「タレント価値創出への集中的資本投下」


「タレント価値創出への集中的資本投下」
カバーといえば「ホロライブプロダクション」のメンバーを思い起こす人が圧倒的に多いだろうが、会社単位でいえば谷郷元昭(たにごうもとあき)CEOを想像するファンもいるはず。「YAGOO」(やごー)の愛称で親しまれており、イベントの挨拶で登壇すれば万雷の「YAGOO! YAGOO!」のコールで迎えられるほどの人気だ。

「本来の目的である期待に応えることと矛盾する結果を招いてしまった点については経営者として猛省しております。今一度地に足をつけて本質的な課題に向き合う覚悟です」という思いを強調。「これからは経営資源の投資を明確に集中させるということです」と触れた上で、中長期的に注力していく分野として「タレント価値創出への集中的資本投下」を挙げた。

……と固い言葉でいわれてもパッと頭に入ってこない方もいるかもしれないが、要するに、今までのように全方位でチャレンジすることから方針転換し、ヒト・カネ・モノなどを集中させて強いタレントを生み出し、そのタレントを軸にビジネスをつくっていこうという話になる。

2017年末〜2018年頭にVTuberのムーブメントが起こって以降、この業界全体は可能性を広げるために限りない挑戦を行ってきた。

カバーで言えば、例えばジャンルに特化したグループで、シンガーの「イノナカミュージック」やゲームの「ホロライブゲーマーズ」、先のホロスターズ、英語圏やインドネシア、中国向けのグループなどを投入してきた。

IPの活用でいえば、ショートアニメの「ホロぐら」、「ホロアース」も絡むメディアミックス企画の「ホロライブ・オルタナティブ」、音楽プロジェクトの「Blue Journey」などが挙げられる。今はインディーゲームの「ホロインディー」、カードゲームの「hololive OFFICIAL CARD GAME」、スマホゲームの「hololive Dreams」などが目立つだろう。

VTuber事業としての可能性がどこにあるのか。カバーも含めて、10年近く手探りで色々試してきたわけだ。しかし、そうした多くの挑戦がすべて当たるわけではなく、歪みや疲弊を生んでしまったケースもある。

今一度、立ち戻ってVTuberはタレントが中心で、そのタレントを起点として事業を回していこう。すぐにはできないかもしれないが、中長期的にエンタメ企業としてより大きくなっていくために、強いタレントを生み出し育てることに集中投資しよう……というのが発表会で語られた主旨だ。

そんな谷郷氏の「経営資源の投下先を、明確に集中させる」という思いは、上記の3点にまとめられる。谷郷氏の言葉そのままが一番伝わりやすいので、文字起こしをそのままお届けしよう。

谷郷氏 まず第一に、タレントの才能を開花させ、自身の強みを最大限に発揮し、突き抜けるための重点的な支援です。3月下旬に発表した星街すいせいの個人事務所の設立も特殊なケースではございますが、これに沿った戦略として捉えていただきたいと思います。4月の初めに発表したホロスターズの体制変更についても、ファンの皆様には、動揺を与えてしまったことを重く受け止めておりますが、現状を勘案した上で、心苦しくも必要な決断であったと理解しています。

今まで言及した件に関しては、既に発表を行っておりますが、この先も事業を継続している上で、会社全体で最適なリソース配分の見直しを行っております。これからはそうしたリソースを適切に還元し、自らの才能を磨き、さらなる夢に挑戦し続けるタレントの熱量に対して総合のサポートができるように、タレントに伴走してまいります。

ふたつ目は、当社の強みを伸ばすこと、すなわち技術への投資です。

世界中のプレイヤーが台頭する中で、我々がパイオニアとして他を圧倒し、最高の体験を届けるためには、日々進化する先端技術の開発が不可欠です。3Dコンテンツをはじめとする高クオリティーな配信、演出にこだわった大きな会場でのライブなど、そのどれもが技術の積み上げによって実現しております。

余談ですが、アップルの50周年を祝う世界的なキャンペーンの日本イベントに、当社所属の森カリオペが起用されました。私が感銘を受けたのはそこに起用されたこと以上に、アップル好きのテックギークの間でVTuberが話題になったことです。VTuberという存在とそれを支える技術が、テックギークたちの心を動かし、これまで触れ合わなかった領域が交わり合うことで生まれた新たな価値観。そこに私たちの技術の価値があると感じました。こうした技術的な強みを生かし伸ばすこと。それは他社には簡単に真似できない当社の強みです。

また、本日、ホロアースのサービス終了および財務的には開発資産の減損を発表しました。この点に関しては、経営者としての責任も痛感しております。

しかし、本件は単なる事業撤退ではなく、経営資源の投下先を明確に集中させるという方針の一環でもあります。元々、長期的なビジョンを掲げて開発を続けてまいりましたが、改めてVTuber事業を核に据えた事業展開をする上で、より接着しやすい形へと統合を図ってまいります。表面上は事業をたたむということでもありますが、これまでの開発資産はVTuber事業に引き継ぐ形になります。

