「僕らが遊びを考えるときって “原点” から考えるんです」


「僕らが遊びを考えるときって “原点” から考えるんです」

――宮本さんご自身は、けっこうSwitch 2で日常的に遊んでいらっしゃるんですか?

**宮本** いやぁ〜、もうそんなに自分で遊ぶという感じではないですけど(苦笑)。ウチの場合、孫が……自分の家にあると遊びすぎるので、僕の自宅で預かっていて「遊びたいときはおじいちゃんの家に来てね」って。

――(笑)。

**宮本** 小さい孫はまだクリアーできないので、いっしょに遊んでクリアーしてあげると喜ばれたりとかね。「『進め!キノピオ隊長』のボスが怖い」と言うからそこは代わってあげたり。

――ゲームを中心に家族のつながりができているというのは、先ほど話されていた理想の形に近いように感じます。

**宮本** そうですね。ウチも3世代でそうなってきています、はい。

――Switch 2が出た後、シリーズの新作として『マリオカート ワールド』や『スプラトゥーン レイダース』があり、一方で26年ぶりの3D新作となった『ドンキーコング バナンザ』やフルリメイクの『Star Fox』が出たりと、既存IPを活かしつつもラインアップの幅の広さを感じますが、こうした選定基準はどのあたりにあるのでしょうか?

**宮本** ラインアップは僕が全部決めているわけではないですけど、ただ「映画(『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』)の脚本にフォックスを出すアイデアがあるから、『スターフォックス』の新作は欲しいよね」と話し合いがあって決まったりすることはあります。最初のマリオの映画(『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』)と『プリンセスピーチ Showtime!』は同時期に作り始めていて、「このゲームがあるなら、映画でもピーチはもっと活発なほうがいいんじゃない?」という話をしたり。『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』にヨッシーが出ることは早い段階で決まっていたので、ヨッシーのゲームは何か作っておこうと『ヨッシーとフカシギの図鑑』の開発が動いたり。ケースバイケースですけど、これからもゲームとそれ以外の展開がいい関係を保ちながら進めていくと思います。「リメイクが多いな」という意見もあるかもしれませんけど、5年も経ったらゲームは卒業して遊ばなくなっちゃう人も多いじゃないですか。いまの若い人たちは10年前のゲームとなれば遊ぶ機会がないので、それを遊びやすく作り直して出すのは、需要に応える意味ではやっておいたほうがいいですよね。原点のゲームを知ってもらうことでつぎの展開にもつながりますから、最近はそこも積極的に展開しています。

――映画などの展開に合わせてゲームも作るというのは、昔の任天堂だったらなかったことですけど、キャラクターを知ってもらうためのいいサイクルができているように思います。何かその中に“大事にしている取り決め”みたいなものはあるのでしょうか?

**宮本** 基本的に任天堂のIPは“異なる世界のキャラクターは混在しない”というルールを敷いているんです。例外は『スマブラ』(『大乱闘スマッシュブラザーズ』)ですね。あとは『ピクミン』もどのキャラクターの世界に入れてもいいとしています。 meこれは“やり出したらキリがない”ということで抑えているところがあったり、ライセンス商品を出すときの問題とか、いくつかの理由があって分けていたんですが、フォックスは『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』で登場する必然性もあるし「マンガだったとしたらそれくらいあったほうが面白いんじゃないか?」となり、けっこう早い時期に決まったんですよね。いままでのルールを破ってはいるんですけど、意外と自然に受け入れてもらえて。サムスとかも出てきてしまうとさすがにややこしいので(苦笑)、なんでも出せばいいという話ではないと思うんですけどね。その一線を引きながら、ピクミンもショートムービーを作っていますけど、彼らだけは“どの世界にいてもいい”っていうのがだいぶ定着してきたんじゃないでしょうか。


【「そもそも、みんな なんで遊ぶんやろう?」】

――任天堂のさまざまな取り組みが、いま世界中で実を結んでいるように思います。その実感と言いますか、“任天堂のIPが世界中で愛された理由”について宮本さんはどのように捉えているのでしょうか?
**宮本** むしろ誰かに分析してほしいくらいです(笑)。「マリオみたいなヒゲのおじさんがなんで売れるんでしょうね?」と聞かれることは昔からよくあって、「失礼やなぁ」と思っているんですけど。
――(笑)。

**宮本** いや、自分でもそう思いますよ。「なんでこんなおじさんが売れたんやろ?」と。でもシンプルに考えるなら、それはすごくおもしろいゲームとセットで出してきたからですよね。僕らが遊びを考えるときって“原点”から考えるんですよね。「つぎにどんなゲームを作ろうか?」となったとき、市場にあるゲームを思い浮かべて「ああじゃなくて、ここをこうして、これとこれを組み合わせたらおもしろそうですよね」というところからスタートするんじゃなくて、「そもそもみんな、なんで遊ぶんやろう?」といったところから考えてみる。そうすると、「最近流行っている遊びってどんなものが軸になっているのか?」とか、「要するにこれって以前からあったアレといっしょじゃないの?」とか、「だったらもっとこういうことできるんちゃうの?」とか。「“遊びとしておもしろい”ってどういうことなの?」みたいなところからスタートするんですよ。『スプラトゥーン』なんかはその典型で、「色の塗り合い、面積の取り合いをしたらどうなるんだろう?」ということしかコアにはなくて。それをちゃんと遊びにするのは大変なんですけど、コアが別物だったらああはならないんですよ。RPGでも、「こういう原点から膨らませたものをRPG仕立てにしたらこうなりました」というその“原点”が違えば、まったく別のものができあがる。『ポケットモンスター 赤・緑』がそれまでに出ていたRPGと違うゲームになったのはそこですよね。田尻さん(※)が一生懸命に昆虫採集をした経験をもとに作られていて、捕まえていない種類があれば友だちと交換して、コンプリートを目指したくなる。

