連続でした。

当時、韓国では手に入らない日本独自のスマートフォン端末を現地から郵送してもらい、未知のハードウェアを前に頭を抱えながら最適化を繰り返す日々。海外展開の過酷さを、チームは身をもって知ることになります。


「ゲーム性が薄い」は、周到に仕組まれた罠だった?

リリース当初、ブルアカは「ゲーム性が軽すぎる」という批判を少なからず受けました。ですが、これこそが開発陣の狙いすました戦略だったのです。

当時の日本のモバイルゲーム界には、すでに長年愛される巨大なタイトルがひしめいていました。そこに新参者が割り込み、「毎日何時間も拘束するゲーム」を出しても定着するはずがありません。

「1日のプレイ時間は30分でいい。『グラブル』などの本命を遊んだ後、2番目、3番目に起動してもらえるポジションを取る」
いわば、メインディッシュではなく上質なデザートを目指したわけです。週ごとの明確な日課やライトなプレイ感は、過密な現代人のスケジュールを奪い合わないための、極めて理知的な生存戦略でした。


地獄のサーバー障害と、守り抜いた「日常」

とはいえ、船出は平坦ではありませんでした。

リリース直後、想定の5倍から10倍ものプレイヤー(DAU:1日のアクティブユーザー数)が押し寄せたのです。慌ててデータベースの刷新に踏み切ったものの、そこから地獄のようなサーバー障害の連鎖が始まりました。

携帯電話が鳴るたびに「また落ちたのか……」と震える恐怖。睡眠時間は削られ、プレッシャーで胃が縮む毎日。

そんな極限状態の中で、リーダー陣はある決断を下します。

「アートやシナリオを担当するスタッフたちを、このトラブルに巻き込んではいけない。無理矢理にでも定時で帰らせよう」
クリエイターたちの「日常」が壊れれば、作品の未来そのものが閉ざされてしまう。泥をかぶるのは自分たちだけでいい。約半年に及ぶ死闘の末、システムは奇跡的に安定へと向かいました。


「空白」が二次創作の熱狂を呼ぶ

ブルアカを語る上で欠かせないのが、二次創作の爆発的な盛り上がりです。コミックマーケットで専用の島(ジャンルコード)ができるまでの社会現象を、彼らはどう仕掛けたのでしょうか?

答えは「余白の美学」にありました。

作中、プレイヤーの分身である「先生」の容姿は一切描かれません。セリフすらもプレイヤー自身の意志として選択肢で提示されます。キャラクターデザインも過度な装飾を控え、色とシルエットで個性を立たせる引き算の設計が徹底されました。

「ここから先は、あなたが想像してください」

開発陣が意図して残したキャンバスの余白に、ファンが自分の妄想や愛情を自由に描き込んだ結果があの大ムーブメントだったのです。なお、NEXON Gamesの代表自身も10年以上コミケに皆勤賞で通い詰める筋金入りのオタクであり、全キャラを所持する重課金プレイヤー。「男キャラを出さない」という割り切ったコンセプトを経営陣が後押しできたのも、この深いオタク理解があったからこそでした。


「美少女ゲーム」とは、現実を忘れさせる理想郷

開発を統括するキム・ヨンハ本部長は、独自の哲学を持っています。

「現実世界には美少女なんて存在しない。美少女とは、私たちのエゴが作り出した概念であり、届かないからこそ美しい理想形なのだ」と。

肌の露出度を安易に上げないのもそのためです。過度な露出は、かえって理想を現実の生々しさに引きずり下ろしてしまう。

彼らが目指しているのは、単に可愛いキャラクターが動くゲームではありません。現実の煩わしい人間関係や競争から離れ、プレイヤーが魂ごと浸かれる「異世界」を構築し、それを現実世界へと召喚することなのです。


そして、未踏の新作『プロジェクトRX』へ

ブルアカを手がけたスタジオを母体に、組織は「IO本部」へとスケールアップしました。その第2弾タイトルとして動いているのが、謎に包まれた『プロジェクトRX』です。

Unreal Engine 5によるフル3Dグラフィック。

しかし、オープンワールドでもなければソウルライクでもない。そして何より、「先生と生徒」の関係性ではないと明言されています。

中国をはじめとする巨大資本が、何千人もの開発者を投入して超大作を乱立させる現代のゲーム市場。同じ土俵で物量戦を挑んでも勝ち目はありません。

「だからこそ、誰も見たことがない一点突破の体験を作る」

すでに社内ではプレイアブルなビルドが稼働しており、スタッフたちも確かな手応えを掴んでいる様子。トレンドが一回りした先で、彼らは次にどんな「理想郷」を見せてくれるのでしょうか。先生たちの期待と妄想は、まだまだ尽きそうにありません。