サイバーエージェント藤田晋社長が語る、事業と人材の洞察力感性を磨け


事業に対する洞察力と同じくらい、人や組織に対する洞察力も重要だと思います。私自身、学生時代のアルバイト先であるベンチャー企業の専務から、「社長になりたいんだったら、感性を磨け」と言われて意識してきました。

当時、「感性を磨くにはどうしたらいいですか」と聞いたら、その答えは「本や映画、舞台などをたくさん見て、人々が何からモチベーションを得て、喜びを感じ、誇りに思うのかを学べ」というものでした。今でも年間100本は映画を見て、本も雑誌も新聞も読み、舞台にも足を運んでいます。

そうやって人に対する洞察力は磨いてきたと自負しています。会社が社員のことを大事にしたら、社員も会社が大事だと考える。それに、よい事業ドメインを選び、やる気がある優秀な人材を登用して会社を成長させていこうと考えれば、よい事業を選ぶ洞察力と同レベルで、人をやる気にさせる洞察力は必要になります。

大前提として、人が最もモチベーションを高めコミットをするのは、「自分のアイデアを自分でやる」というときです。サイバーエージェントで言えば、「自由と自己責任」を強く意識させ、自分のアイデアを自分で実現してもらうことで、モチベーションとコミットを引き出していると言えます。

ただ、戦略性が高く、失敗したら問題になるような大きな投資は、最初から経営者自ら行った方がいいでしょう。

会社が変わるような事業を誰かに任せては無責任にもなるので、動画配信のABEMAでも、ブログサービスなどを展開するAmebaでも、すべて自分で事業を進めていきました。一方、今は広告代理店事業やゲーム事業にほぼ口を出さなくなったように、うまく行っているところにわざわざ口を出す必要はないですね。

任せている事業では、任せている社員の意見を尊重するようにしています。とはいえ、これまで対立した記憶はあまりないです。そもそも「俺の言うことが絶対」という会社でもないので。

リーダーシップは社員に言うことを聞かせる、同じ方向に向かせる仕事です。なので、結果が出ていないと、社員やVCが「俺はそうは思わない」と言い出して苦労しますが、結果を出し続けていると、信用が積み重なって、「次は何をやるんですか」と誰もが耳を傾けるようになってきます。そうなると、今度は誰も反対せずに自分との葛藤になってくるので、経営者もある程度意見を言われる方が適度なストレスがかかっている状態と言えるかもしれません。

一番意識していたのは一貫性でした。中長期での経営には、中長期で働いてくれる社員を大事にすることが必要です。社員を大事にするからには、大型買収で職位の高い人材が大量に入社することはしない。そして、新卒で人材を採用して自分たちで育てるように、事業もゼロから自分たちのアイデアを形にしていくんです。

権限移譲に関しては、組織は集中と分散を繰り返すものだという考えから、私たちも何度もそれを繰り返してきました。事業ごとに権限を分散させれば目標も採算もそれぞれ明確になりますが、分散し過ぎてしまうと今度は縦割りによる無駄が生じ、事業の垣根を越えたシナジーが弱くなるという弊害が出てきます。そして再び中央に力を集約させていく。こうして、同じことを繰り返しながら会社全体を大きくするという考えです。

私もかつてはホリエモンに続くほどメディアに出ていました。

起業当初はメディアに注目されることで採用もやりやすくなり、顧客や投資家からの声もかかるようになります。当時はホームページに「日記」を書き始めましたが、途中からはブログに変わり、今はSNSになっています。かつての社長と言えば、朝礼で社員を集めて声を張り上げ、会社の方針を説明していたものです。それが会社の方針を文章で伝える時代が来て、今ではYouTubeなどによって喋れればいい時代になっています。

そんな時代なので、メディアを活用して意思統一を図るのも経営者の重要な役割と言えます。方針が変われば、なぜ変わったのかを、SNSでタイムリーに説明できるので、当然活用した方がいいと思います。

メディアに出るのはタダです。少なくとも自分たちが何者で何を目指しているかを理解してもらわなければいけない段階では、出た方が効果はあります。