一過性全健忘。
**【対談本文】**
**ヨコオ(以下、ヨ)**:この前、家族が……っていうか、妻がちょっと病気になって。
**タロウ(以下、タ)**:うお。大丈夫なん?
**ヨ**:大丈夫。短時間で完全に治る病気で。
**タ**:短時間で治る? どんな病気?
**ヨ**:“一過性全健忘”って言うんだけど。
**タ**:なにそれ。突然なったの?
**ヨ**:うん。まず最初に突然、妻が「タイムリープした」って言いだしたんだよ。
**タ**:いやいや。大丈夫なん? この話。
**ヨ**:大丈夫。最初に言ったけど、もう完全に治ってるし、ここに書くことも妻の許可を取ってる。
**タ**:そうなんだ……で、何だっけ、その。
**ヨ**:一過性全健忘。
**タ**:そうそう。それ、どういう病気なの?
**ヨ**:短期記憶に関する機能が一時的にストップする、って病気なんだよね。
**タ**:短期記憶の機能がストップ?
**ヨ**:ストップするんだよ。
**タ**:意味がわからない。
**ヨ**:だよね……ざっくり言うと、ふたつポイントがあって。まず発症した瞬間から過去1週間〜数ヵ月の記憶が一時に取り出せなくなる。
**タ**:いわゆる記憶喪失かってやつ?
**ヨ**:そう。それが24時間くらい続く。
**タ**:24時間したら戻るの?
**ヨ**:いや、まあ、48時間くらいだったかな。完全に戻ったのは。
**タ**:そうなんだ……たいへんだね。
**ヨ**:いや、もっとたいへんなのがもう1個のポイントで。
**タ**:ひー。
**ヨ**:発症して数時間くらいのあいだ、短期記憶の機能がストップするんですよ。
**タ**:うん……それで?
**ヨ**:つまりそれは、“いま起きていることを記憶できない”ってことなのね。
**タ**:どういうこと?
**ヨ**:具体的に言うと、最初に様子がおかしくなって「タイムリープした」、「いま、何年何月何日?」、「私なんでこの服着てるの?」って聞いてくるわけよ。
**タ**:まあ、記憶が飛んだからね。
**ヨ**:それから3分後にまた「いま、何年何月何日?」って聞いてくるんだよね。
**タ**:お……。
**ヨ**:さらに3分後にまた同じことを聞いてくるわけ。つまり、記憶喪失したこと自体を、記憶喪失し続けるっていう。
**タ**:ループものだ! 映画の『メメント』みたいな感じ!
**ヨ**:そうなんですよ。
**タ**:それは……たいへんだね。
**ヨ**:それでまあ、様子がおかしいから僕も調べて、多分この“一過性全健忘”だろうと。
**タ**:なるほど。
**ヨ**:だから10回くらい繰り返したあたりで、ノートパソコンに大きく「あなたそういう病気にかかっています。今は2026年7月4日です」という、必要な情報を表示して3分おきに読ませたわけ。
**タ**:すごい。効率化だ。
**ヨ**:こんなループものみたいなことをやるなんて、ぜんぜん思わなかったよ。
**タ**:それで病院には?
**ヨ**:行った。救急車を呼んでいっしょに乗った。
**タ**:救急車。
**ヨ**:そのあいだ、妻は「初めて救急車に乗った……」って3分おきにくり返していた。
**タ**:そこもループなんだ。
**ヨ**:けっきょく、血液検査も脳のCTもMRIも問題なくて。原因不明で、この病気が疑われることになったという。
**タ**:疑いなんだ。
**ヨ**:なんか、検査とかでまったくわからないタイプの病気なんだよね。
**タ**:うはあ……それでいまは?
**ヨ**:もう大丈夫。本当に、完全に回復してる。安心してもらっていい。
**タ**:よかったねえ。
**ヨ**:この病気すごい不思議なんだけど、本当に24時間くらいで完全にもとに戻るんだよ。過去の記憶も戻ってくる。ただ、発症中の数時間の記憶だけは、覚えてないから取り出せない。
**タ**:はあ……すごいね。
**ヨ**:ただ、「あのとき視界が暗くなって不安だったことを、なんとなく覚えてる」って言うんだよね。
**タ**:暗い?
**ヨ**:ぜんぜん理由はわからない。もしかしたら、脳の中の短期記憶と、視覚機能が何か関係しているのかもしれない。
**タ**:はあ……人体は不思議だ。
**ヨ**:まったく。
**タ**:今回はオチはないの?
**ヨ**:こんなダイナミックな話をするときに、オチ作る余裕なんてないよ。勘弁してくれ。
* **テーマ**:配偶者が突然発症した「一過性全健忘(いっかせいぜんけんぼう)」の体験談。
* **エピソードのポイント**:
* 発症により過去数ヶ月の記憶が飛ぶと同時に、新しい記憶を数分間しか保持できない「短期記憶障害のループ状態」に陥った。
* ヨコオ氏は状況を把握後、ノートパソコンに「病気の説明・現在の日時(2026年7月4日)」を表示し、ループする妻に毎回読ませるという合理的な対処を行った。
* 病院での各種検査(CT・MRI等)では異常が見つからず、発症から約24〜48時間で後遺症なく完全回復した。
* 人体の不思議さやリアルな体験の切迫感から、今回は意図的な「オチ」をつけずに締めくくられている。