「新興のVTuber事務所は、あのにじさんじを超えられるのか?」
画面の向こうでそう語り合うのは、急成長中の事務所「舞台」を率いる赤間氏と、黎明期の「いちから(現ANYCOLOR)」で裏方を支えた金井氏です。
動画の空気感は終始軽快ですが、語られている中身は驚くほど泥臭く、そして冷徹なビジネスの本質に満ちていました。華やかなバーチャルの世界を支える「熱狂」と「組織」のリアルを、読みやすく紐解いていきます。
爆発的成長の正体は「夢」ではなく「恐怖」だった
いまや上場企業として巨大な経済圏を築いたANYCOLOR。けれど、売上が数千万円から数十億円へと跳ね上がっていった2018年当時、社内を支配していたのは「会社を大きくしよう」という前向きな野心ではなかったといいます。
金井氏の口から出たのは、意外な言葉でした。
「間に合わせないと、すべてがぶっ壊れる。」
タレントの爆発的な人気に対して、社内の体制がまったく追いつかない。月ノ美兎氏をはじめとするライバーたちが巻き起こす熱狂の波は、運営側の想定をはるかに超えていました。
目の前で巨大な雪玉が転がり落ちてくるようなものです。立ち止まれば呑み込まれる。タレントに迷惑をかけないため、クレームで破綻しないため、社員たちは床にヨガマットを敷いて泥のように働きながら、必死に体裁を整え続けました。
成長企業が放つ異様な熱気。その源泉は、きらびやかなビジョンではなく、「迫り来る崩壊への恐怖」だったのです。
「タレントと本気で張り合えているか?」
では、そんな過酷な黎明期において、裏方はどうやってタレントの信頼を勝ち取ったのでしょうか。
答えはシンプルでした。「熱量で張り合うこと」です。
VTuberは、自分ひとりの声とキャラクターで画面の前に立ち、何千、何万というリスナーと向き合っています。「自分が世界で一番体を張って頑張っている」。そう自負していなければ、とても務まる仕事ではありません。
そんなタレントから見て、運営が適当に手を抜いていたらどう思うでしょうか。一瞬で愛想を尽かされるはずです。
当時の裏方は、ビジネスの経験値もノウハウも圧倒的に不足していました。足りない能力を埋める手段は、ただひとつ。
「こいつらも自分と同じくらい、本気で戦っている」
そう態度で示すことだけでした。能力で勝てないなら、姿勢で示す。身も蓋もありませんが、初期のベンチャーにおいて、信頼とは理屈ではなく「背中」で作るものなのかもしれません。
「大事にする」を履き違えた組織は沈む
対談の中で、ひときわ耳が痛い指摘がありました。「伸びないVTuber事務所の共通点」についての議論です。
金井氏は迷わず切り込みます。
「1人ひとりを大事にしようとする事務所ほど、実は伸びない」と。
少し冷酷に聞こえるでしょうか?
ですが、ここでの「大事にする」の意味を考えると、腑に落ちます。
多くの事務所が陥りがちなのは、「タレントの機嫌を取り、雑用をこなしてあげること」を優しさと勘違いしてしまう罠です。マネージャーがただの便利屋になり、タレントもそれに甘えてしまう。
けれど、エンタメは結果がすべてです。数字が伸びず、誰にも見られなくなれば、どれだけ居心地が良くてもタレントは絶望します。
本当の意味で「大事にする」とは、耳触りのいい言葉をかけることではありません。「その人が結果を出し、生き残るための武器を渡すこと」です。
目的と手段を取り違えた過保護は、遅効性の毒にしかならない。プロフェッショナルとしての厳しさを痛感させられる視点です。
全体最適という「見えにくい投資」
もうひとつ興味深かったのが、「公式チャンネルの立ち上げ」を巡るエピソードです。
黎明期、個人のチャンネルで生配信をしてスパチャをもらったほうが、タレントにとっては手っ取り早く稼げます。登録者ゼロの公式番組に出演するメリットなど、短期的にはどこにもありません。
「なんで自分の枠を削ってまで、公式の手伝いをしなきゃいけないんだ?」
タレントがそう感じるのは自然なことです。だからこそ、運営側は「将来この公式チャンネルが集客のハブになり、次の仲間を呼び、結果としてあなたを守る大きな盾になる」という大義を説き、信じてもらう必要がありました。
目先の「個人の取り分」と、未来の「全体のパイを広げる投資」。
この摩擦を乗り越えられるかどうかが、単なる個人の集まりで終わるか、強固な「箱(グループ)」になれるかの分岐点だったと言えます。
10年後、巨人を越えられる確率は「50%」
動画のクライマックス、赤間氏から「俺たちは10年後ににじさんじを超えられるか?」という問いが投げかけられます。
ホワイトボードに書かれた金井氏の回答は、実に小気味のいいものでした。
「10年後、50%」
根拠を尋ねられた金井氏は、あっけらかんとこう答えます。
「毎年2倍の成長を10年続ければ、数字上は1024倍になる。そして、夢を叶える道なんて『やり切るか、途中で辞めるか』の2択しかない。だから50%です」
一見すると乱暴な屁理屈に思えるかもしれません。
ですが、ここには挑戦者に対する強烈なエールが込められています。
ライバルの大きさを測って怯える暇があるなら、自分たちがやるべきアクションをやり切るだけ。外部の環境がどうあれ、最後にサイコロを振るのは自分たち自身なのだと。
急成長の裏にあった生々しいカオスと、エンタメビジネスの冷徹な構造。画面越しの熱狂を支えているのは、泥臭い人間たちの覚悟そのものなのだと気付かされる対談でした。