公務員というのは事務処理能力が問われる。圧倒的に問われる。

皆さまは1年ほど前にあった公務員の障害者水増し事件というのを覚えているだろうか。

その時に自分も公務員になれるならばと思い、受験して合格した。倍率は、10倍程度。

その前の職は、某業種の会社員だったが、障害をもっているなら公務員のほうが働きやすいと思って転職した。

給料は結構下がった。

自信もあった。社会人として障害を抱えながらも10年程度働いていた。

小さな会社だが、それなりの役職でもあった。自分ならば、公務員に転職してもやっていけるだろうと思っていた。確かに、一年目はそこそこ上手く行ってはいた。ほとんど雑用だけだったから、「こいつはまともに働けるのか」を見られていたからだろう。

しかし、2年目にポジションをもらって問題がいくつか出てきた。

公務員というのは事務処理能力が問われる。圧倒的に問われる。8割は事務処理能力の世界である。

そして、わずかな言い回しに異常にこだわる。

ほんのわずかな言い回しが、致命的なトラブルになるからだ。官僚の言葉が異常に面倒くさい言葉遣いをしているのは、そのためだ。

さらには相手に仕事を依頼するときに金の力が通用しない。

これははっきり、根底から民間とは仕事のやり方が異なるということだ。

民間の仕事のやり方は、「金」という大目的があり、すべてそれに付随するが、公務員は「筋」である。

だから他者への対応からして違う。

全く関係のない企業に、「こういう素材を探してるんだが、オタク、とりあつかってない? こういう会社なんだけれど。取引の際には先に言い値で振り込むからまずはサンプルで送ってよ」

というのが常識の世界で働いていた。金さえ払えば、とりあえず商品はゲットできるし、取引が続けば信頼も獲得できるという世界だった。だから、最も重要なポイントは金をどう儲けるかという能力だ。多少、書類を作るのが下手であっても金を儲けられるのならば、そこは問題がない。

しかし、公務員は、相手を説得によって動かす技術がなくてはならない。そこに金という大きな力が働かないのだ。

「金の払いで不義理をしないのが良いのが良い客であり成功するコツ」であるのが民間だとすると、公務員は「相手を動かして働くための筋を示した書類を作れるのが能力」であることになる。

取引の際にも、契約の際にも、打ち合わせの際にも、

「品質、金額、納期、どう儲けるか」を抑えておけばよかったのだが、公務員になると、抑えるべきポイントが、「誰が、どういう筋で、何をやるか」が最重要ポイントになっている。

これは正直、アラビア語が堪能な人間が、英語圏に行ったようなものである。

ドラクエに例えると、全員がホイミを使えるのにホイミが使えない戦士から転職したLv1僧侶の悲哀、というのを感じている。

自分が今まで問題にもしていなかった能力が、実は最重要な才能として通用している世界だった。

だから公務員はダメだなんていうつもりはない。

「民間ではそんなこと30秒で決まるぞ」と思う段階は過ぎた。

自分が、その世界になじむように努力しないといけないのだが、なかなか大変だ。

書類なんて相手に伝わればいいだろうと思っていたが、そうではない。

作り方ががっちり決まっていて、使っていい漢字も送り仮名も決まっており、それを間違えると直される。

そして公というのは、組織が巨大であり、「縦割り」というが、アレはそうでないと統率が取れなくなるからだということも理解した。

下手に経験があると、逆に面倒くさい。

そして、ものすごい人脈社会だ。民間以上に人格が重要な社会だ。飲み会だろうが勉強会だろうがとりあえず名刺交換して自分を売り込む必要がある。

理由は単純で、あまりにも専門領域が膨大過ぎて、とても一人の力では業務をフォローできない。誰かに助けてもらう必要が必ずある。

シン・ゴジラに一匹狼の官僚が出てきたが、ああいうタイプはしんどいだろうと思う。むしろ三枚目のお調子者のほうが仕事はやりやすい。

これが大変なところだ。

うーん。資料を作らないとなあ。

この仕事、どの部署が担当するのか? マネタイズできる場所がやる、という常識が通用しない。

どうしたものか。