「京都に任天堂のテーマパークがあったら」


 【ゲーム領域を超えた体験の拡張】: 映画(『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』『ゼルダの伝説』)やテーマパーク(USJ)、ニンテンドーミュージアム、時計端末「Alarmo」などを通じ、「任天堂を選んでもらう理由」を広げています。

 【「遊びの仕組み」優先のものづくり】: キャラクター(タレント)から入るのではなく、まず「遊びの仕組み」を創出し、そこに最適なキャラクターを合わせる姿勢が一貫しています。

【映画、テーマパーク……ゲーム以外でも変わらない「任天堂らしさ」】

—— IPをさらに広く展開するために、映画のほかにNintendo TOKYOなどのオフィシャルストアや、USJのスーパー・ニンテンドー・ワールドなど、1年おきくらいに新しいものが登場しています。このあたりの間隔はある程度偶然なのか、それとも計画的に話題が途切れないようにしているのですか?

**宮本** そんな計画的に決まってるわけないです(笑)。ちょっと偉そうになっちゃうんですけど、それを意識するようになったのは、Wiiがきっかけかなと思います。当時、「ゲーム人口拡大」って言っていましたし。娯楽を提供する会社として、テーマパークはずっと前からやりたかったんですよ。山内さん(※山内溥氏)も「京都に任天堂のテーマパークがあったら」と口にしたことがありましたし。やりたいけど、テーマパークのビジネスは観光業も含めた規模のものだから、任天堂のモデルとはぜんぜん違いますよね。それを任天堂が何万人と雇って投資することは考えづらいから、どこかと組もうと考えていて。それでユニバーサルさんと組めるいいタイミングがあったということですね。映画も、キャラクターをもっと広めようといろいろな人と話し合って、岩田さん(※岩田聡氏)とも数年にわたって相談して決めたラインがだいたいまとまって、そこから12年くらい経っていますかね。ちゃんとあいだが埋まるように、計画的にいろいろなことを加速させたり減速させたりしながら続けてきました。

—— 現状としては、思い描いていた以上の手応えがあるのでしょうか?

**宮本** ゲームは大成功を目指しているんですけど、とにかくテーマパークや映像は“失敗しないことが最大の成功”という考えで丁寧に進めてきました。結果、それがちゃんとした意味での成功になったので、期待以上と言えると思います。ほっとしました。

—— 先日、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を、前作ともども家族で観に行ったのですが、中学生の娘が2時間近く夢中で観て、終わった後には「すごく楽しかった」と言っていて。大人も子どもも夢中になれるというゲームと同じことを、マリオの映画は実現できているのがすごいなと改めて感じました。

**宮本** ありがとうございます。テーマパークも同じような感想をよくいただいていて、「なんとなくマリオのことを知っている」くらいのお客さんにも「みんなでいっしょに楽しんだことがいい思い出になった」と言ってもらえていて、よかったなと思っています。クリスさん(※クリス・メレダンドリ氏)の制作会社、イルミネーションは、“純粋に作ったものが楽しいかどうか”を考えてくれるんです。スーパースターはいないんですよね。「監督の名前で売ろう」といった発想をせずにすごいものを作る人たちが揃っている集団で、それが僕らのやりたいことに合っていて、考えかたも似ているんですよね。しかも、監督や作曲家から、ひとりひとりのスタッフの方まで、皆さんがウチのメンバーよりもマリオのことを知っているくらいのファンでいてくれて。これはユニバーサルさんのスタッフの方も同じで、そういう人たちが集まって、ちゃんと僕らのことを理解して仕事をしてくれているのが、ウチの強みにもなっているなぁと感じます。

—— いまも宮本さんの監修はかなりしっかり入っているのでしょうか?

**宮本** そうですね。マリオのアニメーション映画でよかったのは、制作途中のラフな状態でも、いったん全部つないで観られるんですよね。なかなかそれをしてくれるところは少ないらしいんですけど、イルミネーションさんはそういうチェックを大事にしてくれて。完成してからローカライズするんじゃなくて、日本語の脚本も同時進行していこうと、アメリカとパリと日本で毎日のようにネットで進捗を確認できたり、作りながら見ていけたのはよかったですね。『ゼルダの伝説』の映画は実写なので、撮影中ずーっといっしょにいるわけにはいかないですから、アニメーションのほうが手は掛けやすいですよね。とはいえ『ゼルダ』も原作として一般的な範囲以上のことはやっています。これ以上しゃべるとストップがかかると思うので、今日のところはこのくらいにさせてください(笑)。

—— はい(笑)。『ゼルダ』の映画も楽しみにしています。今回はニンテンドーミュージアムで取材をしていますが、開館して1年半ほどが経ち、ずっと大盛況です。こちらについて、宮本さんはどのように捉えていますか?

