講演レポート:ReLU Gamesが語る、AI技術をゲームデザインに統合させた実装事例[NDC25]


📚 講演レポート:ReLU Gamesが語る、AI技術をゲームデザインに統合させた実装事例[NDC25]

AIは開発現場のゲームチェンジャーになり得る――ReLU Gamesが語る、AI技術をゲームデザインに統合させた実装事例[NDC25]

韓国のゲーム開発者向けイベント「Nexon Developers Conference 25」(NDC25)で実施された、講演「次のゲームチェンジャーとしてのAI」をレポートする。

本講演では、ReLU Gamesのハン・ギュソン氏が登壇し、同社のゲーム開発におけるAI技術の実装事例や、AIをゲームデザインに統合させるための方法論などが語られた。

ReLU Gamesと言えば、2024年5月にリリースした、AIを用いた音声入力ゲーム「魔法少女☆可愛いラブリー★ずきゅんどきゅんばきゅんぶきゅん☆ルルピン」のインパクトで話題を博したゲームスタジオだ。
本作がどんな衝撃だったかというと、「出生率が低下して魔法少女不足に陥った韓国で、中年男性の魔法少女(プレイヤー)がマイクに向かって魔法を唱える」というもの。字面で意味が分からなかった人は、ビジュアルで確認するといい。理解は遠くとも温度感は分かるだろう。

ゲームに用いられたAI音声認識技術については、プレイヤーが魔法を唱えると、AIが声色に込められた感情と意図を分析し、ゲーム内に魔法エフェクトのグラフィックスを生成するというものである。

開発チームは3人で、社内デモ版の完成まで約1か月。これはスタッフの能力だけでなく、“AI技術の効率化”によって成立したという。

AI活用に傾注するReLU Gamesの理念
最近、韓国のゲーム業界でも例に漏れず、「AIをどう活用できるか」が話題になっている。ネクソンもゲームのマッチング用途にAIを使用しているというが、ReLU Gamesもまた社名の意味のとおり(※)、ディープラーニングが失敗を吸収して覚える構造をなぞらえて、「私たちも失敗を吸収しながら、成功するビジョンを描く会社です」と述べた。

> ※ReLU(レルー。Rectified Linear Unit)は、ディープラーニング(深層学習)において活用される活性化関数の名称。

また、ハン・ギュソン氏は「楽しいゲームを作るのは本当に難しいことです。今日も考えていますが、この楽しいという概念自体が難しい。それは楽しいに求める答えが人それぞれだからです」と述べる。そのうえで、「AIを活用し、楽しいを追求しているのが私たちです」と続けた。

本講演では以降、彼らがゲームの重要な一部でAIと連携し、これまでどのような挑戦をして、総合芸術とされるゲーム作りを成してきたのか。今後の新作ゲームの紹介と合わせて語られていった。

同社は、「PUBG: BATTLEGROUNDS」でおなじみ、直近ではADKホールディングスの買収で話題になった、KRAFTONの傘下にあるスタジオだ。当初は「スペシャルプロジェクト2」という組織名で活動していたが、同チームにはそのころから“2つのルール”があり、それを今でも守っているという。

 * ゲームの楽しさをディープラーニングで生み出すこと。

 * ディープラーニングなしのゲームはなし。

なかなかに先進的な方針に思えるが、結果として時世が向いてきたことは言うまでもない。さらなる飛躍を感じさせる状況下だ。

失敗から学びを得たAIと入力装置の挑戦
これまでのプロジェクトでは「入力装置」(ゲームパッドやキーボードなど)に着目し、AIの導入を試みた。

一例としては、スマートフォンを動かす指先だ。手指のジェスチャーはフリップにホールドなど多種多様だが、それをさらに引き上げて「AIを介せば、1つのジェスチャーにたくさんの意味を込められるのではないか」と思案した。キーボード+マウスの操作を一動作にまとめるがごとく、次世代の操作を生み、描き、ディープラーニングに判別させた。

