【現在の活動と今後のスタンス】
* 大規模なゲームディレクションよりも、現在は幅広い仕事(映画等)に携わっており、74歳という年齢も含め「明日倒れても大丈夫なように」しつつ「無事にやっていられたら良い」という自然体な姿勢で臨んでいる。
【ファミ通との思い出・クロスレビュー】
* 『ゼルダの伝説 時のオカリナ』で初の40点満点を獲得した際のエピソードや、レビュアーへの対抗心と感謝。ファミ通の表紙イラストを手掛けた松下進氏への敬愛。
* 自社発信(Nintendo Direct等)が増えた現代だからこそ、専門メディアには自社にはない独自の切り口を期待している。
【趣味(バタフライ)と指導を受ける楽しさ】
* 70歳を超えてからバタフライのフォーム研究に没頭。コーチから改善点を指導され実践・上達していく過程を楽しんでおり、それが仕事への活力(糧)にも繋がっている。
【社内でのアドバイスとMiiの設計思想】
* 若手に対しては「結果」ではなく「その手前の考え方」を指導。
* 『ピクミン ブルーム』やMiiに触れ、Wii時代から培われた「極小のメモリーで最大の効果を発揮する」任天堂の技術思想と、Miiが世界的な個人IDへ広がることへの期待を語る。
【若い世代へのメッセージ(“ゼロから作る”と“上手につくる”)】
* 他人の真似をして上手く作るよりも、自分の個性を活かして「ゼロから作る」ことの面白さを強調。
* 自由な発想をプログラムや設計に落とし込むため、具体的に伝えるコミュニケーションや技術的な勉強の大切さをアドバイスしている。
――この先、またご自身で「ゲームのディレクションをしたい」といったお気持ちはあるのでしょうか。
**宮本** いまのところ、あんまり思っていないんですよね。でも『ピクミン ブルーム』とかは自分でも「作りたい」と思ったから入り込んだものなので、テーマによっては、それを使っておもしろいことができそうなら、やりたいと思うときが来るかもしれません。ノウハウはあるので(笑)。いまはひとつゲームを作ろうと思うと200人とか動かさなあかんので、大変ですよね。映画も大所帯ですけど、こちらは手練の人たちが現場を動かしてくれていますから。現場のプロデューサーはさすがに務まらないですよね。
――いまこのタイミングで言えば、ゲーム作りそのものよりもそれ以外のことへの興味が大きいのでしょうか?
**宮本** “それ以外”の仕事が忙しいんですよ(苦笑)。気持ち的にも、そちらで満たされている部分はあります。
――いま宮本さんは74歳でいらっしゃいますが、「ライフワークとしてやっていきたい」ということはあるのでしょうか?
**宮本** あんまりこれといったものを見据えている感じではないですね。また“猫も杓子も”みたいなムーブメントを起こせたらうれしいなとは思いますけど。「これだけは最後までやり遂げよう」みたいなものはないですねぇ。家族からは「もういい加減にしといたら?」と言われていますし(苦笑)。
――(笑)。「10年後も変わらずにやっていられたらいいなぁ」といったお気持ちは?
**宮本** あぁ、そうそう。「やっていられたらいいなぁ」くらいの感覚というのがピッタリですね。現場では「明日倒れておかしくないから、大丈夫なようにしといてね(笑)」って言っていますから。無事にやっていられたらいいけどねぇ。
――いやいや、これからもお元気でいてください。
ファミ通との思い出
――大変恐縮ではありますが、今年ファミ通が40周年ということで、取材や記事など、宮本さんにとって印象的だったことがあればお聞きしたいです。
**宮本** パっと思い付くのはクロスレビューですかねぇ。クロスレビューか、浜村さん(浜村弘一(ひろかず)氏。週刊ファミ通3代目編集長)か(笑)。
――(笑)。
**宮本** やっぱり長いあいだいっしょに歩んできたので、編集部の皆さんの立場が変わっていくのがおもしろいなぁと思っていましたね。
いまだに永田さん(永田泰大(やすひろ)氏。元週刊ファミ通編集者で、在籍当時は宮本茂(みやもとしげる)氏のインタビューを多く担当した。現在は“ほぼ日”に所属)とは仕事で会ったりしますし。
思い出は多いんですけど、仕事に関わるものとしてはクロスレビューですかねぇ。『時のオカリナ』が初の40点満点を獲得したタイトルだったということで、ドンペリをいただきましたよね。僕は飲まないんですけど(笑)、打ち上げのときに開けて、みんなで楽しましてもらいました。あと、僕は松下進さん(※)に憧れていましたから、お会いできて、マリオも描いてもらえたのはいい思い出です。いつからファミ通の表紙は描いていらっしゃるんでしたっけ?