**宮本** こちらも、どう作るべきかかなり迷っていたんですけど、お客さんには喜んでもらえていて、やってよかったです。希望される方全員に来てもらえていないのは申し訳ないのですが、快適に見ていただける人数の上限があって、現在のところは抽選と、キャンセルが出た場合は先着順での販売にさせていただいています。開館時間を延ばしたりして、ひとりでも多くの方に来館いただけるようにしているので、以前よりはチケットを取りやすくなっていると思います。ぜひとも一度申し込んでみてください。

—— アートギャラリーができたりと、施設の追加も行われていますが、そういった施策は今後も続けられていくのでしょうか?

**宮本** あんまりリピーターを増やすために何かをするということはやりたくなくて、今後アートギャラリーのようなものをどんどん増やしていこうといった考えはありません。ただ、アートギャラリーは任天堂の製品を見てもらうというコンセプトから少し外れていて、お客さんに開発の裏方、現場を感じてもらおうと、製品として世に出ていないものが見られるようにしました。内容を決めるのに時間が掛かって、公開が予定よりちょっと遅れたんです。また社内の資料で「これも見てもらいたいな」というものが溜まってきたら改めて考えるとは思いますが、いまのところは現状の展示を続けていきますので、まだ来ていない人はどんどん来てもらえたらうれしいです。

—— アートギャラリーは『どうぶつの森』の文字入力の仕様書が展示されていたりと、開発のかなり深いところまで公開されていて驚きました。

**宮本** そうですね、中にはこう言ったもので喜んでくれる方もいるのだろうと。基本的に「開発が終わってから書いたものはナシ」、「開発段階で書いたものだけ」という縛りで公開しています。作っていたときの実態に即したものを展示するっていうことは大事にしていますね。

—— 任天堂のゲームのキャラクターを、ゲーム以外の方法で広めていくといったことは、今後もいろいろな方法で展開していくのでしょうか?

**宮本** 僕はよく“世界中のお客さんに任天堂を選んでもらう理由を作ること”が会社(任天堂)のやるべきことと言っていて。日本だと、子どもが小学生に入学するときに、ランドセルを買ってあげますよね。同じように「6歳になったから任天堂を買ってあげよう」、「任天堂の何を買ってあげたら喜ぶかな?」って選んでもらえるくらいの品揃えがあったらいいなと思っています。その中心がハード・ソフト一体型のものであるというのがウチの真髄と思うんですけど、時代とともにどうなっていくかわからないですよね。ただ、形が変わっても「任天堂のものが欲しい」と思ってもらえる、家族に向けた商品をつねに準備しておきたいですし、それが世界初のもので、使ってみれば深みのある楽しさが提供できるものであるようにしたい。そういう商品が最近も出たじゃないか。“Alarmo(アラーモ)”ですよ。

—— おぉ、なるほど……!

**宮本** “Alarmo”、任天堂はあんまり宣伝してないですけど、あれはすごい発明なんですよ。

—— ああいったものが、つぎつぎと出てくるのがやっぱりおもしろいですよね。

**宮本** ああいう遊びをこれからも作っていけるようにがんばっていこうと思っています。

—— 中心にあるのはゲームでありつつも、マリオ、ヨッシー、リンク、カービィなど、任天堂のキャラクターに触れる機会や、知ってもらう機会を作ることを、これからもさまざまな形で続けていくと。

**宮本** そうですね、おもしろいことができそうなときは。ウチにはすごくいいタレントがたくさんいますから(笑)。もともとこれはゲーム開発でも同じ考えで、ゲームの遊びの仕組みを考えたとき、「この仕組みに合うのは、どのキャラクターだろう?」と。適したタレントがいたら、彼らを乗っけるということをしてきたので、その選択肢が広がるという感覚です。

—— 新作ゲームがどのIPで作られるか?というのは、近年は映画などとの兼ね合いもあるとのことでしたが、開発を通して新しいアイデアが出てきて、商品化に向けて動くときは、「マリオを当てはめよう」、「ゼルダを当てはめよう」と既存IPでの展開を検討してから、「新規IPのほうがおもしろいよね」と判断されたらその遊びのために新しいキャラクターを生み出すような流れなのでしょうか?

