営業は、ものを売るのではなく、相手に買いたいと思わせる仕事である

「営業でいちばん大事なのは、営業テクニックではなく、売れる仕組みを持つこと」と気付けたのは本当にラッキーだった。

上司から足で稼いで見込み客を増やせ、見込み客の数が成約の数になる、と言われていたが、その声を聞き流して、見込み客(顧客)の上限数を決めてリストにして(90年代末は紙だった)、それ以上、見込み客を増やさないようにした。

上限数は200とした(後に300に上げた)。200は年間200数日の労働日数内で、僕がフォローできる数である。このリスト内の顧客と話を重ねて、リストを充実させていったほうが、手当たり次第に顧客を増やすよりも勝率が高くなると考えたのだ。

一番の効果は、純粋な新規先に突撃することが少なくなったため、手当たり次第に拡大する最中に「間に合ってます」「帰ってくれ」と手痛い返り討ちに遭う機会が減って、へこまなくなったことだ。営業をやめていった同期たちは、返り討ちの多さに心が折れてしまった者も多かった。成約したり、残念ながら見込み客としての要件を満たせなくなり、リストから外すこともあったが、そのときに備えて準見込み客を開発しておき、外したときは彼らをリストにあげて、上限数を保つように努めた。

僕は、扱っている商品やサービスのセールスはほとんどせず、相手の話を聞く役に徹した。営業は、ものを売るのではなく、相手に買いたいと思わせる仕事である、そして無理に売るのは逆効果だと、毎日の見込み客との面談から学んだ。深い営業活動をすることで、さいわい結果を出し続けてきたし、自分も成長できた。見込み客から、カタログでは学べない生きた商品知識をどれだけ教わっただろうか。

今、僕は部下に自分の体験を話をするときに「お客さんを育てろ」と言っているが、正確にはお客さんではない人間をお客さんに育てろ、その過程で自分も育ててもらえ、という意味である。

RPGのように成長を実感できることが続けられる仕組みなのだ。