ABEMAとNetflixが組む理由

ABEMAとNetflixが、コンテンツパートナーとして作品づくりをともにすると発表した。

動画配信サービス大手2社がプロジェクト始動にあたり最初に着手するのは、累計視聴数3億回を誇るABEMAオリジナルの人気恋愛番組「オオカミ」シリーズと、20〜30代の女性を中心に支持を集める「恋愛ドラマな恋がしたい」シリーズ、それぞれの新企画。

ABEMAが作る「オオカミ」シリーズ最新作が、今夏を皮切りにNetflixで世界独占配信される。

本記事公開時点で9200万DLを突破している“新しい未来のテレビ”ABEMAと、190以上の国や地域で利用される世界最大級の動画配信プラットフォームであるNetflixが、いま手を組む意義とは何か。

ABEMA総合プロデューサーでサイバーエージェント社長の藤田晋と、「全裸監督」「今際の国のアリス」「First Love 初恋」など数々のヒット作品でクリエイティブ統括を担当してきたNetflixコンテンツ部門バイス・プレジデントの坂本和隆、初対談を果たした二人が共通して見据えているのは「グローバル」だ。

坂本和隆(以下、坂本):コンテンツスタジオ「BABEL LABEL」の藤井道人さんの引き合わせで、2022年に初めて藤田さんにお会いしました。そこで「ABEMAの恋愛番組を一緒につくりませんか」とご提案をいただいて、当時はまだABEMAが他社と組んで一緒に作品作りをするという発想がなかったものの、彼らが大切にしてきた作品にNetflixらしさを加える発想に可能性を感じ「ぜひやりましょう」とお答えしたのが始まりです。出会って2回目の打ち合わせで作品が決まるという、とてもスピーディな展開でした。

藤田晋(以下、藤田):坂本さんへ提案をした理由は、昨年BABEL LABELの藤井さんと手を組んだ当時の問題意識と同様です。作り手もどんどん世界を目指して集まっていく時代なので、国内だけに目を向けて作品を作っていては良いクリエイターが集められないし、自分たちも面白くない。ABEMAはNetflixと組むことで世界にアクセスするゲートウェイを持てます。

「ABEMAが世界進出すればいいのでは」とも言われますが、世界を相手にしたプラットフォームでの成功は、宝くじに当たるくらい難しい。経営者としてそこまで確率の低いことはできないから、より成功の可能性が高い選択肢として、Netflixと一緒に、という考えに至ったわけです。

坂本:Netflix作品には、「メイドインジャパン」のような制作国の表記はしていない。Netflix作品は190カ国に向けて横一列で配信されるので、よりクオリティが重視される。従来のように、映画なら映画祭で才能が見つかるというような賞レースのやり方ではないので、日本で制作した作品が地球の裏側でも見つけてもらえる。そのようなグローバル市場で誰が勝つか、というと、シンプルに「面白い作品を提供できるチーム」です。

藤田:「ABEMA」はプラットフォームのように見られがちですが、サイバーエージェント自体は、ゲーム事業も収益の主力をなすコンテンツプロバイダー。現在は、質の高い作品を出せば世界中から選ばれますが、一方で、良くない作品はゴリ押ししても国内ですら選んでもらえない。「純粋なクオリティ勝負の時代」になっています。

その「クオリティ勝負」という観点で、Netflix水準の世界に通用するコンテンツを作ろうとする高い制作意識を社内にもっと持ち込みたいという意図もあります。

坂本:恋愛リアリティショーは、世界を舞台にしても非常に強いジャンルです。Netflix作品にも、「ラブ・イズ・ブラインド」や「脱出おひとり島」など、世界中で見られているシリーズがあります。

藤田:ABEMAでもこれまで相当数の恋愛番組を作っています。若い世代の興味を突き詰めていくと、いつも「恋愛」が最上位にくる。企画会議でも製作陣からの提案は「恋愛もの」が多く、ABEMAでは、女性は10代、20代だけでなく幅広い年齢層が恋愛番組を観ていることがわかっています。

今回のプロジェクト始動にあたって、まったく新しい企画も検討しましたが、世界に向けてつくるなら、ABEMAで1、2を争う恋愛番組のタイトルをもってきて、これまでにない予算規模で、ピカピカの作品を作ろうと思っている。

坂本:Netflixでもバラエティというジャンルには特に注力しています。23年はさらに本数を拡充したい。ABEMAの製作陣の皆さんから提案いただいた企画内容はとても魅力的で、僕自身もトッププレイヤーと組むことで、これまでにない刺激を受けている。「Netflixでやるとこうなるのか!」とみなさんが観てびっくりする作品を出しますので、ぜひ楽しみにしていただきたい。

坂本:昨年Netflixは会員数減少が大きく報じられたが、我々の感覚としては、特に昨今、世界各地でコロナが収束に向かうと同時に、急激に加速した成長スピードがダウンしたのではなく、緩やかになったというのが正直なところ。

我々はやっぱり全世界的に作品を手がけるスタジオなので、コロナが流行ったときに日本の作品にとどまらず、全世界で映画、ドラマシリーズ、バラエティ、アニメ、ドキュメンタリーも含めてかなりの作品数を制作、配信し続けることができたのはよかったと思っている。国境を越えられるというインターネットの恩恵は大きなメリットだ。

藤田:日本のメディアはどうしても国内にばかり目が行きがちだ。対象人口をもっと大きくして、利用者の「桁」を変えたいという思いが常にベースにある。戦争によりサプライチェーンへの影響が出るなどグローバリゼーションが停滞しているとも言われているが、映像コンテンツに関してはまったく関係ない。利用者がその場で見るし、その場で課金する。そういう意味でも世界で通用するものを作れる会社にならないと、生き残れないなというのは常に考えている。

坂本:我々が190カ国に向けて配信するというプロセスは、企画立案からローカライズで多言語の字幕をつけるところまで含めると、非常に手間がかかっている。作品一つひとつを丁寧に仕上げて世界でヒットを狙うという意味でそこは欠かせない部分だ。直近では「First Love 初恋」や「今際の国のアリス」というグローバルなヒット作も残すことができたので、次は、ヒットを継続して作っていけるかというところに尽きる。

皆さんがまだ見たことないもの、絶対見るべきものっていうところに向き合えるかが試される。その戦略のひとつとして、バラエティというジャンルでアクセルを踏んでいく。

藤田:編成が決まっている番組制作では、完成度よりもオンエアに間に合うようにしなくてはならないので、どうしても最終クオリティよりも納期を優先せざるを得ない。それだともう視聴者が許してくれませんから、ネットではそこを変えたいとずっと思ってきた。

ABEMA開局からちょうど10年目になる2026年には、サイバーエージェントの会長になると伝えている。ABEMAは年々赤字幅も縮小して軌道に乗ってきており、あと3年で収益面でも目処が立ったと言えるところまで持っていけると踏んでいる。