その結果、プロジェクトは大失敗した。
ハン・ギュソン氏は当時を振り返り、「短い繰り返しの魔法(操作)を描くのは単調で疲れます。それに単純な操作なのに意味が多すぎて、プレイヤーが覚えるのが大変になってしまいました」と語る。

そうしてこのアイデアは失敗したが、そこは吸収して再挑戦。今度は「声」に着目し、音声の認識と分析を介して入力装置として使用できないかと画策した。声もまた前述のとおり、「同じ言葉でも、発音で意味が異なる=多種多様な操作になる」と考えてのことらしい。

新たな発想から生まれたゲームが、キーマウ(キーボード+マウス)と音声コマンドを使うアクションストラテジー「Warkestra」だった。同作では音声でミニオンに命令し、敵との攻防を繰り広げていく。

ただし、プレイヤーが不慣れな操作体系であることから来る疲労感と、ゲーマーが思っていたよりもキーマウに慣れすぎている環境が問題に。結局、本作もわざわざ声を出させるより、キーマウのほうが手軽に感じられたため、失敗ではないが、いまだ日の目を見られていないそうだ(リリース日未定。プロトタイプのデモのみSteamで公開中)。

痛いけど美味しい「ブルダック」のようなゲームへ

しかし、「Warkestra」で得たものがあった。それは他者の感想が人それぞれだということで、より多くの人に楽しさを与えるに「痛いこともおいしいと思える(=普遍的じゃないけど楽しいと思える)、ブルダック(激辛の鶏料理)みたいなゲームを作りたい」と考えた。

そんなドーパミンで刺激するゲームを目指したのが、冒頭の「魔法少女☆可愛いラブリー★ずきゅんどきゅんばきゅんぶきゅん☆ルルピン」だ。なお、タイトル名は「私も言いにくいです」とのこと。

同作は、2024年11月の韓国ゲームイベント「G-Star 2024」の屋外スペースに展示されたとき、見た目からして異色なのが分かるブースの雰囲気で、多くの人たちが興味本位で寄ってきたという。

本作は冒頭での紹介のとおり、音声認識を利用したゲームだ。プレイヤーは中年男性の魔法少女となり、言葉で魔法を唱えて戦う。PvPモードでは入力された音声の魔法力も測定できる。

本作は現在、Steamでアーリーアクセスで提供されている。

ハン・ギュソン氏はこのゲームについて、過去作の「Warkestra」のノウハウが使用されているとした。また本作のコンセプトについて、(プレイヤーの9割が魔法少女でない可能性が高いならば)、「人物設定はこれよりも自然なゲームはありません」といさぎよく述べた。

会話AIをゲームの核に:NPCとの自由な対話

次の例に移る前に、ハン・ギュソン氏は「ゲームのNPCとの会話」を提示した。一般的なゲームでは、NPCとの会話はプログラミングされた固有のテキスト、あるいは選択肢で行うケースが大半だ。

しかし、NPCとのより自由な会話を実現するならどうすべきか。そこで彼らはChat GPTを用いた、ケースバイケースのAI対話を思いついた。現状、会話用テキストメッセージをAIに託す類似例はあるが、早い遅いの問題ではなく、ReLU Gamesにはそこにたどり着いた必然性を感じる。

その最初の到着点が過去作「Wish Talk」だ。プレイヤーは童話の主人公となり、メルヘンなキャラクターたちと“自分自身の会話力で話す”。プレイ中は、自分たちがなぜ会話をするのか、どんな話をするのかという気分にさせるのだという。

続く「Uncover the Smoking Gun」も、テキストの選択肢が存在しない推理アドベンチャーゲームだ。プレイヤーは殺人現場の証拠を探していくが、容疑者は人を殺したロボット。作家アイザック・アシモフが提唱したロボット三原則からも外れた人工知能体には、選択肢ではなく“自分で打ったテキスト”で尋問しなくてはならない。

