「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2018年度)

「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2018年度)から、派遣で3年経ったあとの状況が分かる。約123万5000人の派遣社員のうち、派遣期間が3年となる見込みで、かつ、派遣の終了後も継続して就業することを希望する派遣社員が約11万1000人。そのうち、派遣先に直接雇用の依頼があったのが約3万人で、実際に派遣先で直接雇用されたのは約1万4000人でしかない。

都合よく非正規雇用を"活用"したい企業は、上限の期限がくると契約を更新しないことで合法的に"クビ"にできるため、制度変更があればすぐに期間の上限で雇い止めする傾向が強い。結局は、働く女性が真に活躍できるものとはならず、企業にとって都合よく"活用"できる環境になっていった。

2012年と2019年を比べると、女性の雇用者数は2329万人から2720万人になり、7年間で391万人増となり、確かに雇用は増えている。

しかし、増えた分の半数近くとなる176万人分は非正規雇用が占めた。女性の非正規雇用の比率は54.5%から56.0%に上昇している。

25~34歳の女性では非正規雇用より正社員が多いが、35~44歳では逆転して非正規雇用が増えていく。妊娠や出産、育児のために非正規雇用に転じる現状はなんら変わっていない。

「就業構造基本調査」(2017年)を見ると、35~54歳の非正規の女性のうち、扶養に入るための労働時間の調整をしていないのは約414万人。相当数が、家計の補助ではなく、主力で働いていると見られる。


こうした非正規雇用の増加は、男女雇用機会均等法が成立した1985年からの懸念である、「女性に用意されたのは非正規雇用だった」が現実のものとなっていることを意味する。そして、女性の雇用の受け皿になっているサービス、福祉、小売りなどは、どうしても低賃金構造で良質な雇用は望みにくい。

総務省「労働力調査」の2019年平均値を見ると、卸売・小売りの5割、宿泊・飲食・サービス業の7割強、「教育、学習支援業」と「医療・福祉」の約4割が非正規だ。そして、産業別の男女比を見ると、「医療、福祉」の約7割、「宿泊、飲食サービス」の約6割、「教育、学習支援業」の約5割が女性となる(2016年「経済センサス」産業横断的集計結果の概要)。女性の雇用の非正規化は止まらず、約56%を占めるほどになった。


い。今後、新たな政権がどう舵取りをするのか。重要なテーマになるだろう。

女性活躍のため育児介護休業法も改正され、2017年1月からは非正規雇用の育休取得の要件が緩和された。改正前は、子どもが1歳になってからも雇用継続の見込みがあることが要件となっていたが、企業側が「先行きは不透明だ」とすることで育休を取りにくかった。それを、子が1歳6ヵ月になるまでの間に、契約満了することが明らかでなければいいと変わった。

しかしながら、要件緩和された翌年の2018年、育児休業給付金の初回受給者は約36万人で、そのうち非正規は約1万3000人で、育休取得者のわずか3%しかいなかった。保育園に入る前に労働市場から退場させられているのが現状だ。


そして、労働界の悲願だった同一労働同一賃金。正社員と非正社員の「均衡待遇」はよくても、決して「均等待遇」にはならなかった歴史がある。同一労働同一賃金は、不合理な待遇差の解消を目指すものとなる。パートタイム・有期雇用労働法は、大企業が2020年4月から、中小企業が2021年4月から施行となり、ガイドラインも示された。

抜け穴となっていた「正社員には将来の幹部になる責任がある」などの理由づけが抽象的だとして、職務内容や配置の変更範囲など具体的な実態が合理的であるべきとしたが、完全に同じ労働をしているわけではないケースもあることから、"合理的な"言い訳がついてしまう。


本来は、同じような仕事をしていれば等しく処遇すべきという意味の「同一価値労働・同一賃金」とすべきだった。「価値」が入らなかったことの労働者に対する不利益は大きい。

矢継ぎ早に「働き方改革」が進められたのは、もっぱら「野党の役割を削ぐもの」との見方もあった。労働組合などを支持母体にもつ野党が主張してきたテーマを首相自らがリードする。しかし、その実像は、"お友達"の経済界にとって都合の良い規制緩和と化した。

非正規という言葉はなくなるどころか、増加の一途を辿った。

総務省「労働力調査」から、安倍政権発足前の2012年と2019年を比べると、正社員は3345万人から3494万人へ、非正社員は1816万人から2165万人へとともに増えている。これを率で見ると、正社員比率は64.8%から61.7%に減少、非正社員比率は35.2%から38.3%に増加しているのだ。

「正社員が増えた」が強調されるが、雇用全体に占める割合は減っており、安倍政権が数字を正しく伝えてはいないことが分かる。

就職氷河期と雇用の規制緩和は表裏一体の関係にある。この20年、非正規雇用が増える構造を国は作ってきた。その前提条件があるなかで就職支援を打ち出したところで、バケツの底に穴が空いているところに税金をつぎ込んで雇用対策をしているに過ぎない。

正社員が増えたとはいっても、トレンドとしては働き盛りの男性の収入が減る傾向にある。国税庁「民間給与実態統計調査」から、1997年と2018年の男性の平均年収を見ると、35~39歳で589万円から528万円へ、40~44歳で645万円から581万円に減少している。

新型コロナウイルス禍で雇用の受け皿だったサービス業や小売業が大打撃を受け、非正規雇用から真っ先にクビが切られた。グローバル経済の限界が見え、課題は明確になったはずだ。良質な雇用を生み出せる付加価値の高い製造業に原点回帰し、原則、正社員にするよう大胆な改革が必要なのではないか。改革イコール規制緩和とは限らない。

菅義偉新政権は安倍政権を踏襲し、規制改革を断行していくという。これにより、雇用は壊滅してしまい、再起不能になるだろう。経済はあくまで個々の労働の集合体であることを忘れたのが、安倍政権の失敗だったのではないだろうか。