【任天堂】自分たちのライバルは何だと考えているかというと、「お客様の興味関心と時間とエネルギーを奪い合うすべてのものがライバルだ」


ライバルについてお聞きしたい。 

最近出てきたクラウドコンピューティングをライバルとしてとらえていくのか、あるいは新しいアライアンスとして一緒にやっていくのか。


岩田:
ライバルについてどのように考えているかということについては、以前ですと 「ソニーさんやマイクロソフトさんとの競争」 という形でよく取材を受けましたし、最近では、どうしても 「アップルさんがライバルだ」 というような形で、それを最初から記者の方が決めて取材に来られ、そういう記事になってしまうということがよく起こるんですね。 

一方で私どもは、自分たちのライバルは何だと考えているかというと、「お客様の興味関心と時間とエネルギーを奪い合うすべてのものがライバルだ」と思っています。

特定のものだけをライバルだと考えますと、「そのライバルにいかに勝つか」 という発想になるんですね。 

こういう発想になりますと、「相手の長所をどうやって潰すか」とか、「相手のできないことをどうやってやるか」ということばかりになり、 非常に近視眼的なものの見方に陥ってしまいやすくなります。 

当社が実用品、生活必需品をつくっている会社で、どうすればお客様に商品を評価していただけるのかという軸がはっきりしている場合は、そのやり方もある程度有効 なのかもしれませんが、 当社の製品の場合、 お客様にとって 「面白い」 とか、 「良い意味で驚いていただく」というのはどういうことなのかというと、よくわからないわけです。 

それどころか、 お客様 に「どういうゲームで遊びたいですか」と聞いても、そのお客様のおっしゃるとおりにつくったら、 すごく喜んでいただけるかというと、必ずしもそうとも言えません。 

むしろ、お客様が想像もしていなかったものがポンと出てきて、「あ、これは面白いわ」 「これが俺の欲しかったものだ!」と言っていただけるようなものをつくらなければならない、 特殊な仕事なんですね。

そういう特殊な仕事であるということを考えると、まず、特定のライバルというのを考えて、そことどう戦うかという発想を持つよりは、「人が興味を持つことってどんなこと?」「人が時間やエ ネルギーを使うに値することってどんなこと?」「どんなことを人は面白がっているの?」という問いに対して、我々が感度をちゃんと持って答えていくことがまず大事なポイントだと思うんです。 

ですから、特定のライバルというのは意識していないということは、まずご理解ください。

また、 今クラウド・コンピューティングという言葉を使われましたが、これは最近、 新聞等でもよ く使われる言葉になりました。 

簡単にご説明しますと、今は非常にインターネットの通信網が発達しまして、皆さんの手元にある機械ですべてを実行しなくても、家庭にあるインターネットの回線や携 帯電話の通信網といった通信手段を使い、インターネットの向こう側にあるコンピュータの集合をクラウドと呼んで、そちらのほうで複雑な処理をして返事をしてもらうというスタイルをとることによって、手元に大きな、 高額なコンピュータを持たなくても、入力手段と表示手段だけがあれば、 複雑な計算はインターネットの向こう側でやってくれるというのが、クラウドコンピューティングの考え方です。 

また、クラウドコンピューティングの有利な点は、あらかじめ設備をある会社が用意しますと、それをどのような用途にどう割り当てるかというのを非常に柔軟に切り替えられることです。 

例えばある日突然、サービスの需要が10倍になって、 また3カ月経ったら何分の1かに減ってしま うというような、 非常に変動性の大きなビジネスに対しては非常に有効な技術だと言われています。

 一方で、私どものやっている娯楽というのは、人が何かをすると機械が何かを返してくれるという、 いわば「反応が命」 の部分があるんですね。 

実は私どもがゲーム機の中で使っているさまざまな技術 この中には、クラウドコンピューティングに非常に向いているものと、 それが全く向かないもの、むしろクラウドでやるとお客様は、 「ボタンを押したのに返ってくるまでにワンテンポ遅れるので気持 ちが悪い」 というようになってしまうものの、 両方があると考えています。 

ですから当社も、これは クラウドコンピューティング向きだと思うものでは、きっと将来クラウドコンピューティングを使うでしょうし、 使うためにわざわざ自社で設備を一式持つというのは非効率ですので、そういうサ ービスをしている会社と組むことも当然出てくると思います。 

しかし一方で、あらゆる娯楽がクラウ ドコンピューティングによって蹂圜 (じゅうりん)されてしまうというようなシナリオもちょっと 考えにくいと思います。 

特に、現状では通信手段を使いますと必ず一定の遅れやスピードの限界とい うものがございますので、その意味ではクラウドコンピューティングを使えるところから使っていくということになると思います。