**宮本** 僕としてはおっしゃる通り、“遊びの仕組みを作って、そこにキャラクターを当てはめる”という考えですけど、最初から手掛けるIPが決まっているチームもたくさんあります。ただ、その中でも「この仕組みをそのままくり返していていいのか?」という意識は、みんな高く持ってくれています。

—— 青沼さん(※青沼英二氏)が『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の制作に向けてよく言葉にしていた「アタリマエを見直す」に通じるマインドですね。

**宮本**『スーパーマリオメーカー』なんかもその典型で、ああいうお家芸みたいなものはもうお客さんたちの集合知のほうがずっと優れているかもわからない。そこは潔く自由に遊んでもらって、そのうえで必要なマリオを作ろうという流れで『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』などが生まれましたし。一般論として「このシリーズを作ります」と決めたうえでのクリエイティブは縛りがあるからよくない、などと言いますよね。そこは“シリーズを抱えていても可能な限り縛られていないものを作る”ということを考えていきたいです。どうしても“前作のお客さんが全員満足するもの”を前提に考えますけど、そこを度外視して余りあるおもしろい遊びが作れたら、潔くそっちのクリエイティブに注力すべきときがあると思うんですけどね。


【宮本さんのこれから】

—— 任天堂の“ものづくり”の考えかたは昔から一貫していると思いますが、一方で宮本さん個人として活動の幅を広げていく中で、考えかたが変わったと思うことはありますか?

**宮本** そこはつねに変わり続けています。ここ10年で僕がいちばん深くゲーム開発に関わったのはスマホアプリの『スーパーマリオ ラン』と『ピクミン ブルーム』なんですよ。ほとんどディレクターに近い仕事もしていて、この2作は作れてよかったなぁと思っているんです。それはやっぱりモバイルっていう家庭用ゲーム機とはぜんぜん違う環境で、過去のゲーム開発の経験を活かすということで、おもしろいものができたなぁと。『ピクミン ブルーム』なんかは、Niantic(現 Scopely Explore)さんが『ポケモンGO』で作った大量のデータベースと技術があって、ノウハウはある。その上にゲームデザインを設計すれば、わりと早く動作するものを作れるという背景があって。この“Nianticさんと共同でモバイル向けに『ピクミン』のゲームを作る”という発想は、昔はなかなか出なかったと思うんですよね。ノウハウは内部に溜め込んで、内部でしっかり管理できるものだけ作るって考えかただったんですけど、ウチとは違うことが得意な人たちと組んで、新しい展開を素早くやるということに興味を持つようになったのはわりとそのあたりからですね。

—— ああ、それも転機だったと。

**宮本** 映像事業は少し違うんですけど「映像を作るのが得意な会社とどんなコラボレーションをしたらおもしろいか?」という意味では、考えかたは近いです。これも映画の取材のときにお話ししましたけど、もともとは「ゲームのために作ったキャラクターで映画を撮ることで、ゲームを作るときの制限を増やしたくない」と言っていたんです。けれど、やっぱり「このキャラクターを知ってもらうためにゲーム機のないところまで届けよう」と思うと、映像ならばそのハードルを超えて行けるだろうと。それでゲームマーケットも広がるかもしれないと考えるようになりました。映像化も任天堂側の人間がけっこう関わっていて、ゲームが不自由になりそうなネタはできるだけやらないようにするとか「どこまでならよしとするのか?」はつねにチームで相談しているので、みんな快適にやれていると思います。

—— 以前にお話をうかがったときは、ゲームのコンセプトや手触りなど、開発のいちばん最初のところに宮本さんが入ることが多いという話でしたが、最近はいかがですか?

**宮本** 『ピクミン ブルーム』の開発も一段落して、ここ数年は自分でディレクションするものがないので、お任せしています。自分がディレクションする作品だったら「ゲームプレイの最初の30分は自分の責任」という考えは変わらない。

—— これまでのキャラクターもすごく大切な存在だと思いますが、近年だと『スプラトゥーン』がそうなったように、また新たな定番キャラクターを生み出そうという想いはどれくらいお持ちなのでしょうか?

**宮本** そこは臨機応変にやっていきますけど、新しいキャラクターは生まれたほうがいいですよね。ただ、「グローバルで本当に通用するのか?」というのはきびしく判断する必要があると思います。『スプラトゥーン』も開発中は「こんなキャラクターになるならマリオでやったほうがいいんじゃないか?」となったことがありましたから。そのうえで、いま世に出ているインクリングの原型ができてきたときに「これならマリオを使う必要はないね」となったんです。グローバルで通用するキャラクターを僕自身が追求したときにたどり着いた『ピクミン』がもう25年前なので、もっと積極的にやらないとなかなか生まれないですけどね。そこは若い人たちにがんばってもらいます(笑)。