――ファミ通の表紙を初めて描いてもらったのは7号からで、それからずっと松下先生にはお世話になっています。
**宮本** フィギュアも好きだったので海洋堂に出入りして、渋谷の店舗に松下さんのフィギュアが置かれていたのを見に行ったりしていました。懐かしいですねぇ。
――こちらとしてはちょっとドキドキする質問なのですが、宮本さんはクロスレビューをどのように見ていらっしゃったんでしょう?
**宮本** どう見てたかなぁ? やっぱり「いい加減にしとけよ」って(笑)。
**一同** (爆笑)。
**宮本** でも「レビュアー全員黙らせたる」って気持ちになっていたところもあったので、楽しかったですよね。いろいろな意見が読めるのはいいことですから。売上ランキングとクロスレビューがそれぞれ載っているというのが、ほかで出しているデータと比べるときも参考になりましたし。楽しかったですよ。
――ありがとうございます。『時のオカリナ』が40点を獲ったときは、宮本さんも喜んでくださったのでしょうか?
**宮本** 「あぁ、それだけおもしろいと思ってもらえるものが作れたんや」と素直に思いましたね。処理落ちとかもあったし、我々の中ではまだまだ完璧なゲームではなかったんですよ。けどやっぱり完璧じゃないものに満点を付けるくらい“褒めたい”と思ってもらえるということは、よほど他に魅力があったんだなと思えたので、それはうれしかったですね。
※松下進氏……イラストレーター。ファミ通の表紙などでおなじみ“ネッキー”や、ガンバ大阪のマスコット“ガンバボーイ”のデザインなどを手掛けた。
――いまは時代が変わってSNSやWEBサービスができて、Nintendo DirectやNintendo Today!など、自社で発信する手段もいろいろと用意されていますよね。こういった時代に、我々のようなゲーム専門メディアに期待していることがあれば、教えていただきたいです。
**宮本** いろいろなものから情報を得る人がいますから、Webと誌面で展開してくださっているのは意義があると思うので、これからもウチにはない切り口で発信を続けてもらえたらありがたいですね。「昔はゲーム雑誌っていうものがあったんだよ」とならないように(笑)。
――肝に銘じます(苦笑)。
“ゼロから作る”と“上手につくる”
――インタビューのたびにお聞きしては、「ゲーム作りにつながる可能性がある」ということで、だいたい回答を濁されている質問なんですが……、最近宮本さんが興味を持っていることやハマっていることは何かありますか?
**宮本** あんまり大きな声では言えないんですけど……。正直に言うと、いまはバタフライですね。
――水泳のですか?
**宮本** そうです。いま“70歳を過ぎてからのバタフライ”というのをいろいろ研究していて、これがおもしろいんですよ。毎回フォームをちょっとずつ変えて、25メートルを泳ぎ切るということをやっていて。ここに来て、まだコーチからダメ出しをされるんですよ。「背骨が柔軟に動いていない」みたいに言われるのですが、どうしようもない(笑)。YouTubeでいろいろな人の泳ぎかたを観たりと、けっこうな時間を使っているんですよ。
――それはすごい凝りかたですね!
**宮本** 「この人の泳ぎが自分には合ってる」とか。本当にいまは便利ですよね。やっぱりいま映像に関わっているので、そのネタを考えるためにも動画を観たり、人の行動を見たり。それは仕事と地続きのものとして楽しんでいますね。
――もう任天堂の社内では、宮本さんが仕事に関してほかのスタッフからアドバイスを受けるようなことはほとんどないのではないかと想像するのですが、バタフライが楽しいというのはコーチから改善点を指摘されることが新鮮だったりといった感覚もあるのでしょうか?
**宮本** いまになって新鮮というよりも、昔からコーチに習うみたいなことが好きなんですよ。以前凝っていたスキーもそうですし、習ったら成果が出るのが好きで、練習も好きなんですよね。ギターもライブで演奏するよりも、真面目にコツコツ練習するのが好き。ライブはガチガチになってしまうので苦手なんです(苦笑)。やっぱり「つぎはこれを試してみよう」とかいろいろ考えて実践するのが好きなんでしょうね。ゲームを作っていても「明日これをやってみよう」というのが糧なんです。つぎにやりたいことが決まっていると、朝も気持ちよく目覚めたり。毎年、200人くらいいる新入社員の前でしゃべるんですけど、「五月病にならないためには、月曜日に会社に来るのが楽しみになることを見つけてください」と言っているんです。「乗り合わせるバスで気になる人がいる」でも、なんでもいいんですと(笑)。それを週末に決めておいたら、きっと楽しくなる。
――社内ではアドバイスを求められる側になることが多いと思うのですが、どんなことを伝えているのでしょう?
