「ジブリ」なぜ日テレ傘下に 1時間の会見で語られた問題とは 鈴木社長「ことごとく失敗に終わった」


鈴木です。いつもの映画だと気楽にしゃべれるのですが、ちょっと違うと緊張する。
宮崎駿とぼくは、気がついたら出会って45年の付き合いです。とんでもない年数になってしまった。ジブリもスタートが1985年。そこから数えて38年。その中で、ジブリはどうなるのか。この問題はぼく自身が悩んできました。
ジブリはもの作りという仕事をやる一方で、会社を経営しなければならなかったのですが、宮崎が82歳、ぼくが気がついたら75歳。おわかりのとおり後期高齢者。ここから先は、ぼくが75であることを自覚するなら、一種、老害、そういうことも考えなきゃいけない年齢になったなと。
いったい誰にジブリを頼んだらいいか?

ぼくらが始めたときと違っていまのジブリは、ぼくらの想像を超えて大きい存在になった。それをいきなり息子だからといって、吾朗君に全部預けちゃうのは、これは、やっぱりこちらにとって虫のいい話で、それを受けざるを得ない吾朗君にはとんでもなくしんどい話。
彼も随分考えてくれました。その結果、出てきた結論が、ジブリはひとりの人間が背負うには、大きな存在になりすぎたということだった。
そういう中で、ぼくらが考えたのは、この先やっていくときに、やっぱり個人ではなくて、大きな会社の力を借りないと、やっぱりうまくいかないのではないか。そうしないと、ジブリで働いている人たちも安心して働けない。そんなことをつらつら考えた次第です。
そういう中で、ぼくらが抱えている問題、後継者の問題です。

ジブリと日本テレビは本当に、長いお付き合いです。ナウシカのテレビ放映から始まるんですが、お付き合いの長さたるや、40年近くなる。日本テレビさんにお願いするのは、もしかしたらご納得いただけるのではないか。これはファン含め、みなさんの、そういうお考えがあるだろうと、そう推測したわけです。
というわけで今般、スタジオジブリは経営の部分を当面今の日本テレビさんにやっていただく。虫のいい話ですが、日本テレビさんに預けて、ぼくらは作品作りに没頭する。日本テレビさんからも「今まで通りジブリはやってもらって構わない。その中で両者の関係を深くしていこう」となった。

Q 宮崎監督が会見に来ていないが、宮崎監督の受け止めは。
鈴木氏 宮崎とぼくとでつくった会社です。それを吾朗君に継いでもらいたいという考えをぼくは持ったのですが、最後まで反対したのが宮崎。なんでか。理由は簡単。宮崎という名前のもと、ジブリを支配するのは違うのではないかと。もっと広い目で、いろいろやったほうがいい。それが理由として大きかった。
というわけで、宮崎は、今朝改めて今日こういうことをやると説明したのですが、彼も納得していました。吾朗が継ぐことには「おれはやっぱり反対だ」と言っていました。
Q 老害というお話もされていた。今後のアニメ製作のイメージは。
鈴木氏 経営をどなたかにやっていただきたいと、かねがね考えていた。どういう体制で作品を作るかも大きな問題だった。
なかなかぼくも現場で、いろいろやってみたのですが、ことごとく失敗に終わりましてね。宮崎に続く有望な監督を見つける、育成するその困難さを知った。

ひとつだけ言い訳をさせていただく。「君たちはどう生きるか」という映画をつくったが、客観的に作品をみると「これ大変だな」と思った。同じものを要求されたら、今の若い人たち作れませんよね。それを強く感じました。
宮崎はいま、「君たちはどう生きるか」の興行成績をものすごく気にしている。かつてないくらいなんですよ。もし、支持してくれる人がいるのなら、企画までは考えていいかなとか、非常に謙虚にいっている。今そういう心境であることだけは間違いない。
Q 「君たちはどう生きるか」はぜいたくな映画だった。子会社化についてお金の問題は影響しているのか。
鈴木氏 ちょっとどうしようかな(笑)。ちゃんと採算は取れました。おかげさまで。7年かけて頑張ってやっても回収できると証明できた。ぼく自身、本当のことをいうと難しいと思っていたが、思いのほかそうじゃないことがでてきた。ここから始まる、海外での上映がすごい勢い。

