我が国の事情に踏み込むのはご遠慮願いたい。 内政干渉だ。
内政干渉?
ただ君が振られて悔しいという話だろう。
僕らは失礼するよ。 お招きありがとう。
確かめさせてもらうぞ。
あの化け物の妻となったのか否かを。
何考えてんだ? そのジェラルド王子ってのは公的でないにしろ急すぎやしねぇか、昨日の今日だろ。ろくな準備もできねえぜ。
それが狙いなのよ。今後の両国の関係をジルちゃんを交えて話し合いたい、なんて白々しいだろう。
その顔なんとかならねえのか。
そうね、ジル様、淑女らしく笑顔で。
こうですか?
完全に悪役顔だな。
すみません。可愛い顔なんて無縁で。
ジル様は十分可愛いですわ。
自信をお持ちになって、あっ、アクセサリーもいいものですよ。
そうですね。 では、暗器を仕込むガーターを…
おい、そこまでジラルド大使がお嫌いなのですか?
ええ、事情はどうあれ、あちらはジル様が誘拐されたと思いなんですよね。
はい。
それを否定なさりたいなら、まずはジル様が幸福であることを証明しなければなりません。
自分はここで幸せにしているのだと、表情で示すのです。
スフィア様はお強いのですね。
私、頑張ってみます。
ま、姫君をおつれしましたわよ。
お、紫水晶スフィア嬢の見立てか。普段の君もいいけど、ドレスの君もいい。
すごく可愛い。髪も編み込んだらどうかな?まだ時間はあるし、僕そういうの得意で。
今はいいです。 それに陛下の方が可愛いですから。
それは僕が君の好みじゃないって話かい?
おい。頭がおかしくなる。 会話は後にしろ。
もうすぐ時間でしょ。
そうだった。
クレイトス側は君が僕に誘拐されたと主張している。 否定の証明に君を同席させるが、基本ニコニコしているだけで…なぜどんどん怖い顔に?
敵襲かと思うと…。
(着いてきてなぜ私を迎えに来たんだろう。 ジェラルド王子の本当の目的が私であるはずがありません。とにかく大丈夫です。 私が必ずや陛下をお守りしますので。)
おい、こんな直前に。
陛下もスフィア様もちゃんとしてどうしたの?
可愛い笑顔に縁がない。自分が不甲斐ないだけです。
そんな君はジェラルド王子への殺気でいっぱいで、君さっきから僕よりあの大使のことで頭がいっぱいじゃないか?
は?冗談はやめてください。
何かあるんじゃないのか?あの婚約が内定していた以外にも愛と憎しみは紙一重とも。
全然ないですよ、何にも。
(6年後に殺されたけど)
予定変更だ、君は置いていく、あの大使に会わせるのは。
危険です。
陛下それに誘拐の誤解だって解けてないじゃん。
それでもだ、絶対に大使には渡さない。 君は僕のお嫁さんだ。
なら、陛下を1人で行かせるなんてできないんです。カミラ、ジークも陛下を止めてください。
なんで揉めてるんだ。
こんなとこでジルちゃん力じゃだめよ。
陛下は焼虫焼いてるんだけ。
…え?
2人してこっち見るな。
仲良しアピールしに行くってことを忘れないでよ。
あ、あの陛下ひとまずここは仕事ですから。
分かってるよ。
私も笑顔で頑張るので。
対処法ならあるけどね。
君が気にしてる可愛い態度とやらの。
え、そういうことは早く言ってください。
でも、やっぱり荒療治だし。
耐えます!足手まといは嫌なんです。 嫌ったりしない、なりませんよ。
絶対、絶対に絶対に絶対か?
言ったはずです。 私に二言はありません。
分かった君を信じる。
一体どんな策なんですか?
簡単だ君の頭を僕でいっぱいにすればいい。
え?
ほら、僕にすぐ隙を見せる君は可愛いな。これでウブで愛らしい少女の出来上がり、そのままとろけてればいい。
大人として、今のは一発殴らせろ。
大人としてよ。
だってジェラルド大使に仲を見せつけるにはこれが1番だよ。 僕のことで頭がいっぱいですって顔になればいいんだ。
あァ…初めてだったのに。
じゃあ、この後で2人きりでやり直す?
