賃金構造基本統計調査

4月から法律が変わり、大企業では同一労働同一賃金を含む「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されます。中小企業は来年(2021年)の4月からです。雇用形態に関わらず、同じ仕事に関しては同じ賃金を払うということが法律で要請されることになります。有期雇用労働者とは、契約社員、派遣社員、パート社員などの非正規労働者のうち、雇用期間が定められている人のことです。一部外注でやっている人もある程度は含まれると言う人もいますが、そこはグレーです。

賃金構造基本統計調査で年収を計算すると、正社員は平均500万円、契約社員等で295万円、パートタイマーは120万円となります。これらは働く時間も違いますので、時給にすると、正社員は2329円。契約社員等の派遣や非正社員が1428円、パートが1169円となります。ボーナスも込みにして時給換算しました。正社員とパートの差は半分です。このなかには、工場などで社員とパートがまったく同じ仕事をしているというケースも少なくありません。

こんなことをしているのは、先進国では日本だけです。そもそも欧米は年功賃金体系ではなく、職務給で「この仕事の給料はいくらです」という決め方をしています。だから新入社員で入っても、その職にとどまると給料は一生上がりません。「同じことをやっているのであれば、基本給料は同じ」ということは世界の常識です。日本だけがおかしなことをやっているのです。正社員の側からすれば、正社員を手厚く守って、それ以外は「契約の仕方が違うので我慢してください」ということがまかり通って来たのです。結婚して子どもが生まれると、保育所に預けて働き続ける女性が多いのは、本当なら小さいうちは自分で育てたいと思っていても、辞めてパートになり、賃金が半分になると思ったら辞めることができないからです。

それが4月から法律上は是正されるのですが、法律には「賃金、賞与、福利厚生、教育訓練にいたるまで、食堂の扱いなども含めて全て差別禁止」とあります。しかし、完全に同一にすべきことは厚生労働省のガイドラインによると、「通勤手当、社員食堂、慶弔休暇などに限られる」ということです。「パートは社員食堂を使ってはいけないとか、割引しないなどの差別はいけない」ということです。完全に同一にすべきポイントが「そこ?」という話です。

厚生労働省は基本給について、「能力や経験などが同じであれば」という条件です。ボーナスについては「会社の業績等への貢献度が同じであれば」という条件です。能力や経験などが同じであればというのは、例えば会社側の言い分だと「パートは昇進もないし、責任が違うのだから給料が安くて当然」だということになってしまいます。この逃げ道が用意されていると、格差はあまり是正されないのではないでしょうか。

企業の方からすると、1980年は非正社員の比率が15%ほどでした。いまは40%弱です。非正社員を増やすことによって、人件費を抑えて来ました。会社は商売していますから、払える給料の総額には限界があります。同一労働同一賃金を実行しようと思ったら、正社員の給料を下げないとできないのが現実です。ところが厚生労働省のガイドラインによると、「正社員の待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要」と書いてあります。労働組合が「正社員の給料を下げましょう」と言わなければできません。でも労働組合はだいたい正社員が入っているので、「給料を下げますよ」とは言わないでしょう。結局、理想を掲げたのはいいのですが、実効性がどこまであるのかは大きな疑問です。

では、海外ではどうなっているのか。いちばんの典型はオランダです。1982年にワッセナーというところで、政労使が「ワッセナー合意」というものを結びます。そこでは組合が無理な賃上げをしない、経営者が無理な首切りをしないなどいろいろなことが決まりましたが、そのなかで「完全な同一労働同一賃金を実現しましょう」ということが決まったのです。いま日本で正社員を辞めてパートに変わると、労働時間が減るだけではなく、賃金が半分減るので年収は4割になります。しかしオランダでは、どんなに労働時間が短くても時給はみんな一緒なのです。労働時間が8割となっても、貰うお金も8割。