「先生、これって本当にあるんですか?」
ミカが目を輝かせて、先生の手に持ったファイルを指さした。
先生は笑って、ミカの頭をなでた。
「あははっ!何それ、おもしろーい☆」
ミカは先生の変な行動に笑いながら、ファイルを奪い取った。
「これはね、クレプトマニアという病気の患者さんの事例だよ。窃盗癖があって、どうしても止められないんだ」
「窃盗癖?それって、何か欲しいものがあるから盗むんじゃないんですか?」
「そういう理由もあるけど、それだけじゃないんだ。この人たちはね、盗むこと自体に快感を感じるんだよ。それがストレス解消になるとか、寂しさを埋めるとか、そういう感情的なものが大きいんだ」
「へぇ~…でも、それってすごく危険じゃないですか?捕まったりしないんですか?」
「捕まることもあるよ。でも、それでもやめられないんだ。それくらい強い衝動があるんだよ」
「そうなんだ…」
ミカはファイルを開いて、中の写真や文章を見た。
そこには、様々な年代や職業の人々が写っていた。
彼らはみな、普通に見える人々だった。
でも、彼らはみな、何かを盗んでいた。
デパートでサングラスを万引きした男性。
リサイクルショップでDVDデッキを盗み、別の店で換金した女性。
子どもに洋服を買うためにおもちゃを万引きした母親。
彼らはみな、自分の行為について語っていた。
彼らはみな、自分の行為について後悔していた。
でも、彼らはみな、自分の行為について止められなかった。
「これって…すごく悲しいですね」
ミカはしみじみと言った。
先生は優しく微笑んだ。
「そうだね。でもね、彼らにも救いがあるんだよ。このファイルにはね、治療法や支援団体の情報も入ってるんだ。彼らはね、自分の病気に気づき、助けを求めることができるんだよ」
「本当ですか?それは良かったですね!」
ミカは安心した顔をした。
先生は頷いて、ファイルを閉じた。
「さてと、今日の授業も終わりだね。ミカちゃんはどこに行くの?」
「えっと…今日は先生のお部屋に行ってもいいですか?」
ミカは恥ずかしそうに言った。
先生は驚いたが、すぐに笑った。
「あははっ!もう。いいよ、いいよ。一緒に行こうか」
「やった!ありがとね、先生。でも、私に…何か、貰う資格なんて…あるのかな」
ミカは先生の腕に絡んで、小さく呟いた。
先生はミカの髪を撫でて、優しく言った。
「あるよ、あるよ。ミカちゃんはね、とっても素敵な子だから。僕にとっても、大切な存在だから」
「先生…」
ミカは先生の顔を見上げて、幸せそうに笑った。
二人は手を繋いで、連邦捜査部「シャーレ」を出た。
そこは、キヴォトスという学園都市だった。
そこは、様々な事件や謎が待ち受ける場所だった。
そこは、先生とミカの物語が始まる場所だった。