嫌いにならないとは約束しました。
ですが…。
急な訪問にも関わらず、対応していただけたことは感謝を申し上げる。 その話し合いの内容だが…。
どうした?話を続けてくれ。
失礼。ではまず話を伺いたい。
お話することなどありません。
すまない、実はここに来る直前喧嘩をしてしまってね。 お客様の前だよ。
ジェラルド王子、見ての通り、僕の婚約者はまだ若い。 このような態度を許してやって欲しい。
君の責任でもあるわけだし、どういう意味か分かりかねるのだが、君が彼女を迎えに来るなんて言うから僕も焼いてしまってね。 帰りたいのかと聞いたら愛を信じてくれないのか?と叩かれてしまった。
(そうか、私が怒っているのをそういう方向に、でも。 なんか腹立つ。)
サーベル家への連絡が遅れたことは謝罪しよう。だが、誘拐と疑うのは勘弁願いたいな。反対の方も叩かれてしまう。
皇帝が叩かれるとはどういうことだ?
僕は妻には膝まずく皇帝だ。
さて、誤解が解けて本当に良かった。
今日は素敵な訪問だと聞いた。ゆっくり観光していってくれ。
話はまだ!
では、夫婦喧嘩の仲裁でもしてくれるのかな?
仲裁など必要ありません。 陛下が精神誠意謝ってくだされば。
いくらでも謝ろう。 どうやって君に機嫌を直してもらおうか、こういう悩みっていいな〜。
そ、そういうことですので、私へのご心配なら無用です。 ご足労をおかけして申し訳ありません。 戻る気はないと。
君は私の婚約者に内定していた大使の后になる。
家族も故郷も捨てたのに、なぜ陛下は私を必要としてくださっているのでしょうか?
必要?なるほど。
では必要がなくなればいいわけだ。
どういう意味だ。
14歳未満で、あなたが示す何かが見えるのが婚約の条件だ。
そうだな。 竜神が見えるほどの魔力を持った少女を探している。
呪いを防ぐためだろう?
魔術大国クレイトスの王子らしい。 考察だ。
否定はしない。 しかし、ジル嬢ではその呪いを防げていないとしたら?
軍港の事件は私も近況を読んでいる。 後爵を生かしたのは政情に配慮した。
英断だった。 呪われた皇帝というのはただの噂だったと住民も安堵している。だがもし呪いが解けていなければレイル公爵は死ぬ。私はそう分析するが、どうかな?
失礼します!!
会談中、大変失礼いたします!是非、陛下にお知らせ申し上げたいことがッ!
ベイル公爵が死んだ。
死因は窒息死、看守の証言では獄中で自ら首を絞めたって話よ。
自分で、って正気かよ。
スフィア様は今遺体の確認に行ってるわ。 あんな事件を起こしても、父親は父親。辛いわね。
こっちはこっちで早いとこ箝口令を敷かねぇとな。
無駄ね。 もう町中に知れ渡ってる、「 陛下の呪いで殺される」ってみんな怯えてるわ。ヒュームが言うにはそれを煽ってるやつがいるみたいだけど、ジェラルド王子かもしれません。
(ジェラルド王子ってなんでまた会談の時に気になることを言っていたのかしら「 では、必要がなくなればいいわけだ。」)
公爵の死をきっかけに呪いの元凶である陛下を殺そうとする連中だって出てくると思いますし。
なるほど。 そいつらとジェラルド王子が繋がっていたらあり得る話ね。
(私の知っている未来でもそういうやり方をしていた。)
実際のところ、呪いってのは本当にあんのか?
それは…
でもベイル公爵の死に方は普通じゃないわよねえ。
ジルちゃん魔法の盾の話覚えてる? 実はあれ続きがあるの。
魔法の盾で大地の呪いを防いだ後、呪いを無効にされたことで、女神はすごく怒ったの。それで本来の姿だと盾に弾かれちゃうから、黒い槍に化けて運んでもらってこっちに来たのよ。
それってクレイドに代々受け継がれてるっていう女神の聖槍のことですか?
(実在するのか、こっちの龍天の天剣と合わせて伝説とばかり思っていたが)
天剣はないんですか?
何百年も前に消えたって話だ。拝めるなら拝んでみたいもんだけどな。
それで海を渡ってラベ帝国に来た。
槍はクレイトス王国の人間によって夫婦に献上された。
その場で王子を刺しちゃうの?
正体が女神だと気づいた王子は命と引き換えに剣で自らを女神ごと貫いて自分の影に封じ込めた結果、魔法の盾は消滅したけど、女神は元の姿に戻れなくなって大地の呪いも消えた。あくまで神話だけどな。
同じ目に会うと決まったわけじゃない。 呪いの内容も後退し、あの時とは違うしな。
あれはむしろ皇帝陛下の即位を助けたようなもんでしょう。
陛下は呪われた王子として孤立させようとし向けられているんじゃないですか?
