辻の神秘―日本人の感性と文化を映す占いと妖怪



日本には、道が十字に交わっている所(辻)にまつわるさまざまな伝承や風習があります。辻は現世と来世との境界となっているという説があり、そのような場所には神や魔物が棲みつきやすいといわれます。辻に関する占いや妖怪は、日本人の神秘的な感性や風流な心を表すものと言えるでしょう。

辻占とは、日本で古くから行われている占いの一種です。辻占は、辻に立って、通りすがりの人々が話す言葉を聞いて、神の託宣として吉凶を判断するというものです。辻は人だけでなく神も通る場所と考えられていました。辻占のやり方は、黄楊(つげ)の櫛を持ち、歌を三遍唱えながら最初に通った人の言葉を聞くというものがあります。また、吉凶を占う短い文句を書いた紙片(御籤)を袋に入れたり、巻き煎餅やかりんとうなどに挟んだりして、取った時の吉凶を判断するというものもあります。これらの辻占は、宴会や花街などで娯楽として楽しまれてきました。

辻神とは、日本で古くから信じられている妖怪の一種です。辻神は、辻に住み着き、災いをもたらすとされる邪神・悪神です。特にT字路の一本道の突き当たりの正面に建てられた家には辻神が入りやすく、病人が出たり不幸が続くとされます。そのため、辻やT字路には石敢當(いしがんどう)と呼ばれる魔除けの石を置く風習があります。

辻占や辻神は、日本の歴史や文化にも登場します。万葉集や浮世草子などの古典にも辻占が関係する話があります。また、京都や東京などには辻占や辻神にちなんだ地名や行事も残っています 。例えば、京都市伏見区にある伏見稲荷大社のお山めぐり参道において、四つの道が交わるポイントを四ツ辻と呼びます。そこには元治元年(1864年)創業の茶店「仁志むら亭」があり多くの参拝者で賑わっています。また、東京都港区にある飯倉2~3丁目の境を四ツ辻といい、毎年7月12日に草市が開かれます。

辻は日本人にとって特別な場所です。辻で行われる占いや妖怪は、日本人の心理や信仰を映し出しています。辻の神秘に触れることで、日本人の感性や文化をもっと深く理解できるかもしれません。