名作が生き残るための「進化」。新作FEの特大ボリュームと、開発者が語るビジネスの現実


「30時間プレイしても、まだ序盤が終わらない」

もし、そんな途方もないゲームに出会ったら、あなたならどうしますか?

今回は、新作『ファイアーエムブレム(以下、FE)』をめぐる、ナカイドさんと岡本さんの熱いトークを紐解いてみましょう。寝食を忘れてゲームに没頭する「プレイヤー」の視点と、そのゲームを生み出す「クリエイター・経営者」の視点。この二つが交差することで、ただのゲームレビューを超えた面白い裏話が浮かび上がってきます。


絶望からのタイムリープと、狂気のボリューム

まずナカイドさんが興奮気味に語ったのが、今作の常軌を逸したボリュームです。
物語の始まりは、まさに絶望。プレイヤーが目覚めた時、世界はすでに滅びかけており、敵との戦力差は「1対10」という状態です。オセロで言えば、盤面のほとんどを真っ黒にされてからゲームが始まるようなものですね。

そこでプレイヤーは「神の力」を使い、時間を5年前へと巻き戻します。本来なら敵の手駒として無惨に殺されてしまうはずだった4人の主人公たちの人生をやり直し、彼らを味方に引き入れていくのです。

設定だけでもワクワクしますが、驚くべきはその長さです。

4人のうち、まだ1人目のストーリーを30時間遊んでも、全然終わる気配がないのだとか。全員分(第1部)をクリアするだけで50時間はかかると予測され、さらにその先には第2部、第3部が待ち受けています。
まさに、超長編のファンタジー小説を何冊も一気読みするような感覚。圧倒的なボリュームです。


「将棋」から「ロールプレイング」への進化

ゲームの仕組み自体も、従来のFEから大きく変わりました。

かつてのFEは「シミュレーションRPG(SRPG)」と呼ばれるジャンルを代表する作品でした。これは、将棋やチェスのようにマス目の上でキャラクターを動かし、じっくり戦略を練るゲームです。しかし今作は、より物語やキャラクター育成を楽しむ「JRPG(日本風のロールプレイングゲーム)」の要素がかなり強くなっています。
難易度も随分とマイルドになりました。
昔のように「武器が途中で壊れて丸腰になる」こともありませんし、キャラクターが倒れても生き返らない(ロストする)というシビアなシステムも緩和されています。
その代わり、やることが山のようにあります。

1週間のスケジュールを管理し、キャラクターを育成し、ダンジョンを探索し、試合に挑む。システム全体を理解するだけで「10時間くらいかかる」とナカイドさんは笑います。まるで、最新の多機能スマートフォンの操作を覚えるような苦労があるのかもしれません。

でも、一度理解してしまえば、やめ時が見つからない面白さがあるのです。


クリエイターが語る「カジュアル化」の裏事情

ここで、話は思わぬ方向へ転がります。
「実は僕、昔ファイアーエムブレムを1本プレイしてるんですよ」と、岡本さんが開発当時の裏話をポロリとこぼしたのです(2004年発売の『聖魔の光石』という名作です)。

岡本さん自身、昔のFEの「しんどさ」は痛いほど分かっていました。

一歩間違えれば、手塩にかけて育てた仲間が永遠に失われるプレッシャー。絶対に攻略本なんか読みたくない派の彼でさえ、FEだけは理不尽な罠を避けるために「渋々攻略本を読みながらプレイしていた」と当時を振り返ります。

では、なぜ今のFEはこんなにも「優しく、カジュアル」になったのでしょうか?
そこには、ゲーム業界のシビアな現実がありました。

「昔の硬派なシステムがいい」という熱狂的なファンは確かにいます。しかし、将棋のような戦略ゲーム(SRPG)は、看板タイトルの割には「爆発的には売れない」という悩みを抱えていました。

現代のゲーム開発は、映像を綺麗にするだけでも膨大なお金がかかります。開発費を回収し、ビジネスとして成立させるためには、より多くの人に手に取ってもらう必要があります。だからこそ、マニア向けの「硬派な殻」を破り、初心者でも遊びやすいカジュアルなJRPGへと舵を切ったのです。

これは、名作シリーズが生き残るための「進化」でした。

ナカイドさんが悲鳴を上げながらも嬉々としてゲームのボリュームを語り、岡本さんが「大作になったなぁ」と目を細めつつビジネスの裏側を語る。

私たちが何気なく遊んでいるゲームの裏には、クリエイターたちの「伝統を守りながらも、変わらなければならない」という葛藤と挑戦が詰まっているのですね。