官房長官に意見することに、怖さはなかったのですか?

─官房長官に意見することに、怖さはなかったのですか。

 日本が戦争で負けたのは、米国と戦っても負けることはわかっていたのに、軍人を含む官僚たちが政治家に客観的な事実を報告しなかったからです。政治家にとって耳の痛い話でも、役人は事実をちゃんと報告することが仕事です。それをしなかったから、たくさんの悲劇が起きた。

 私としては、事実を伝えることは役人としての当然の仕事で、このことについては今でも後悔はありません。

 会社員の方は給料から天引きで税金が引かれているので知らない人が多いのですが、税金の滞納者は生活が苦しい方がほとんど。シングルマザーで水商売をしながら子供を育てている女性など、本当に税金を払えない人がたくさんいます。そういった人に対しても、職員は「今すぐ全額払えなくとも、地域社会の会費なので、必ず払ってもらわなければなりません。分割で払いましょう」などと説得して、日々徴収作業をしているのです。

 その一方で、高額所得者が自分の住んでいる自治体に税金を払わずに、高級肉やカニなどをもらっている。税金とは、国民の財産から現金を無理に納めてもらうという意味で、役人にとって神聖な仕事です。ふるさと納税は、そういった神聖な税制度の根幹を揺るがすものなのです。

 誤解しないでいただきたいのは、私は、ふるさと納税をして返礼品を得ている人を批判しているわけではありません。ふるさと納税は、やった方が経済的合理性があるのですから、高額所得者が返礼品をもらいたいと思うのは当然のことです。問題は、こういう制度をつくってしまったこと。総務省の後輩たちには申し訳ない気持ちです。私としては、もっと別のやり方があったのではないかと、今でも忸怩たる思いです。

 菅さんとしては、役人の意見を政治家が押さえつけ、自らの政策を実現させることがリーダーシップだと思っているのかもしれませんが、ふるさと納税は、税制度に対する国民の不信感を高めることになります。

 私は、膵臓がんにかかり、昨年は脳梗塞になって現在はリハビリ中です。それでも、メディアの方がふるさと納税の成立までの経緯を検証したいというのであれば、それは制度に関わった当事者の一人として、説明する責任があると思っています。