【サイゼリヤ】堀埜一成


「おまえ、4月から社長な」

カリスマ創業者から2代目社長に指名された生産技術者、堀埜一成。

外食控え、人手不足、原価高……外食産業に逆風が吹く中、13年にわたってサイゼリヤの社長を務めた著者は、いかにして危機を乗り越え、同社の急速拡大を実現したのか?

・広告費は原価に回せ
・ライバルは見ない。見るのはお客さまだけ
・「当たり前品質」を当たり前に提供する
・キッチンスペースを半分にして利益率改善
・二流の立地で安く始める中国出店戦略etc...

野菜づくりから組織づくりまで!?異色の「外様」社長が実践した“理系発想の合理的経営術”、教えます。


サイゼリヤの強さの理由を学べるが、これは真似できない

京都大学農学部を出て、同大学院の農学研究科を修了後、味の素に入社して、43歳のとき(2000年)にサイゼリヤにヘッドハンティングされ、2009年に社長に就任。2022年に退任した堀埜一成元社長が綴る『経営術』。
経歴だけで判断すると、京大の農学部出身だからサイゼリヤの野菜生産の効率化とコストカットで成した人なのだろうと思うわけですが、読みすすめていくと、専攻は微生物で、農業は学んでいないと明かされます。えっ!? となります。
サイゼリヤに声をかけられるまで、サイゼリヤを知らず、下戸だからワインも飲めないという元社長が、部外者だったからこそ、外からの目線でサイゼリヤの特徴をわかりやすく綴ってくれています。
なぜサイゼリヤは低価格を実現できているのか? なぜサイゼリヤは強いのか?
低価格を実現できたとしても通常であれば店舗で働く人たちにシワ寄せが来るはずなのに、なぜサイゼリヤは店員さんたちの厚遇を維持できているのか?
本書を読めば、すべて納得できます。しかし逆に言えば、サイゼリヤのこの強さは真似できない。本来であればトップシークレットにすべき内容を惜しげもなく明かしている理由は、そう簡単には真似できない経営術だからなのでしょう。
この経営術に驚くのですが、真似できないので愕然とするだけです。

書き言葉ではなく、話し言葉を書き起こしたような文章で、とても読みやすいですし、わかりやすいです。しかし、たまに、アメリカの空軍大佐が理論化して、いまはビジネスや組織運営の思考の高速化や効率化の概念として使われている思考プロセスの話がシレッと出てきたりします。わかりやすい文章の節々に知性が滲み出ています。
文章がメインで、理論を図式化したグラフやトマト栽培の様子の写真も載っていますが、図や写真は少ないです。全部で6枚のみです。いずれも白黒です。サイゼリヤの店内の様子や料理の写真はありません。


ビジネス本として様々なhow toが纏められているものというより、サイゼリヤ元社長の経営哲学というか、自身のそれまでの経験と異業種で新たに得た知見をミックスさせて、どのようにサイゼリヤの課題を捉えてそれらを解決していったのか、その物語になります。

まず色々な意味で普通の人が真似できるレベルではありません。サイゼリヤに引き抜かれ、最初にいきなり山ごとまかされてそこからレタス栽培など、まぁ普通の人間なら何をすれば良いのか茫然と立ち尽くすのが関の山ではないでしょうか。当たり前ですが元々物凄く有能な人で、超難関と言える味の素に就職して30手前で海外勤務を経験、戻ってきて30半ばで課長(恐らく出世コースではないでしょうか)ということで、知識・バイタル・行動力全て桁外れです。

そのため簡単に参考にできる何かという内容ではありませんが、それでもそういった凄い人がサイゼリヤの課題を認識して、それを解決していき今のサイゼリヤに至ったというストーリーは読みごたえがあり、サイゼリヤが如何に凄い会社なのか少し分かりました。個人的に一番共感したのは、「スタッフ型の人間をマネージャーにしてはならない」ということで、それらは優劣ではなく向き不向きであるという点です。日本だとキャリアパスの観点から最終的にマネージャーに繋げる(そしてマネージャーでないと給与が上がりづらい、マネージャーが偉い)というきらいがあり、私自身それにより力を発揮できなくなった人を見てきたことがあるので、読んでて苦い経験を思い出しました。

文体も非常に読み易く、誰でもオススメできる本です。読了後は、あらためてサイゼリヤに行きたくなりました。