任天堂はなぜ「ゲーム以外」でも面白いのか?〜宮本茂が語る、ブレない“遊び”の哲学とキャラクター戦略〜



最近、ゲーム機以外の場所でマリオやピクミンに出会うことが増えたと思いませんか?

映画館の大きなスクリーン、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の熱気あふれるエリア、そして京都に新しくできたニンテンドーミュージアム。任天堂は今、ゲームという枠を飛び越えて、私たちの日常に新しい体験を届けてくれています。
でも、なぜ彼らはここまで領域を広げているのでしょうか。そして、ゲーム以外の場所でも「任天堂らしさ」をまったく失わないのはなぜなのでしょうか。任天堂の代表取締役フェローであり、マリオの生みの親である宮本茂氏の言葉から、その独自の哲学を紐解いてみましょう。

テーマパークや映画への進出は「偶然」か?
映画やテーマパークなど、次々と新しい話題を提供し続ける任天堂。さぞ綿密な長期計画が引かれているのだろう……と思いきや、宮本氏は「そんな計画的に決まってるわけないです(笑)」と笑って否定します。

事の始まりは、Wiiの時代に掲げた「ゲーム人口の拡大」でした。娯楽を提供する会社として、テーマパークは長年の夢だったそうです。とはいえ、観光業である巨大なテーマパークを任天堂単独で運営するのは現実的ではありません。そこで、USJという心強いパートナーと組む道を選びました。映画化についても同様に、何年もかけて理想的なパートナーを探し求めた結果のタイミングでした。

ここで興味深いのは、宮本氏の「映像やテーマパークは、失敗しないことが最大の成功」というスタンスです。

大成功を狙って奇をてらうのではなく、ファンが期待するものを丁寧に、確実にお届けする。結果として大ヒットを記録した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も、制作を担ったイルミネーション(『ミニオンズ』などで知られるアニメ制作会社)と、「監督の作家性より、純粋な楽しさを優先する」という価値観が完全に一致したからこそ生まれました。作り手全員がマリオの熱狂的なファンだったというのも、胸が熱くなるエピソードですよね。

ミュージアムに隠された「生の息遣い」
京都にオープンし、連日大盛況の「ニンテンドーミュージアム」にも、任天堂ならではの美学が貫かれています。

一般的な施設なら、「どうやってリピーターを増やそうか」と考えるでしょう。しかし、任天堂はそこに注力しません。例えばアートギャラリーの展示は、製品化されなかった裏側の資料や、開発当時の生々しい仕様書などに限定されています。開発が終わってから綺麗にまとめ直した資料は、一切展示しないのです。

これは例えるなら、綺麗に盛り付けられた料理だけでなく、シェフの試行錯誤の跡が残る「レシピノート」や「厨房の熱気」そのものを見てもらおうとする姿勢です。ものづくりの実態に即したものだけを見せる。その誠実さこそが、来館者の心を深く打つのかもしれません。

主役はキャラクターではなく「遊びの仕組み」
皆さんは、任天堂がどのように新しいゲームを作っているか想像できますか?
「次はマリオでいこう」「今回はゼルダの新作を」と、IP(知的財産=キャラクターや世界観)からスタートしていると思う方も多いかもしれません。

実は、順番が逆なのです。

任天堂の中心にあるのは、常に「遊びの仕組み」です。まず、これまでにない面白い遊び方を発明する。そして、「この仕組みに一番ぴったりな『タレント』は誰だろう?」と考えるのです。

だからこそ、既存のキャラクターが合わなければ、思い切って新しいキャラクターを生み出します。世界中で大ヒットした『スプラトゥーン』もまさにそうでした。開発当初はマリオを使う案もあったそうですが、最終的にはインクリング(イカのキャラクター)という独自のタレントが定着しました。タレントありきではなく、遊びの骨格がしっかりしているからこそ、どんな形になっても「任天堂らしい面白さ」がブレないのですね。

最近ひっそりと発売されて大きな話題を呼んだ目覚まし時計「Alarmo(アラーモ)」も、まさに「新しい遊びの仕組み」から生まれた発明品と言えるでしょう。

宮本氏自身の「変化」と変わらないもの
長年、任天堂のものづくりを牽引してきた宮本氏ですが、ご自身の考え方もここ10年で大きく変化したと語ります。

かつての任天堂は、開発のノウハウを社内に溜め込み、自分たちで隅々まで管理できる範囲で勝負する傾向がありました。しかし、スマートフォン向けアプリ『ピクミン ブルーム』でNiantic(『ポケモンGO』の開発会社)と協業したことで、外部の得意な人たちと素早く新しい展開を作る面白さに目覚めたそうです。

映像化についても、以前は「ゲームの自由度を奪ってしまう」と慎重でした。しかし今では、ゲーム機を持っていない人にもキャラクターを知ってもらうための「強力なパスポート」として、その価値を前向きに捉えています。

もちろん、変わらないものもあります。「ゲームプレイの最初の30分は自分の責任」。自分が関わる作品の入り口の触り心地には、今でも徹底的にこだわる姿勢です。

「6歳になったら、任天堂の何を買ってあげようか」。世界中の家族にそう選んでもらえる存在でありたいと、宮本氏は語ります。

ハードやソフトという形が変わっても、映画やテーマパークになっても、根底にある「純粋な楽しさ」は変わらない。変化を恐れず、柔軟に外部と手を組みながらも、「遊び」という芯だけは決してブレない。その絶妙なバランス感覚こそが、私たちがいつまでも任天堂のエンターテインメントにワクワクし続けてしまう最大の理由なのでしょう。

次はどんな新しい「遊び」で私たちを驚かせてくれるのでしょうか。若い世代のクリエイターたちから生まれる新たなタレントの登場が、今からとても楽しみですね。