壇上に漂っていたのは、どこか張り詰めた空気でした。
2024年1月に端を発した騒動やSNS上の波紋。「このファンド、本当に持ち続けて大丈夫なのか?」――そんな拭いきれない不安を抱えた受益者(投資家)たちの前に、運用会社であるファンドノートの代表・渡辺氏、ファンドマネージャーの川井氏、そして助言会社Kaihou(カイホウ)の代表・井村俊哉氏が並びました。
なぜ、あれほどの摩擦が起きてしまったのか。
お互いの「正義」がぶつかり合った末の結論と、このファンドがこれから目指す景色について、当日の熱気とやり取りを紐解きます。
「100点」を求める職人と、「80点の現実解」を守る機関投資家
騒動の根底にあったものについて、渡辺氏は「十分なコミュニケーションと認識の共有不足」を挙げました。一方、井村氏が語った背景は、より生々しい職人気質と制度の摩擦です。
投資家への貢献を最大化したい井村氏は、常に「100点満点」の理想的な売買を突き詰めます。しかし、公募投資信託という仕組みには、法律やコンプライアンス、分散投資ルールといった厳格な枠組みが存在します。
たとえるなら、制限速度のないサーキットで最速ラップを叩き出したいレーサーと、安全基準を守りながら一般公道を確実に走破させなければならない運行管理者のような関係です。法規や安全マージンを考慮すれば、現実的な満点は「80点」にならざるを得ない。
「もっと先まで攻め込めるはずだ」と食い下がる助言側と、「ここまでしか踏み込めない」とブレーキをかける運用側。どちらも受益者の利益を真剣に願っていたからこそ、その「正義のズレ」が激しい感情の軋みを生んでしまったのでした。
現在は協議を重ね、双方が「公募投信という制約の中で出せる最高得点を狙う」という現実的な合意に達しています。
利益相反と「地盤ネット」への疑念
質疑応答で会場から最も鋭く切り込まれたのが、井村氏が関与する別案件「地盤ネット」との関係性です。
「魅力的な銘柄が見つかった時、カイホウファンドより地盤ネットを優先するのではないか?」
「私たちのファンドは二の次になるのでは?」
投資家なら誰もが抱く率直な懸念に対し、井村氏は「明確な棲み分け」を説明しました。
公募投信であるカイホウファンドには「解約への備え(流動性の確保)」が不可欠です。一方、地盤ネットのような枠組みは解約リスクがないため、極端に流動性が低く市場で放置されている超割安株を腰を据えて買い集めることができます。つまり、土俵となる銘柄の性質そのものが異なるため、奪い合いは基本的に起きないという理屈です。
とはいえ、「仮にどちらでも買える魅力的な銘柄が出た瞬間、どちらを先に買うのか」というエントリー順のルールについては、まだ完全な制度化の途上にあることも率直に認められました。外形的に疑念を持たれない仕組み作りをどう整えるか、今後の対応が注視されます。
下値を固め、「シャープレシオ」を取りにいく
では、これからの運用はどうなるのでしょうか。
井村氏は現在の相場環境を「土台がおかしい」と極めて冷静に見ています。大型テック株の急騰などを警戒し、下値リスク(ダウンサイド)を徹底的に抑え込む守りの姿勢を崩していません。現在はキャッシュポジションを多めに確保し、企業価値に対して極端に割安に放置されたバリュー株を厳選して拾い上げる戦略をとっています。
今後のポートフォリオは、かつての極端な集中投資から、当初想定していた20銘柄前後への適度な分散へと回帰していく見通しです。目指すのは、ジェットコースターのような急変動ではなく、シャープレシオ(取っているリスクに対してどれだけ効率よくリターンを得られたかを示す指標)の高い、滑らかで心地よい右肩上がりの資産形成です。
「爆発的な一発当て」を求める相場師としての闘争心は残しつつも、公募投信という器が担うべき役割は、投資家の資産を安定して守り育てることにある――そんな割り切りと覚悟が、二人の言葉の端々から伺えました。
最後に判断するのは、誰か
「これからもこのファンドを信じてお金を預けて大丈夫ですか?」
会場の切実な問いに対し、井村氏は「絶対に儲かるから信じてくれ」とは言いませんでした。
どれほど熱意を持って運用に当たっていても、市場に絶対はありません。安易な保証を口にすることは、プロとしての誠実さではなく、単なる無責任になりかねないからです。
「最終的にこのファンドへ投資し続ける価値があるかどうかは、皆さん自身が判断してほしい」
それは突き放した言葉のようでいて、投資家を一人の自立したパートナー(戦友)として見ているからこその敬意でもありました。
雨降って地固まる、となるか。それともまだ試練は続くのか。
体制を立て直した彼らが、これからの基準価格という数字でどのような「誠実さの証明」を見せてくれるのか、じっくりと見届ける必要がありそうです。