――それが『ポケットモンスター』シリーズの原点であり、最大の特徴でもありますね。

**宮本** 社外のゲームセミナーでしゃべるのもそういうことで、だいたい皆さん何かしら大好きなゲームがあって、そのゲームを「こうしたらもっとおもしろくなる」という発想から新しいゲームを考えるんですけど、いつも「それはやめたほうがいい」という話をしています。“自分だけが気付いた遊びの原理”みたいなものからスタートしたらいいのにって。これは任天堂では当たり前のことで、特別なことをしているとは思っていないんです。独自のおもしろい体験とセットで記憶されて、それが個別的であればあるほど刷り込まれる。マリオがなぜとくにグローバルで知られるようになったかというと、きっと身体機能中心のゲームで、国や文化関係なく誰でもわかるゲームだからです。ポケモンが世界でヒットしたのも同様で、“魅力的なキャラクターを集めて、コンプリートしたい”という欲求はどの国でも理解できるんでしょうね。そうすると、どうして任天堂がとりわけグローバルに支持していただけているのかは、「いま何が流行っているのか?」ってことからやるんじゃない、自分たちにとっての“おもしろい遊び”に合わせて最適なものを作るってことをずっと続けている。その違い位しかないと思うんです。偉そうなことを言っているかもしれないですけど(苦笑)、「すぐにお金になるのか?」ということばかり考えてモノを作っていると、個性的なもの、広がりがあるものは作れない。じゃあそういう作りかたをさせているのは誰かというと、お金を出している人、経営陣やスポンサーじゃないですか。僕、“減価償却”とか“回収”って言葉がすごく嫌いで。お金を出す人たちは大儲けのためにやっているのに、なんで“回収できた”とか目先の利益で喜ぶんやって思うんです。大勢の才能を消費したぶん大失敗やないかって。

――のびのびとゲームが作れる環境の大切さは、任天堂の皆さんはいろいろなところで語られていますよね。

**宮本** 「君に頼んでよかったわ。時間は掛けたけど、すごい大儲けさせてもらったわ」みたいな話があちこちで起こるのが、僕らと会社の関係として理想的ですよね。それを続けていけるかどうかしかないんじゃないですかね。けっきょく、個人の趣味みたいないちばんローカルなものが、グローバルにも通じる。逆にうっすら通じているように思えるものを参考にすると、誰が作ったのかわからないものができあがって、じつはそれってグローバルに弱いんだと。だから会社では「あなたが作ったと言えるものをいちばん活かせる形を商品にしたらいいんですよ」っていうくらいしか僕は答えを持ち合わせていないんです。

――それが任天堂の中では昔もいまも変わらずに伝わっていると。

**宮本** そうであってほしい。そうなるように僕は動いています。ただ、「ずっと昔ながらのやりかたを続けよう」ということばかりだと保存会になってしまうので、新しい血をどうやって入れていくかも考えないと……。ちょっと最近、任天堂は保存会っぽい色が強くなってきているよなぁって反省もあります。



【記事の構成内容・解説】

インタビューは任天堂のゲーム開発思想、IP展開の裏側、そしてグローバルでの強さの源泉について宮本茂氏が語る構成となっています。


 【家庭でのゲーム体験と3世代の繋がり】

   * 宮本氏自身が孫と一緒にゲームをプレイするエピソードを通じ、ゲームが世代を超えたコミュニケーションを生んでいる実態が語られます。


 【映像作品とゲームタイトルの連動・リメイク戦略】

   * 映画作品の脚本(例:映画へのフォックス登場やヨッシーの出演)とゲーム開発が連動していること。

   * 過去作のリメイクは、ゲームを「卒業」した世代や10年前の作品を知らない若い世代に原点を知ってもらう重要性がある点。


【キャラクター(IP)の世界観ルール】

   * 原則として「異なる世界のキャラクターは混在させない」方針。

   * 『スマブラ』や例外的な展開(映画でのフォックスや、どこにでも登場できる『ピクミン』)でバランスを取っている点。


 【「原点」から考えるモノづくり】

   * 既存ゲームの改良ではなく「そもそも人はなぜ遊ぶのか」という根源的な問いから着想する(『スプラトゥーン』の陣取り、『ポケモン』の昆虫採集体験など)。

   * 「既存作品の組み合わせや改善」ではなく「自分だけが気づいた遊びの原理」から作る重要性。


 【グローバル展開と開発環境への思い】

   * 目先の利益や「回収」を重視するモノづくりを否定し、個人のローカルなこだわりや根本的な面白さを追求することが結果的に世界に通じるという持続的クリエイティブ論。

   * 伝統を守るだけでなく「新しい血を入れる」ことの必要性と現状への自己反省。