「才能が関係しないものはこの世にありませんから」

筋トレにまつわる言説には不適切なものも多い

「トレーニングで挙げる重量が重ければ重いほどすごい」という考え。

「あくまでも重さは手段であって目的ではありません目的は強い刺激を筋肉に与えることです

「適切なフォームで筋トレをすれば、やたらと高重量でなくても十分に筋肉に強い刺激を与えることができます。やり方次第では自重負荷でもそれは可能です。逆に、不適切な、ごまかした方法では、高重量の割には効果が乏しく、ケガのリスクばかりが上がります

関節は“10年殺し”が起きる

今は良くても、10年後に関節に何らかの不調を訴えることがある

「筋肉や骨は新陳代謝が速く、損傷しても回復できる高い能力があります。一方、関節は血流がほとんどないため代謝が遅く、多少の損傷は回復するものの、基本的には酷使すれば消耗し続けていくものです。今は大丈夫でも、後から来るんです」

重さにこだわりすぎて無茶なトレーニングをしていると、5年後、10年後に大きな関節の障害が我が身に返ってくる

僕自身、満身創痍の状態なんです。かつては“重いものを挙げる”ことにこだわっていて、ベンチプレスなら広い手幅に高いブリッジの“高重量を挙げられるテクニック”を用いて、140kgでセットを組んでいました。すると30代中盤くらいから無理が生じて」

筋肉にしっかり負荷がかかりつつも、関節には優しく、というやり方は存在します

特筆すべきはそのトレーニング時間で、なんと1回20分

「20分のトレーニングが終わった後は、ベンチに座ってうつむいて、『あしたのジョー』の最終回、真っ白な灰になった矢吹丈くらいまで燃え尽きていますね

「ベンチプレスの場合、手幅を肩幅強くらいにうんと狭く、ブリッジせずに背中を台にベタ着けにしてすると、挙上できる重量は落ちますが、ガッツリ筋肉に刺激が来ます。少し回数を多めにすれば、半分の重さでも十分。手幅が狭くても大胸筋にはしっかり効きますから、心配は無用です。逆に、胸まで下げないのは問題外ですね

重さにこだわるよりも、しっかり大きな動作範囲で筋肉に強い刺激を与えられるフォームを守ってトレーニングする。そうやって「“ズルをしない”ことで重量が下がってもうんとキツくできる

「オールアウト(それ以上の回数ができなくなるまでトレーニングすること)は筋肉を大きく強くするために必須だから」とした上で「目一杯までやり切ったほうが気持ちいいですよね

「新著をちょうど書き上げたところですが、そのテーマは“筋トレは仕事や生き方にも通じる”というもの。がんばれる時間を“ありがたいもの”と前向きに受け止めることができるようになれば、大げさかもしれませんが、生き方も変わると思うんです」

谷本さんのもう一つの決め台詞は「筋肉は裏切らない」ですが、本当でしょうか。
 
この質問に谷本さんは「筋肉は裏切りますよ」と事もなげに答えます。

「重さにこだわって、高重量の割には筋肉に効かない方法では、“10年殺し”のリスクばかりが上がります。また、たいして効果が得られないのに、あると信じて実践されている筋トレ法は結構あります。例えば最近、流行している体幹トレーニングなども、筋トレとしての効果は高くないですし」

筋トレで重要なのは「上げる動作」と「下げる動作」。力学的仕事をする「上げる動作」では、代謝物が蓄積して筋肉が水ぶくれ(パンプアップ)を起こし、落下の衝撃を筋肉で受け止める「下す動作」では、筋損傷が起きて筋肉痛になる。

プランクのような体幹トレーニングには「この重要な動きがありません」

「体幹を安定させる練習としてはいいですが、筋肉を大きくする筋トレとしての効果は小さいでしょう。体幹を安定させることが目的なら、10秒くらいで十分だと思いますが、部活では3分とかしますよね。かなりキツイですが、得られるものは小さい。監督が見てないときに腰を下げて休んだりしますし(苦笑)」

筋肉を大きくするホルモンの応答性や筋細胞の数など「筋肉のつきやすさには個人差が大きい」

「才能が関係しないものはこの世にありませんから」

「しかし、適切な筋トレをして筋肉がつかない人はいません。筋トレに限らず、差があるのは当然ですが、適切な方法でおこなえば “必ず”効果は出る。筋トレは強さや体型など、効果が目に見えて表れやすいのがいいところです」

無理に背伸びせず、自分に合った負荷を見極めて、トレーニングを継続していただきたいです。

筋トレは“前向きに厳しく、でも自発的に楽しむ”。ぜひ、このマインドであなたの筋トレライフを充実させてください」