今後は、ホロアースの開発によって得た知見やノウハウ、技術も合わせて、日常の配信やライブ演出へと統合し、さらなる体験を届けられるように、高みを目指してまいります。

最後に、次世代の才能の発掘と育成も中長期的な目線において重要な取り組みでございます。

先日発表した「mekPark」はこの点に関する取り組みとなります。同じユニットとして共に歩み、デビューを目指すという新しい形の育成プロジェクト。名称の由来でもある公園に誰もが集まり、切磋琢磨できる場所を作るというコンセプトの通り、ここから次世代のVTuberカルチャーを担うユニットを育てていきます。

主力事業へのプレッシャーが高まる中で、組織として、引いてはVTuberプロダクションとして、持続可能性を保つためには、新しい枠組みで人材を発掘し、育て、厚みを作ることが不可欠だと考えます。すべては十年先も、二十年先も持続的に成長するための取り組みへの移行です。

中盤からは、前述の3点について、具体的にどういった手を打っていくのか、より詳しい話が語られた。「タレント価値創出への集中的な資本投下」という目標に向けて、下記の3つの要素それぞれに対策を打っていく。

1.トップタレントを輩出し続けるためのマネジメントモデルの構築
2.統合的なファン体験を重視した開発プロジェクトの再編
3.グローバル経済の拡大と収益構造の最適化


上部にある「タレント価値の創出」が最も注力すること。具体的には、制作キャパシティーの向上、表現技術の研究開発、タレント・マネジメント改善を挙げている。

カバーの社員数は2026年3月の時点で741人とVTuber企業としては最多だが、「制作キャパシティーの向上」が挙げられているということは、配信や楽曲、MV、案件……など会社やタレントがやりたいことに対して制作体制が追いついていなかったということ。そこを事業整理とスタッフの再配置、個人事務所のようなリソースの外部化などで改善していく。

魅力的なタレントが生まれた後、ライブやイベント、グッズ、UGC参加などできちんとしたファン体験を提供し、さらもカードゲーム、ゲーム、コミックス、アニメ、世界タイアップなどのメディアミックスでさらに認知を拡大させてマーケットを掘り起こし、さらにまたタレントを強くしていく……というサイクルを繰り返す。


ロードマップで言えば、今はさらなる成長に向けた基盤を強化するための投資時期と位置付けている。


さらに「タレント価値の創出」について詳しく解説するスライドが続き、制作環境の整備、タレントマネジメントの強化、コミュニティーの健全化……という3つの要素が挙げられた。


ここでホロアースで培った技術が、VTuber側にも還元されるという話が触れられた。例えば、VTuberの服は通常、1点もののCGとして制作するが、ホロアースにおけるアバターの仕組みを使うことで着替えられるようになるなど、表向きにはユーザーが使わなくても自社技術として持っていて、既存のアプリに組み込めるのが強みだ(この辺の詳細は後述のQ&Aパートで解説)。

タレントの自宅の配信環境をアップデートさせての効率化、Unreal Engineを活用したルックと表情トラッキングなどの技術研究についても触れる。


「タレント価値の創出」のためには、まず才能の確保が起点となるだろう。「mekPark」は、練習生3人とディレクター1人がユニットとなって、最長2年でデビューを目指す新プロジェクト。目標に向けて努力するタレントをみんなで応援し、その成長に共感していくという種類のエンタメが実現されそうだ。

ほかにも常設オーディションを用意して新人を獲得し、独自のカリキュラムや育成を提供することで次世代のトップタレントとなれるところに当てていくという施策も展開していく。


「タレント価値の創出」のためには、まず才能の確保が起点となるだろう。「mekPark」は、練習生3人とディレクター1人がユニットとなって、最長2年でデビューを目指す新プロジェクト。目標に向けて努力するタレントをみんなで応援し、その成長に共感していくという種類のエンタメが実現されそうだ。

ほかにも常設オーディションを用意して新人を獲得し、独自のカリキュラムや育成を提供することで次世代のトップタレントとなれるところに当てていくという施策も展開していく。

VTuberを日常的に見ていない層に向けても、カードゲームやソーシャルゲームなどをきっかけに知ってもらい、ブランド力を高めていく。例えば、新作アニメで知ったから原作を読む、ゲームのコラボで知ったからアニメを見るといったように、間口が広い方がより多くの人に知ってもらえるだろう。

グローバルでのファン接点の拡大も同様。東アジアの大型タイアップ事例として台湾の「味全ドラゴンズ」では2日間でのべ10万人を動員し、会場となった台北ドームで歴代トップクラスの集客となったという。北米ではTwichとの24時間コラボイベント「holoday」で、関連SNSを含めて50万インプレッション、のべ25万フォロワーの獲得という成果を得た。

ここからは質疑応答で、登壇者はプレゼン発表と同じ30分をかけて記者たちの質問に丁寧に答えていった。筆者的には、いくら「タレント価値の創出」といってもコンテンツ業界は厳しい世界なわけで、リソースを注力すれば大ヒットを産めるという自信の裏付けはどこにあるのかという疑問が湧いてきた(あとはホロスターズの扱いだ)。