AbemaTVが200億円もの投資を行う理由

いわばタダでコンテンツを見てもらい、広告で収益をあげるビジネスモデルは、ほとんど世界的にも見たことがないし、成立していないと思うんです。ということは、本当に我々自身が自分たちとの勝負みたいなもので手がけ始めた事業です。

僕が長年、ネットビジネスをやってきた感覚で、ある程度の規模にメディアが成長すると、広告がものすごく簡単に売れていく。けれど、逆にいうと、小さい規模はものすごく苦しい。だから、例えば月に10億円広告を売り上げられたら、もう20億、30億は簡単だけど、数億円を売り上げて回すというのは本当に難しいという感覚です。とにかく規模を拡大しないといけない。

今、だいたいMAU(注:1ヶ月間の利用者)が800万人で、だいたいWAU(注:1週間の利用者)でいうと半分です。400万ぐらい。WAUでだいたい1,000万ぐらいまでいくと、その領域に乗っていく。あと2倍ちょっとだという感じがあるので、もう1年ぐらいは同じペースで投資をし続けて、会社が赤字を許容するという考え方です。

ちなみにこの無料で広告という手応えですが、AbemaTVの7割ぐらい10代、20代という非常に若い世代が見ているんです。あとは30代前半。これはテレビ離れをしているといわれている世代です。そもそも、そういったユーザーに対してCMを流す手段は、今までなかったということです。

インターネットサービスのなかでも、ちゃんとクオリティを保証できるような広告のスペースは非常に限られている。最近ちょっと話題になっている、YouTubeの広告が違法なものにも出てしまうということがありましたけど、やっぱりCGM的なものはそういう難しさがある。

そういう意味で、広告の引き合いはかなり強いですよ。だから、けっこう順調に入ってきています。

AbemaTVはもう開局直後からタイムシフト、いわゆる録画は有料という考え方でやっています。Abemaビデオは、全体の5分の1は無料で見られる。けど、基本的にはプレミア会員、月960円の会員になってくれたら見放題ですという考え方。

これも、もともと僕がテレビ朝日で番組審議委員をやりながら非常に課題に感じていたことです。テレビの視聴率が下がってきたけど、タイムシフト視聴を足すとけっこう(視聴率は)大きいと言われている。ただ、タイムシフト視聴やビデオ視聴だとCMが早送りされてしまう。

つまり、ビジネスモデルが成立していないまま、タダで見られてしまうという難しさ。どんどんドラマをタイムシフトやビデオで録画で見るようになっていくことに危機感というか、問題意識を感じていたんです。

最初からリニア、生放送で見るときは、広告が入っているからタダでいいです。録画を見る場合は、これはもうDVD販売してるのと一緒だから、本当は課金しないといけないと僕はずっと思っていた。だから基本的にAbemaTVは、オンタイムで見るものは全部タダだけど、オンデマンドで見るには課金をしてくださいねという考え方でやっている。

本来、そうあるべきだと。それを我々だけで成立させられるかは、まさにチャレンジしているし、フロンティアとして成立させようという最中ではあります。

1つ言えることは、インターネットの世界は、かつての我々がやっていたブログや仮想空間とか、広告でいうとバナー広告やテキスト広告のような、そういうインターネットだけで完結する、わりとマイナーな世界というか、インディーズな世界から、完全にメジャー、ハイクオリティな世界に変わっている。

例えば、インターネットで映画を見るようになった。ドラマにしても、ニュースにしても、アニメにしても、そこでクリックしてどうこうという話じゃないですよね。

逆いうと、クライアントはバナー広告のスペースのなかでブランディングしたいわけじゃなく、自社のホームページに連れてきたい。テキスト広告がそこのリンク先みたいなものだよと。

そういう時代から、この5年ぐらいです。スマートフォンが普及し、PC端末もオシャレになり、Wi-Fiが普及しているこういう状況、あとテレビデバイス、スマート……ChromecastとかFire TV、Apple TVみたいなものがある。

なので、そういうなかで広告の位置付けが、バナー広告から今までのテレビCMのようなものに変わっていく。かつてできなかったブランディングのようなもの、告知効果のようなものが広告という表現のなかでできるようになる。今は明らかな変化のちょうどその過程にあるんだなという感じです。

非常に難しいですけど、このAbemaTVをやると言いだして、今の僕じゃないと、みんな言うことを聞かなかったと思うんです。

なぜ今の僕だったらいいかというと、かつて黒字化できないだろうといわれたアメーバブログを黒字化させたり、サイバーエージェント社も上場以来4期赤字だったので、もう黒字化できないといわれたのを今のかたちに育てた。

要は、その過程はみんなすごく不安なので、「この社長大丈夫かよ?」とリーダーをみんな疑い始めるし、ダメな理由をその間にいろいろあげつらう。ですけど、それってすごく説得力があるんですよ。


だけど、これだけやってきたから、今回のAbemaTVもなにか勝算があるだろうと、みんな思っているんです。うちの社内でも、提携しているテレビ朝日も投資家も。はっきり言って、正直、僕もわからないですけど、気合でやるしかない(笑)。

もちろんいけると思ってやっていますよ。いけると思っているけど、でも、やっぱりそれにみんなが巻き込まれて、「俺もいける」「俺もいける」と、みんなの熱意で結局はかたちになっているものが多いです。新規事業は、誰かが不可能を可能にしたから存在しているものが多いので、誰がやってもうまくいくものじゃない。

そうすると、みんなを黙らせるような地位にいたり、過去の実績がないと、その間耐えきるのは本当にすごく難しいです。

だから、大きなチャレンジをする時に途中でくじけそうになる気持ちもすごくわかるし、「やれるものならやってみろよ」というぐらい大変だと思うんです。

ですから、将来こうなるんだというビジョンをその期間に描いても、誰も聞いてくれない。誰も先が見えない新しい事業、例えばAbemaTVのようにそもそも他にやっている人がいないものは成功するかどうかもわからない。

それでも、いかなる批判があっても耐えきるしかない。