占有離脱物横領罪と窃盗罪の違いを知っていますか?――兵庫県警の巡査長が制服をなくした事件から見る犯罪学




占有離脱物横領罪と窃盗罪は、どちらも他人の物を自分のものにする犯罪ですが、その成立要件や刑罰には大きな違いがあります。この記事では、最近話題になった兵庫県警の巡査長が制服をなくし、それを持ち帰った男が占有離脱物横領容疑で逮捕された事件を例にとりながら、両者の違いを解説します。

まず、占有離脱物横領罪とは、他人の占有を離れた物を自分のものにした場合に成立する犯罪です。刑法第254条に規定されており、法定刑は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料です。例えば、道で拾った財布やレジで誤って多く渡されたおつりをそのまま持ち去った場合などが該当します。占有離脱物横領罪は、所有者との間に委託信任関係がない点で特徴づけられます。委託信任関係とは、例えば、荷物を預ける場合や貸し借りする場合など、所有者が一時的に占有権を他人に委ねる関係です。

一方、窃盗罪とは、他人の占有下にある物を自分のものにした場合に成立する犯罪です。刑法第235条に規定されており、法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。例えば、自転車や財布など、所有者が明らかで占有を維持している物を盗んだ場合などが該当します。窃盗罪は、他人の占有を排除する意思が必要な点で特徴づけられます。他人の占有を排除する意思とは、占有者がその物に対して事実上支配できなくなるようにする意思です。

以上から、窃盗罪は占有離脱物横領罪よりも重大な犯罪だといえます。しかし、それだけではなく、両者の区別は実際の事件では非常に微妙であることもあります。例えば、兵庫県警の巡査長が制服をなくした事件では、制服は巡査長本人の所有物ではありません。制服は国家公務員法第19条第1項に基づき国家公務員である巡査長に支給されたものであり、国家公務員法第19条第2項により返還義務があります。つまり、制服は国家公務員である巡査長が一時的に占有するものであり、国家と委託信任関係にあるといえます。したがって、制服を持ち帰った男は占有離脱物横領容疑で逮捕されました。

しかし、もし制服が巡査長本人の所有物であったとしたら、どうなるでしょうか?この場合、制服は巡査長が占有を維持している物であり、制服を持ち帰った男は他人の占有を排除する意思があったと考えられます。つまり、窃盗罪が成立する可能性があります。このように、占有離脱物横領罪と窃盗罪の区別は、物の所有者や占有者の関係や意思など、事情によって変わることがあります。

占有離脱物横領罪と窃盗罪は、日常生活で起こりうる犯罪です。自分の物を守るためにも、両者の違いを知っておくことは大切です。また、他人の物を不正に取得することは、法律だけでなく道徳的にも許されません。自分の行動に責任を持ち、正しい判断をすることが求められます。