彼らの本当の凄みは「失敗しないこと」ではなく、「派手に転んでも、ただでは起き上がらないしぶとさ」


いまやAI向け半導体で世界の頂点に君臨し、「向かうところ敵なし」に見えるNVIDIA。ですが、その歩みを振り返ってみると、実は信じられないほど多くの「やらかし」や失敗を繰り返してきた企業でもあります。

ただし、彼らの本当の凄みは「失敗しないこと」ではありません。「派手に転んでも、ただでは起き上がらないしぶとさ」にこそあります。

初代Xboxから始まった、PCチップセットの攻防戦

時計の針を少し巻き戻してみましょう。2001年、マイクロソフトが初めてゲーム機市場に殴り込みをかけた「初代Xbox」を覚えているでしょうか?

あのハードの心臓部、映像処理を担うGPU(画面を描く専門の頭脳)はNVIDIA製でした。さらに、通信やメモリをまとめる「チップセット」と呼ばれる司令塔の役割も兼ね備えていたのです。製造トラブルなどのゴタゴタはあったものの、この経験をバネに、同社は自作PC向けのチップセット市場へと打って出ます。それが「nForce(エヌフォース)」シリーズでした。

AMD製CPU向けのnForceは、PCゲーマーの間で瞬く間に人気を博しました。ここまでは順風満帆です。

ところが、インテル向けにも販路を広げたあたりで風向きが変わります。世代交代が進むにつれ、インテルから「うちの新しいCPU向けには作らせない」と締め出しを食らい、法廷闘争へと突入してしまったのです。最終的には和解したものの、NVIDIAはこの事業から撤退することになりました。
一見すると手痛い挫折に見えますよね。しかし、ちょうどその頃、CPU自身がチップセットの役割(メモリやグラフィック機能の制御)を直接飲み込む進化を始めていました。要するに、外部メーカーの入る隙間が構造的になくなりつつあったのです。見方を変えれば、NVIDIAは市場が消滅する直前の「ちょうどいい引き際」でスマートに撤退できた、とも言えるのではないでしょうか。

余ったチップから生まれた「迷走」と「逆転劇」

nForceに陰りが見え始めた2010年前後、世界はガラケーからスマートフォンの時代へと急速にシフトしていました。NVIDIAも指をくわえて見ていたわけではありません。スマホやタブレットの頭脳となるSoC(CPUやGPUを手のひらサイズにワンチップ化した統合部品)として、「Tegra(テグラ)」シリーズを投入します。

ところが、ここからが苦難の連続でした。
初期モデルは鳴かず飛ばず。4代目の「Tegra 4」に至っては、買収した通信機能の統合が間に合わず、なんとスマホに必須の「4G(LTE)通信機能なし」という致命的な見切り発車でリリースしてしまいます。スマホメーカーから総スカンを食らうのは当然でした。

倉庫には大量のチップが山積みになります。どうしたと思いますか?

彼らはなんと、「自分たちでゲーム機を作って、そこでチップを消費しよう」と考えたのです。

こうして生まれたのが、画面に本格コントローラーを合体させた携帯ゲーム機「SHIELD Portable」でした。ハードの性能は抜群でした。しかし、当時のスマホ向けゲームを遊ぶのに、そこまでゴツい物理コントローラーを求めるユーザーがどれほどいたでしょうか。結果は惨敗でした。
それでも諦めないのがNVIDIAです。次に出した高性能タブレット「SHIELD Tablet」はバッテリー発火問題で自主回収に追い込まれ、据え置き型の「SHIELD TV」は高性能なAndroidゲーム機兼セットトップボックスとして作られたものの、単なる動画再生機としては高価すぎて売れ行きは伸び悩みました。

まさに迷走の極み。普通なら「もうモバイル向けチップなんてやめよう」と心が折れてもおかしくありません。

ところが、この泥臭い悪戦苦闘の先に、とんでもない棚ぼたが待っていました。
2017年、任天堂が世に送り出した「Nintendo Switch」。その心臓部に採用されたのは、SHIELD TVなどで改良を重ねていた「Tegra X1」だったのです。

専用にイチから設計したチップではなく、すでに手元にあった完成度の高い既存チップをカスタムして提供できた。これがSwitchの世界的な大ヒットを支え、同時にTegraを歴史的大ヒットへと押し上げました。失敗した自社製品でチップを熟成させていたからこそ、任天堂のニーズに即座に応えられたわけです。

失敗を肥料にして、次の時代を掴み取る
NVIDIAの「やらかし」はこれだけではありません。

 * 3D Vision(2009年):映画『アバター』のブームに乗ってPCゲームを立体視化するシステムを発売したものの、専用メガネや高価な120Hz対応モニターが必要で普及せず、ひっそりと姿を消しました。

 * Arm買収の断念(2020~2022年):スマホ向け半導体設計の巨人・Armを約400億ドルで買収しようと動いたものの、各国の独占禁止法などの規制に引っかかり断念。しかし、その過程で磨いたArm系技術を転用し、現在のAIサーバー向けCPU「Grace」を生み出しています。

モバイル向け単体で見れば、Tegra事業は当初の目標を大きく外した「失敗」だったかもしれません。しかし、そこで培った省電力かつ高度なグラフィック技術は、ロボットやドローン向けの産業用開発ボード「Jetson」へと姿を変え、自動車の自動運転プラットフォーム「DRIVE」へと枝分かれしていきました。

そしてその系譜は、次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」に搭載されるカスタムSoCへと、しっかりと受け継がれています。

失敗したプロジェクトを単なる赤字で終わらせず、別の器に注ぎ込んで次の大波を待つ。この驚くべき生命力と柔軟なしたたかさこそ、NVIDIAが今日、世界で最も価値ある半導体企業へと上り詰めた最大の原動力なのかもしれません。