力士は長くやればやるほど社会復帰するのが難しい


「力士は長くやればやるほど社会復帰するのが難しいと思います。部屋で年齢的に一番上に立つと、何もしなくてよくなっちゃいますしね。お金を稼ぐ大変さが分からないまま、外に出ていくことになるんです」

 相撲界では毎月の給料が支払われるのは幕内、幕下以下の若い力士は場所ごとの手当などを受け取る。ただ、それでも部屋にいれば衣食住の心配はいらないし、お金に困るところはない。それどころか実際は結構な収入もあるのだという。

「何かあったらタニマチに電話したら小遣いくれますからね」

関取でなくとも、タニマチがいればそれで毎月何万円、何十万円ともらう力士もいる。その上、臨時収入のチャンスも頻繁にある。

 例えば、羽振りのいいタニマチがいたとする。酒の席で「ご祝儀配るから並べ」と上機嫌で財布を取り出し、列になった力士に順番にお金を配り始める。当人は酔っぱらっていてよく分かっていないから、力士たちも何周も並び直して、何回もお札を受け取っていく。冗談のような本当の話だ。

「そうでなくても、だいたい帰りのタクシー代は1万円もらえて、部屋まで帰るのにそんなかからないですよ。だから、お釣りの7000円ぐらいが稼ぎになるんです」

それらがすべて遊ぶ金になる。

「一番調子に乗っているときは、メシ食わしてくれて、飲みに連れて行ってくれて、タクシー代だけでなく小遣いまでくれる社長がいたんですけど、誘われても『1本(1万円)だろ?行かねえ、行かねえ』って断ってました。目を覚ませ!って当時の俺を殴ってやりたいですよ。その感覚で社会に出たら絶対によくない。自分で体を動かして対価をもらって、自分で水道、ガス、光熱費を払ってこれだけしか残らないっていうのを1回味わった方がいいと思います」