**宮本** どうなのかなぁ? しゃべりだしたら止まらないので、迷惑をかけない程度にしないとって(苦笑)。でも「こう考えたらいいんじゃないか」と伝えることが多いですよね。「こう考えられていないから、そうなっているよね」と。“そうなっていること”自体への答えってないんですけど、「そうなってしまう手前の考えかたが間違っているんと違うか?」っていうところを掘ることはありますね。新入社員にニンテンドーミュージアムを見てもらうと「気持ちを引き締めました」と言ってくれて(笑)。きっと大事にしていることは引き継がれていると思いますけど、なにぶん、最近はひとつひとつのゲーム開発が長いですからね。「また同じ話をしてはる」と思われているかもしれないですけど、自分が昔話をしないと忘れられていきますから、思い出したら口にするっていうのも様子を見ながらやっています。
――なるほど。他にプライベートで気になっていることはありますか? 以前は奥様が『ポケモン GO』にはまっているとおっしゃっていましたけど。
**宮本** いまも『ポケモン GO』を遊び続けていますね。僕が自分で遊んでいる『ピクミン ブルーム』にはなかなかハマってくれなくて、どうやればハマるかなぁ? と考えるのが家庭での僕の課題なんです(苦笑)。京都でやっていると、キノコチャレンジにいろいろな人が来るんですけど、ひとりひとりの国籍を見るのがおもしろくて。
――いまはひと昔前と比べても海外の方が多いですよね。
**宮本** 深夜になると近所の人だけになるんですけど、朝夕は漢字の名前が増えてきたこともあって。いま台湾で大きなブームになっているので、台湾の人なんだなって思うんですよ。韓国語が増える時期もあったり。で、最近は欧米の名前が増えてきているんですけど、おもしろいのは欧米の人たちってかなりMiiをちゃんと作り込んでくれているんですよ。昔はMiiって、必ずしも欧米の人たちの顔に向いた作りじゃないと言われていたんですけど、いますごくしっかり作ってくれているのがうれしくて。これが『ピクミン ブルーム』だけに留まらず、ニンテンドーアカウントとの連携で何億人のMiiが揃ったら、これまたおもしろいなぁと思うんです。Miiは使うメモリーがちっちゃいんですよ。任天堂はいかに少ないメモリーで最大の効果を発揮するかといったことにすごくこだわる会社で、ふつうはアバターって1体ですぐ何メガバイトにもなるんですけど、Miiは数百バイトでできているんですよね。それはWiiのコントローラーに何十人と入れたいという仕様から始まったからこそのコンパクト設計なんですけど、これなら何億人になってもたぶんちっちゃいメモリーの中に全部収まるんですよ。これが将来、世界中の個人IDにMiiがくっつくようになったらおもしろいですよね。そんなふうにならへんかなって思っているんですけどね。企業秘密みたいな話をずっとしゃべっていますけど、こんなのは広まったほうがいいくらいの話ですから(笑)。そういうことを考えていると、日々楽しいんですよね。
――今回もとても楽しく取材させてもらいました。宮本さんから元気をもらった気がします。最後に、ゲーム開発や任天堂の仕事に興味がある若い世代の皆さんへ向けたメッセージをお願いします。
**宮本** やっぱりゼロから作るって楽しいので、試してみてほしいです。“ゼロから作る”の対極にあるのが“上手につくる”だと思うんですよ。僕はマンガ家に憧れて絵を描いてきて、ずいぶんと上手な人の絵を真似したけど、どうしてもそこまで上手にならなくて。それがラッキーだったなと後になって思ったんです。もし上手に描けていたら、その人のようになろうとしていたと思うんですけど、「しかたないな」と諦めていたところで「あぁ、独自のものがあ描けるというのも個性なんやな」と気付きました。いまでも「描いて」と言われたらつい上手(じょうず)に描こうとするんですけど、これがよくないんですよ。気持ちの赴くままに「ガーッ!」と描いてみたら、誰とも違う味があるものができあがるかもしれない。いまは絵の話をしていますけど、あらゆるコトがそうなのかなと思いますので、自分しか考えないことを自由に表現してほしいですよね。ゲームだったら、それをプログラムとして動くものにしないとダメじゃないですか。発想は自由でよくても曖昧なままではゼロイチで動くプログラムに落とし込めないので、その発想を正確に表現する習慣を付けるべきやと思います。僕がふだん気をつけているのは、「もうちょっと速くしようか」みたいに曖昧なことを言っても聞いた相手は困ってしまうので「1.5倍にしようか」、「1.3倍にしようか」と具体的に伝えるように努めていますね。「どことなくよくないんだよなぁ」などと言われても困ってしまいますから(笑)。それで、CPUやメモリーのことも考える必要があるので、ゲームデザインをしたいのであれば、技術もちゃんと覚えて、けれど発想は自由。技術が上がれば、発想から落とし込める幅も広がるので、目指すものを見据えたら、そこに向けてしっかり勉強もしたほうがいいですよね。