Q 後継者の問題があったが、宮崎監督がこれからも新しい才能、人材の育成をやっていきたいという思いをもって取り組む予定なのか、宮崎監督がまた新作を作るのか。構想は。
鈴木氏 作品というのは、宮崎や高畑がやる、作家を尊重してそれを中心に映画をつくる。そういうやり方がある。もうひとつは企画。企画とは、枠を決めちゃう。
ディズニーというところは、ウォルト・ディズニー亡きあと、やっぱりうまくいかなかった。あるとき、ある人が責任者になって、企画力があった。

3つの方針を決めた。1、古典をやろう。クラシックだと。ただしクラシックには必ず差別が入っている。それをどうオブラートに包むか。それが大きい。2、主人公は女性である。これも決めた。それから3つめ、主題歌を大事にする。
この3つを決めてやり始めた結果、ディズニーは再生しました。残念ながらこの人のことすごく好きだったけど、飛行機事故で亡くなった。
だからさっき申した、企画でやるのか、あるいは作家の才能に頼るのか。ジブリはそれでいうと、やってきたつもり、宮崎や高畑は作家主義、そのほかの若い人は企画主義。基本的にはこれだとまだ思っている。
Q 製作部門を10年前に一度解散し、その後アニメーターを集めた。社員として雇用を継続してアニメを作る体制をもう一度作り直すイメージなのか。
鈴木氏 それは、要するに、そういう考えに至るまでに随分時間がかかった。作家主義なのか企画主義か。
ぼくは実は、そういう人材を育てるのもひとつの才能だと思う。若干開き直りに聞こえるかもしれないが、そういう人材の育て方、ぼくと宮崎はちょっと下手ですね。これは正直に申し上げます。
誰か別の人がきて、ある考え方をつくる、それによって先に行くというありようはあるのだと思います。そう思っています。
Q 製作部門のトップを招いてスタジオをつくるのか?
鈴木氏 宮崎吾朗、彼はプロデュース能力がすごいんですよ。ぼくや宮崎より吾朗君のほうが才能がある。随分説得したことあるんですが、いや自分でやりたい、と実現しませんでした。
Q 「君たちはどう生きるか」を改めてみたときにこれは若い人には作れないんじゃないか、という話があった。安定的な人件費の保障があれば若い人が作れるのか。今回の決断との関係は。
鈴木氏 本当のことを言うと、宮崎駿とぼくというのは、わがままだったんですよね。自分勝手というか。2人は好き放題なことをやった。そういうことを言うと、人材の育成、その他に関してはさぼってきました。
ぼくが思うのは、ジブリは世界でも珍しい、映画しか作らない会社。その考え方を誰かがどこかで変える。若い人材を育成するというのか、育つために必要なのはテレビシリーズ。テレビシリーズで若い人に機会を与えて秀作を作ってもらう。その中ででてきたのが高畑であり、宮崎だった。その意味で本物の経営者が必要。本物の。

宮崎駿だって高畑勲だって、ずいぶんテレビシリーズやっている。ぼくらも彼らとやったのはある年齢に達してから。彼らは映画を作りたかった。経営者の健全な野心があれば、諦めるのではなく可能だと思う。世界のアニメ会社はそういうことをやっている。
Q 宮崎さんの今後の企画案やほのめかしは。
鈴木氏 本当はあるんですけど内緒です。宮崎はとにかく引退宣言を繰り返してきましたから、またかと言われると困っちゃうが、やっぱり死ぬまで、企画だけじゃなく、本当に自分が作りたい。それは理解できます。そばにいて。やれるものなら死ぬまでやりたい、命のある限り。だと思います。