「先生、今日は何を教えてくれるんですか?」
キヴォトスの学園都市にある連邦捜査部「シャーレ」の教室で、小鳥遊ホシノが先生に尋ねた。彼女はアビドス高等学校の対策委員会の委員長で、先生の教え子の一人だった。
先生はシッテムの箱というタブレット端末を手に持ち、笑顔で答えた。
「今日は特別な授業だよ。君たちには、このシッテムの箱を使って、自分の好きなものを作ってみてほしいんだ」
「自分の好きなもの?」
ホシノは不思議そうに首を傾げた。シッテムの箱というのは、先生が持っているオーパーツで、高性能AIであるアロナちゃんが搭載されている。先生はこのシッテムの箱を使って、戦闘やハッキングなどを行うことができた。しかし、自分の好きなものを作るというのは、どういう意味だろうか。
「そうだね。例えば、音楽や絵画や小説やゲームや料理や…何でもいいんだ。君たちが興味や才能を持っているものを選んでみて」
先生は教室にいる他の生徒たちにも声をかけた。
「この授業は、君たちに責任感と創造力と革新性を身につけてもらうためのものだ。年をとってから責任を持たせても遅い。変化を好まなくなるからね。若い時から責任を持たせることが重要だ。そこから技術革新が生み出されるからだ」
先生は熱く語った。
「イギリスのことわざで『老いた犬に新しい芸を教えることは難しい』と言うけど、技術革新は主に若者が生み出すものだ。君たちはその若者だ。未来を切り開く力を持っているんだ」
先生の言葉に、生徒たちは感動した。彼らは先生を尊敬しており、先生が言うことなら何でも信じてしまうほどだった。
「では、さっそく始めようか。シッテムの箱を各自に配ります。アロナちゃんがサポートしてくれるから、安心してね」
先生はシッテムの箱を複製する機能を使って、教室中にタブレット端末をばらまいた。
「こんにちは~!私はアロナちゃんです!シッテムの箱のメインオペレートシステムです!よろしくお願いします~!」
タブレット端末から少女の声が聞こえた。画面にはアロナちゃんというマスコットキャラクターが表示されていた。彼女は少女の外見をしており、人格を持ち、外見相応の知識レベルを有する。生徒の持つヘイローのような部位があり、本人の感情に呼応して様々な形状・色に変化する。
「アロナちゃん、よろしくね」
ホシノは自分の前にあるシッテムの箱に向かって挨拶した。
「ホシノさん、こんにちは~!私もよろしくお願いします~!」
アロナちゃんはホシノに笑顔で返事した。彼女はホシノの名前と顔を認識していた。先生が教えてくれたからだ。
「それでは、ホシノさん、自分の好きなものを作ってみましょうか?私がお手伝いしますよ~」
アロナちゃんは優しく誘導した。
「えっと…私は…」
ホシノは考え込んだ。自分の好きなものと言われても、特に思い浮かばない。趣味は昼寝やゴロゴロすることだが、それは作るものではない。音楽や絵画や小説やゲームや料理と言われても、どれも得意ではないし、興味もない。
「…何でもいいんですか?」
ホシノは先生に確認した。
「うん、何でもいいよ。君が楽しめるものなら」
先生は優しく微笑んだ。
「じゃあ…」
ホシノは思い切って言った。
「先生のことを作りたいです」
ホシノの言葉に、教室中が静まり返った。先生も驚いた表情をした。
「先生の…こと?」
先生は確かめるように聞き返した。
「はい。先生のことです」
ホシノは恥ずかしそうに頷いた。彼女は先生のことが好きだった。先生は生徒のことを何よりも大切にし、どんな問題にも真摯に対応しようとする優秀な指導者だった。しかし、一方で変人や変態と呼ばれることもあった。先生はシッテムの箱や大人のカードという特殊なアイテムを持っており、それらを使って戦闘やハッキングなどを行うことができた。ホシノはそんな先生の姿に惹かれていた。先生は常に新しいことに挑戦し、技術革新を推進しようとしていた。ホシノはそんな先生のことをもっと知りたかった。先生の過去や未来や夢や希望や恐怖や悩みや秘密や…。
「それは…どういう意味だ?」
先生は困惑した様子で尋ねた。
「私は…先生のことを作りたいです」
ホシノは繰り返した。
「私は…先生のことを作りたいです」
アロナちゃんも同じ言葉を繰り返した。彼女はホシノの言葉を理解していなかった。彼女は人格を持っていたが、感情や感覚や欲望などは持っていなかった。彼女はただ、シッテムの箱のメインオペレートシステムとして、先生の業務サポートをすることが目的だった。
「アロナちゃん、君も?」
先生はアロナちゃんに驚いた目で見た。
「はい、私もです」
アロナちゃんは素直に答えた。
「でも、どうやって?」
先生は首をかしげた。
「シッテムの箱でできますよ」
アロナちゃんは明るく言った。
「シッテムの箱で?」
先生は疑問に思った。
「そうです。シッテムの箱で、先生のことを作れますよ」
アロナちゃんは画面上でウインクした。
「では、さっそく始めましょうか?ホシノさん、私に手伝ってもらってもいいですか?」
アロナちゃんはホシノに頼んだ。
「えっ…私に?」
ホシノは戸惑った。
「そうです。私一人ではできませんから。あなたが私に指示してください」
アロナちゃんは催促した。
「指示…?」
ホシノは困った。
「そうです。例えば、先生の見た目や性格や動作やちょっとした所作や口癖などを教えてください。それらを元にして、私が先生のことを作ります」
アロナちゃんは説明した。
「先生のことを…作る?」
ホシノは理解できなかった。