本作でメタ的に重要になるのは「ハルシネーション」という用語だ。これはAIによる虚偽の返答などの意である。チャットAIで間違った答えを提示された覚えがあれば、ソレだ。ゲーム内では「AIっぽいから間違えているのか。わざとなのか」という表現に落とし込まれており、シンプルな構図ながらプレイヤーの推理は混迷を極めていく。

ReLU Gamesの未来:AIをゲーム体験の中核に

ここまでが、ReLU Gamesのこれまでだ。
次からは、最近の彼らがどんな関心を持っていて、今はなにをしているのか。ReLU Gamesのこれからが紹介されていった。
2025年内に配信予定の「MIMESIS」は、4人協力型の心理ホラーゲームだ。原因不明の雨で、一部の人たちが他人の言動を模倣する“ミメシス”に変異してしまう世界。プレイヤーは仲間たちと危険地帯からの脱出を目指すが、そのなかにはミメシス(仲間の言動を模倣するAI)がまぎれており、気を抜いていると、そのうち、あなたが――。

誰が本物で、誰がAIなのか。疑心暗鬼を利用した点は人狼系ゲームのそれに近いが、体験の質はだいぶ異なりそうである。
同じく年内配信予定の「Scavenger T.O.M: 終末の探検者」は、クラフト系サバイバルゲームだ。放射能で汚染された地上世界。地下でひっそりと生きているプレイヤーは探査ロボット「T.O.M」を操り、未知の地上を探検し、資源を集めてさまざまなロボットを作りだしていく。

地下にいるプレイヤーは探査中、T.O.Mのカメラ越しで荒廃した世界を見つめていく。地上にはさまざまな資源が散在しているが、本作ではそれらの世界にイラスト生成AIと物体検出技術(生成されたイメージからアクセスできるアイテムを判別する)が用いられる。

カメラ越しの世界は、見るたびに無限大に変わりゆく。それを終わりゆく場所で延々と見続ける。世界観だけでも訴えかけるものがあるだろう。

AI時代におけるゲーム制作と「良い質問」の重要性

新作群の紹介後、ハン・ギュソン氏は「ゲームはどう作るのか」という問いを提示した。その答えは多様で、ゲーム作りには専門技術が求められる。それがこれまでの時代の当たり前であった。

しかし、この先のAI時代では、画像を描くことも、音楽を生み出すことも、AIによって簡単に行われる。2025年2月には、かのイーロン・マスク氏がチャットAI「Grok 3」を用いて、10分間でゲームを作れたとSNSに投稿した。公開されたゲームはレガシースタイルのパズルゲーム相当だったが、時の流れを感じた人も少なくはないだろう。

しかし、イーロン・マスク氏よりも早くに、AIゲームを作っていた会社がある。「それがReLU Gamesです」と、ハン・ギュソン氏は言う。「AIの登場により、人間時代が終了すると心配している人がいるが、AIを使いこなせるかは“質問者”の力量次第です」と続ける。

AIはゲームを簡単に作れるようになってきたが、それがゲームらしいおもしろさを生むのかは分からない。ハン・ギュソン氏はこれについて、「Uncover the Smoking Gun」のプロトタイプを制作したころ、作るのに失敗して残しておいたメモの内容を披露した。

 * Chat GPTが正解を知っていても、人はそれを見つける手段がない

 * ゲームプレイには目的があり、Chat GPTは手段でなければならない。Chat GPTとの対話自体を目的にしてはならない

 * Chat GPT脱獄(※)を完全に防ぐことはできない。結局、脱獄が意味を成さないゲームを作るしかない

   > ※AIに特殊な方法で質問をし、答えてはいけない回答をさせること
   > 

 * Chat GPTとの対話をおもしろくするには、複数の会話構造を作らなければならない

ハン・ギュソン氏は最後に、「以前の時代は、質問と答えをすべて作成していました。しかし、これからは質問をよく思い出すのが重要な時代になっていきます。今は本を読むことなく、AIにすべてを読み込ませれば解決できる時代と言えますが、逆説的には、良い質問をするために本を読む時代が終わったのだとも言えます」と述べ、講演を終えた。