サイゼリヤの農業革命――外食産業の根っこからマーチャンダイジングを考える


イタリア料理のチェーン店として知られるサイゼリヤは、なぜ福島県の白河市に自社農場と工場を構えているのだろうか?その背景には、創業者である正垣泰彦さんの「おいしいものを提供して、お客様に喜んでもらう」という理念がある。そのためには、店舗で提供する食材の品質と効率を徹底的に追求する必要がある。そして、その追求の先にあるのが、農業の現場だったのだ。

サイゼリヤは、福島県でレタスやお米などの契約栽培を行っている。その際には、自社で育てた苗を無償で農家に渡し、一定の品種や規格に従って作ってもらうという契約を結んでいる。これは、店舗で使うのに適したレタスにするためだけでなく、農家の収入や作業効率も向上させるためでもある。また、工場では、集めたお米を精米し、名物の「ミラノ風ドリア」に使われるターメリックライスを炊いている。ここでも、品種や炊き方にこだわりがある。

サイゼリヤが農業に参入したのは、2000年からだ。当時はまだ17店舗しかなかったが、正垣さんは将来的に1000店舗を目指していた。そのためには、食材の安定供給と品質管理が必要だった。しかし、農家との交渉は難航し、自ら実験農場を作ることにした。それが白河高原農場だ。そこでは、レタスやハーブなどを自社生産している。

この取り組みを率いているのが、有限会社白河高原農場・取締役の矢作光啓さんだ。矢作さんは元々異なる部署にいたが、正垣さんから福島に行けと言われて赴任した。入社前から正垣さんと付き合いがあり、農業がサイゼリヤの商売にとって大事なファクターであることをよく聞かされていたという。しかし、実際に現場に立つと失敗続きだった。それでも正垣さんは、「それをどう克服していくのが楽しいんだ」と言ってくれた。失敗を失敗と言わない社風が支えだった。

矢作さんは、「根っこからマーチャンダイジング(消費者に合った商品化計画)をしろ」という正垣さんの言葉を胸に刻んでいる。「お店でお客様に出されるお皿から逆算して、農業の現場をどうしていくかを考えます」と語る矢作さんは、店舗や工場の現場もよく分かっていて、サイゼリヤのことを愛している。

サイゼリヤが農業に参入していると聞くと、効率性ばかり追い求めているように思うかもしれない。それは一方で真実だが、その見方だけでは見誤る。よりおいしいものを提供したいというマーチャンダイジングへの熱意が、店舗にも、工場にも、農業の現場にも、確かに通底しているのだ。

サイゼリヤの農業革命は、外食産業の根っこから始まった。そのエッセンスと限りない熱意は、農業界に大きなヒントを与えているのではないだろうか。