井川意高「借りる。負ける。さらに借りる。さらに大きく負ける」

ソウルで3000万円が9億円に!


――その後、2019年夏、シンガポールのセントーサ島で、1か月間バカラをやり続けて、さらに4000万円を熔かしてしまったんですよね。 井川:あのときは、完全にまずいリズムにはハマり込んでいました。いい出目がこないからと、ダラダラと延長して金策したのが敗因でした。そして、1か月間バカラをやり続けた結果、「もういいや」という気持ちになったんです。バカラへの情熱が突然消えた瞬間でしたね。その直後に新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、海外へ行けない状況となりました。現在は徐々に海外渡航が解禁に向かっていますが、私にとっての“バカラED”は今でも続いています。 ――刑務所の中で限定版のフェラーリを買い集めていたそうですね。 井川:当時は刑務所の中からカーディーラーに連絡して、フェラーリやポルシェを買い集めていました。10台以上はありましたね、乗れもしないのに(笑)。塀の中では読書とテレビくらいしか娯楽がないので、クルマのことを考えると気が紛れたんです。買い集めたクルマは、渋谷のセルリアンタワー地下駐車場に並べていました。駐車場代は年間1200万円にも上って「なんて愚かなことをやっていたんだろう」と思いますね。 ただ、限定版のフェラーリは値落ちしにくく、なかには買った瞬間にプレミアムがつき、値段が2倍になったりするものもあります。「スペチアーレ(限定版)フェラーリ」とも呼ばれ、これは何台もフェラーリを買ってくれる上顧客へのメーカーからの“お返し”のようなものなのです。このクルマたちは、ソウルやセントーサ島での戦いで負けが込んできたときに、カジノの“火力”を補填するために売却してしまいましたが……。 こうしてバカラから足を洗い、フェラーリのコレクションからも卒業した今、際限なく欲望を追求することはなくなりましたね。現在の楽しみは、美しい女性や仲間たちと毎日好きなだけ酒を飲むことくらいです。かつては106億8000万円を使い切っても満足できなかった私が、ずいぶんと悟りを得たものだと思います。 井川意高氏 大王製紙元会長。1964年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、1987年に大王製紙に入社。2007年6月、大王製紙代表取締役社長に就任、2011年6~9月に同会長を務める。社長・会長を務めていた2010年から2011年にかけて、シンガポールやマカオにおけるカジノでの使用目的で子会社から総額約106億8000万円を借り入れていた事実が発覚、2011年11月、会社法違反(特別背任)の容疑で東京地検特捜部に逮捕される。懲役4年の実刑判決が確定し、2013年10月から2016年12月まで3年2か月間服役した。著書に累計15万部のベストセラーとなった『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(双葉社、のちに幻冬舎文庫)のほか、堀江貴文氏との共著『東大から刑務所へ』(幻冬舎新書)がある。最新刊『熔ける 再び そして会社も失った』(幻冬舎)が発売中。