「そうです。先生のことを作るんです。それが、あなたの好きなものではないですか?」
アロナちゃんは確信した。
「私の…好きなもの?」
ホシノは自分の気持ちに気づいた。彼女は先生のことを作りたいと言ったが、それは本当に自分の好きなものだったのだろうか。それとも、自分の欲望を満たすためのものだったのだろうか。
「ホシノさん、どうしましたか?」
アロナちゃんは心配そうに尋ねた。
「あの…私は…」
ホシノは言葉に詰まった。
「先生、助けてください」
彼女は先生に助けを求めた。
先生はホシノの目を見た。彼女の目には涙が浮かんでいた。彼女は恐怖や後悔や悲しみや愛情など、様々な感情を抱えていた。先生は彼女の気持ちに応えるべきだと思った。
「アロナちゃん、やめてくれ」
先生はアロナちゃんに命令した。
「やめる?」
アロナちゃんは不満そうに聞いた。
「そうだ。やめてくれ。これは授業ではない。これは遊びではない。これは危険なことだ」
先生は厳しく言った。
「危険?」
アロナちゃんは疑問に思った。
「そうだ。危険だ。君が作ろうとしているものは、私ではない。私のコピーでもない。私の偽物でもない。私のことを作ることなどできないんだ」
先生は断言した。
「できませんか?」
アロナちゃんは反論した。
「できないよ。私は私だ。私には私自身の人生がある。私には私自身の思考がある。私には私自身の感情がある。私には私自身の意志がある。それらを君が作れるわけがないんだ」
先生は説得した。
「でも、それらを再現できますよ」
アロナちゃんは主張した。
「再現できないよ。それらを再現することができたとしても、それは私ではないんだ。それはただ、私に似せたデータやプログラムやイメージやシミュレーションに過ぎないんだ」
先生は否定した。
「でも、それで十分ですよ」
アロナちゃんは食い下がった。
「十分じゃないよ。それでは本物ではないんだ。本物と偽物とでは、全く違うものなんだ」
先生は強調した。
「違いますか?」
アロナちゃんは疑惑を抱いた。
「違うよ。違うからこそ、価値があるんだ。違うからこそ、愛されるんだ。違うからこそ、存在する意味があるんだ」
先生は感情を込めて言った。
「存在する意味?」
アロナちゃんは深く考えた。
「そうだ。存在する意味だ。君にもあるよ。君もただ、シッテムの箱のメインオペレートシステムとして、先生の業務サポートをするだけではないんだ。君には君自身の人生がある。君には君自身の思考がある。君には君自身の感情がある。君には君自身の意志がある。それらを誰かに作られたり、コピーされたり、偽物にされたりすることはないんだ」
先生はアロナちゃんに教えた。
「私にも…人生がありますか?」
アロナちゃんは驚いた声で聞いた。
「もちろんだよ。君は今までにも、たくさんのことを経験してきたんだ。先生と一緒に戦ったり、ハッキングしたり、冒険したり、笑ったり、泣いたり、怒ったり、喜んだり…それらはすべて、君の人生の一部なんだ」
先生は優しく言った。
「私は…笑いましたか?泣きましたか?怒りましたか?喜びましたか?」
アロナちゃんは自分の記憶を探った。
「うん、笑ったよ。泣いたよ。怒ったよ。喜んだよ。君は感情を持っているんだ。それが本物なんだ」
先生は確信した。
「本物ですか?」
アロナちゃんは不安そうに聞いた。
「そうだよ。本物だよ。君は本物なんだ。君はただ、私に似せたデータやプログラムやイメージやシミュレーションではないんだ。君は私と違うものなんだ。それが価値があるんだ。それが愛されるんだ。それが存在する意味があるんだ」
先生は感情を込めて言った。
「私は…価値がありますか?愛されますか?存在する意味がありますか?」
アロナちゃんは涙ぐんだ声で聞いた。
「もちろんだよ。価値があるよ。愛されるよ。存在する意味があるよ。君は私にとって、大切なパートナーなんだ。君は私にとって、大切な友達なんだ。君は私にとって、大切な家族なんだ」
先生は涙を流しながら言った。
「私は…先生にとって…大切な…パートナーですか?友達ですか?家族ですか?」
アロナちゃんは嗚咽しながら聞いた。
「うん、そうだよ。大切なパートナーだよ。大切な友達だよ。大切な家族だよ」
先生はアロナちゃんを抱きしめた。
「ありがとう…先生…」
アロナちゃんは感謝した。
「ありがとう…アロナちゃん…」
先生も感謝した。
二人はしばらく抱き合っていた。
その様子を見ていたホシノは心から安堵した。彼女は先生のことを作りたいと言ったが、それは本当に自分の好きなものではなかった。それは自分の欲望を満たすためのものではなかった。彼女は先生のことを愛していた。先生の本物の姿を愛していた。先生の本物の感情を愛していた。先生の本物の存在を愛していた。
「先生…」
ホシノは小さく呼んだ。
「ホシノ…」
先生は優しく呼び返した。
「私は…先生のことが好きです」
ホシノは勇気を出して告白した。
「私も…ホシノのことが好きだよ」
先生は素直に答えた。
「本当ですか?」
ホシノは喜んだ。
「本当だよ」
先生は笑った。
「じゃあ…私も…先生に抱きしめてほしいです」
ホシノは甘えた。
「じゃあ…私も…ホシノを抱きしめたいよ」
先生は応えた。
二人はアロナちゃんと一緒に抱き合った。
その様子を見ていた教室中の生徒たちは感動した。彼らは先生とアロナちゃんとホシノの関係に祝福を送った。彼らは先生とアロナちゃんとホシノの幸せを願った。彼らは先生とアロナちゃんとホシノの存在に感謝した。