なぜ、オイシックスはシダックスの株式を取得するのでしょうか?

 2022年6月29日、食品の宅配事業を行うオイシックス・ラ・大地が、食堂や給食事業を展開するシダックスの株式を取得すると発表。

 B種優先株または普通株を取得するもので、普通株に転換した場合のオイシックスの保有比率は26.5%。シダックスはオイシックスのグループ会社となる可能性があります。なぜ、オイシックスはシダックスの株式を取得するのでしょうか?

 オイシックスが株式を取得するに際して、シダックスは「協業先を検討する場合においては、中期経営計画(Re-Growth 2025)の達成を目指し、株主か否かに関係なく公平且つ事業の成長に最適であるかを重要視して判断してまいります」(「当社のB種優先株式又は普通株式の取得に関する連絡の受領について」2022/06/29より)と、やや距離を置いた言い方をしています。

 これは、今回の株式の取得がシダックスの意向とは離れたところで行われたため。オイシックスのシダックス株の取得を理解するポイントは、2019年6月にシダックスが決議した投資ファンド、ユニゾン・キャピタルとの資本業務提携です。

 シダックスは長らく業績が低迷しており、2016年3月期から2020年3月期まで5期連続で赤字を出していました。2018年5月にカラオケ事業を「カラオケ館」などを運営するB&V(ビーアンドブィ)に売却しますが、業績回復の目処はたちませんでした。2019年3月末に自己資本比率は12.3%まで低下しており、安全基準と言われる30%を大幅に下回っていました。

 ユニゾン・キャピタルは総額65億円を出資し、シダックスのB種優先株式(40億円)とC種優先株式(25億円)を取得。優先株とは、普通株よりも優先的な地位を持っているもので、配当などの面で有利なものをいいます。

 そしてユニゾン・キャピタルは取締役2名をシダックスに送り込み、改革を実行します。シダックスは時間外労働の削減、休業店舗の人員再配置による原価圧縮施策、本部経費の見直しなど、徹底的な経費削減策を推進します。

 また、エステやホテル運営などを行っていたシダックスビューティーケアマネジメントを売却。BtoC事業を圧縮し、食堂や給食などのBtoBに経営資源を集中する戦略の練り直しを行いました。その成果はすぐに出ます。

 出資直後の2020年3月期は11億2300万円の純損失を出したものの、2021年3月期は6億3000万円の黒字化を実現。2022年3月期は前期の6.5倍となる40億8900万円の純利益を計上しました。出資前に200円台だったシダックスの株式は現在500円台で取引されています。ユニゾン・キャピタルはシダックスの業績を改善し、企業価値を上げることに成功しました。

 オイシックスはユニゾン・キャピタルが保有していたB種優先株を80億円で買い取るとしています。ユニゾン・キャピタルのB種優先株出資分は40億円と、およそ3年で2倍にその価値を引き上げました。B種優先株には普通株式対価取得請求権が設けられており、それが行使された場合、オイシックスは26.5%相当の普通株を手にすることになります。

 オイシックスがシダックスの株式を取得する理由は単純です。食材の宅配事業の会員獲得が伸び悩んで業績が頭打ちになることを懸念し、次の成長領域として給食・食堂を選んだのです。オイシックスは2023年3月期の売上高を前期比5.7%増の1200億円、営業利益を前期比7.9%増の45億円と予想しています。売上高を2桁台で成長させていたオイシックスの業績に急ブレーキがかかりました。

 オイシックスはらでぃっしゅぼーやを買収し、DEAN&DELUCAを運営するウェルカムを関連会社化するなど、積極的なM&Aを進めてきたことで知られています。そのため、2022年3月末の段階で12億6100万円ののれん(合併・買収の際、買収額のうち相手企業の純資産額を上回る部分のこと)を計上しています。

 のれんの償却費が重く、売上高の成長が止まると利益率が悪化することにもなりかねません。事実、業績好調だった2021年3月期の営業利益は7.5%、2023年3月期は3.8%となり、3.7ポイント悪化する見込みです。

 オイシックスの会員数は2022年3月末時点で34万6083人で、最盛期の34万7772人(2021年9月末時点)から1700人あまり減少しています。新型コロナウイルス感染拡大で巣ごもり需要が加速すると、会員数は力強く増加しました。それが一巡し、現在は頭打ちとなっているのです。この現象はオイシックスが展開する他のサービスも同様です。大地を守る会は4万5000人、らでぃっしゅぼーやは6万5000人付近で足踏み状態が続いています。

 オイシックスは会員に依存しないビジネスの在り方を模索していました。その1つが保育園への食材卸事業で、2015年から開始しており、2022年3月末時点で690園と契約しています。

 オイシックスのようにLTV(Lifetime value。顧客生涯価値)が高いビジネスの場合、多額のマーケティングコストがかかります。その分、プロモーション費用が抑えられるBtoBは魅力的な領域です。

 オイシックスは保育園の食材卸事業の売上高を、5年以内に12億円から100億円に拡大する目標を掲げています。シダックスの給食運営事業が契約している保育園・幼稚園は180園。施設を福祉や病院、大学などに広げると1800か所となります。

 また、シダックスは自治体施設の運営受託サービスも行っており、学童保育が1430か所、公立小中校の給食が520校、その他の運営施設を含めると2300か所にも及びます。この施設とのパイプこそがオイシックスの狙いです。

 ただし、B種優先株に議決権はなく、普通株で取得したとしても保有比率は26.5%に留まります。グループ会社化したとしても、オイシックスが支配できるわけではありません。ユニゾン・キャピタルはC種優先株を保有していますが、これは社債型。普通株への転換ができません。

 つまり、オイシックスは仮にユニゾン・キャピタルからC種優先株を譲受したとしても、議決権比率を高めることはできないのです。シダックスがB種優先株を発行したのは、資金調達と経営改革が目的でしたが、その目的は果たされています。

 今回の株式の売買は投資ファンドの出口戦略。シダックスにとって、オイシックスの取得が“いい話”だけではないことは確かです。M&Aを繰り返してきたオイシックスの手腕が問われます。