「ABEMA」と「U-NEXT」

僕の子供が「HIKAKIN」さんを好きで、かなり見ています(笑)。コンテンツ量の豊富さや特性を考えても、他のサービスはなかなか太刀打ちできないなと。テレビが目の前にあっても、手元のiPadでYouTubeを見てしまいますよね。

YouTubeが出てきた頃は、ちょうどGyaO!を展開していた時期でもありましたが、当時のYouTubeは投稿型の無許諾なコンテンツのみだったので、ある一定の規模になったらそれが成立してしまうのだろうなと思いながらも、まったくコンテンツの種類が異なるので対抗しづらい部分もあって。

結果的に力が出し切れませんでした。ただ、いずれ動画配信サービスの数はさらに増える確信があったので、視聴者にとっていかに選択肢の一つとして残るか、にフォーカスしたのが「U-NEXT」です。

「ABEMA」は、一言でいうとテレビをリプレイスしたサービス。24時間ニュース番組を流すことが柱になっていて、それにバラエティやドラマ、スポーツなどのコンテンツもある。そういう意味で、NetflixやU-NEXT、YouTubeなどとは棲み分けられていると思いますね。「ABEMA」では、テレビの再発明を目指しています。

「U-NEXT」は、ライブ配信やオリジナルにこだわらず、世界中のエンターテインメントを集めていこうという考え方で運営しています。いかに多くの品揃えができるかが勝負。「エンタメの百貨店」を目指していますね。

もともと「ABEMA」では、番組名や企画を人々が口にしたくなるようなトガったコンテンツが良い、という発想がありました。でも結局は、みんな人から勧められたものしか見ないんです。そして、人に勧めたくなるのは、自分が満足した面白いコンテンツだという結論にいきつきました。そこに向き合うために「超面白い!企画会議」という会議で、中身が面白くなるまで諦めずに企画を練っています。

僕はこの自粛生活で、Netflixを100時間以上は見たんですけど(笑)。正直、オリジナル作品を見ると絶望的な気持ちになりますよ。お金のかけ方もクオリティもすごい。

このコロナ禍で、政府も無観客ライブ支援の方針を打ち出していますが、「ABEMA」ではライブ中継のノウハウが蓄積されてきているので、チケットを買ってライブを見にいくように、無観客ライブでもお金を払うのにふさわしいパフォーマンスが提供できるように準備しているところです。

もともとネットで動画を見ていなかった層にも、動画配信サービスが使われ始めた感触はありますね。ここ最近だと、「U-NEXT」で電車の車窓からの風景を流しているコンテンツが意外にもよく見られていて。リモートワークで電車に乗らなくなったサラリーマンが、仕事のスイッチを入れるために見ているそうです。

番組の制作現場って本当に密なので、今後再開できるのかなと少し不安になりますよね。でも、テレビ番組の王道である、ひな壇にタレントさんをたくさん並べるとか、セットを派手にするとか、僕からすると惰性でやっているように思えるものもある。本当に必要なものを考え直す機会になるかもしれないですね。

今回は大きく影響を受けた業界と、ネットのように影響を受けながらも新しいビジネスチャンスが生まれ進化していく業界と、状況が二分されているような印象をもっています。まさに変化期というか。そういう意味では、経済全体が金融によって影響を受けた過去のリーマンショックなどとはまた違う状況なのではないかな、と思っています。

日経平均が下がると、潰れる会社も出てくるし経営者にとっては厳しいんですよね。でも、経済がほぼ止まっているこのコロナ禍でも、日経平均が2万円を維持している。最近発表された政府の補正予算も「絶対に企業を倒産させない」という決意を感じる手厚いものだったから、大丈夫そうだなという感覚はあります。

短期的に影響を受ける産業はあるけど、きちんと支援を受けられれば元に戻れるのではと、今の時点では感じていますね。

そうですね。リモートワークでも全く問題なく働けることがわかりました。ただ、リモートでは極端に個人主義、成果主義に偏ってしまうという実感もあり、当社のようなチームワークを重視する会社には合わないと判断したんですね。

でも、正直僕自身は、ここ10年くらいで今が一番体調が良いんですよ(笑)。心身ともに健康に過ごすにはリモートを取り入れた方が良いことは間違いないと思って、まずは週1回、全社でリモートをする曜日をつくりました。

当社はもともとリモートワークを取り入れようという動きがあったので、今後も職種によって在宅勤務を継続するなど、柔軟に対応していこうと思っています。ただ、定期的に直接顔を合わせてコミュニケーションをとったり、企業文化を感じたりする機会は大切なので、そういう場も推奨していきたいですね。

僕は新卒で入社したインテリジェンスでも、サイバーエージェントの創業当初も、寝ている時間以外は会社にいた記憶があって。競合が遊んでいる時間も仕事をしていることが、ある意味競争力になっていた。それについては、宇野さんどう考えてますか?いまの若い子に「そんな働き方はしなくていい」と言うと、ある意味騙してるのかなという感覚もある(笑)。

当時、まさに“がむしゃら”に働いていましたが、仕事へのコミットを表現する方法が、会社にいる時間の長さしかなかったように思います。組織が団結して何かに立ち向かうには、濃い時間をともにするのが一番という考え方もあった。

でも、今はビジネスチャットなどのツールも普及していますし、いろんな形でコミュニケーションがとれますよね。あの働き方は、そういう時代の産物だったのかなと(笑)。

それが我々の成功体験にもなっていますよね。働き方改革やリモートワークが推進される今の時代に、がむしゃらに働く会社が出てきたら競合としてはどうですか?

一つの企業文化として脅威に感じるかもしれないですね。今まで、会社は行く場所であって、社員と顔を合わせる場だった。それがこのコロナ禍によって、自宅で会社の上司や取引先ともテレビ会議をしていると、「会社ってなんだったっけ」と社員も思い始めている。そうなると、今後会社の繋がりをどうつくっていくのかは難しい課題の一つだと思っています。

僕もこの自粛生活の間、会社ってなんだろうと何度も思いましたね。昨年、オフィスを移転してビルを一棟借りしたんですね。それまで雑居ビルに入っていたのをまとめただけだけど、あのオフィスに引っ越してから「すごい会社をつくられましたね」とちやほやされることが増えて(笑)。象徴ってすごいなと思いました。それが会社の規模を表現しているんだなと。

このコロナ禍によって、会社とは何か、そのあり方について考えさせる機会になったのは間違いないと思います。