誰になる? それは…。
分かってるのはあの公爵が死んだことで皇帝への反発が一層強まるってことだけね。
そう。
スフィアちゃん今日はもう休め。
疲れたろ。
いい?
ご挨拶をしないとスフィアちゃん。
ちょろちょろとちょこまかと!
お前は誰だ?
私は、私こそが皇帝の妻、お前は偽物。
ジープ?
スフィア様?
スフィア様は何者かに操られてる?
それなのに殺して!私をあなたを愛してあげられるのは私だけなのに!
陛下!
ビームサナルか。
だから私しかいないのよ!
失せろ!
もう消えた。
なぜ助けた?
君が関わらなければ殺せた。
あの影なら今私が。
あれは狡猾な女だ。まだ彼女の中に潜んでいるかもしれない。
傷つける以外のことをまず考えるべきです。
判断するのは僕だ。
ならせめて事情を!
スフィア嬢を渡せ、さっきの影は自分こそ、竜帝の妻だと!
私を偽物だとも言いました。
あなたの妻は私のはずです、陛下!
浮気をとめられるようなことを言われるとは思わなかった。
僕を愛してすらいない君から。
女性に取りつく化け物が入り込んだ。領内の女性全てを城に連行するよ。今すぐ町に御布令を出す。特に14歳以上には気をつけろ。暴れた場合は即座に殺せ、名目は批難。拒めば反逆罪と見なす。
待ってください!そんな強硬策、住民の反発を招きます!ただでさえ、呪いだなんて言われている。
こんな時に例外は一切認めない。
ヤツの器に適合する女性など、この町にいるとは思えないだが、復活でもされたら厄介だ。
(本来の姿に戻れなくなった女神。女神が能力に目覚めたのが14歳。もしそれらが神話ではなく事実だったとしたら…そうか。 14歳未満という条件は器になり得ない。 決して女神にならない女性。女神を弾くための条件。)
ガミラ、スフィア嬢を連れて行け、僕の結界内で監視する。
しょ、承知しました。
殺さなければ文句はないだろう。 僕はこれでも君に譲歩しているつもりだ。 妻には膝まずくと決めているからな。
何が妻には膝まずくだ。
あのバカ!
(意思を持った黒い槍。女神の器、竜帝の妻、夫婦になるはずだったって。 創作は真実なわけか。 私はそこに巻き込まれている。)
僕を愛してすらいない。
陛下のどこがいいんだ。すぐ倒れるし、頼りがいもない。 でも料理は美味しい。りんごのうさぎを教えてくれた。 罵倒されても希望を叶えてくれた。 夫婦になろうと願ってくれた。 愛は求めてくれた。
助けてもらった。
俺言わなきゃ。
ど、どうしたんですか?
君こそ。
ジルちゃん起きててよかったな。ほら謝れえ。
僕は悪くない。
あなたは何なんですか?
僕は間違ったことは言ってない。
でも君に嫌われるのは…
陛下左手を見せてください。
手当ては…別に痛くないし。
すぐ治るから。
痛くないわけないでしょ。 ほら、私の魔力で治療して包帯を。
今は優しくしないでくれ、どうしていいか分からなくなる。
だったら簡単に謝りになってこないでください。
いや、謝りに来たわけじゃない、ただ。
陛下はいつもそうです。 嫌われたくないとか、疲れた、とか言うくせに決して自分には踏み込ませようとしないくせに。家族計画?は?ふざけないでください。 私が気づいてないとでも思ってるんですか?
お前は私の名前を呼んだこともないじゃないか。
それはな…。
やめろ!
?
でもいいんだ。 君は正しい。
僕らは想い合うべきじゃない。そんなもの、地獄の始まりだ。
皇帝陛下!町から火が上がりました。火の周りが早く、しかも住民が暴動を起こして城へ向かっています!
危険ですので、こちらへ!
ローブ、彼女を頼む。
あいよ。
化け物の呪いだと言えば何もかも気が済むのか、便利なことだ。
妻に娘、あくまでも避難だと言ったはずだが、呪われた者の言葉など信じるに値しないか。
皇帝陛下、今の悲鳴は?
女たちを取り戻すために忍び込んだ町の者だ。火災と暴動は真実か?
は、はい。 それは…。
その言葉を選ぶ必要はない。 暴徒の狙いは僕の首だろう。 町の消火に全力を注げ、あとは全て僕が処理する。
待ってください! 殿下を止めろ!
聞こえないぜ? ここは世界一安全な結界の中だ。 ごめんな。