日本はお金と正面から向き合え

1990年の日本の上場企業の時価総額は500兆円から600兆円だったんですね。そして、現在の時価総額も600兆円くらいです。90年当時の日本企業の純資産はだいたい200兆円強。そして、現在の純資産が500兆円。では増えた分、300兆円の中身は何か。それが内部留保です。

利益剰余金は400兆円以上あった。これはどうなったか。バランスシート(貸借対照表)の左側は何があったか、というと現金だったわけです。お金がそこに寝ていたらだめですよ。それがぐるぐる回らないと、日本経済はよくならない。じゃあ、どう回すのか。

解決策の1つは、もう意味のない内部留保をためこまないこと。日本企業の株を買っている投資家、株主、年金が議決権として「無駄な内部留保をやめろ」と声を大にして言うことですよ。

――なぜ日本の経営者は内部留保を投資や従業員に回さないのでしょうか?

 そのほうが楽だからだと思います。多くのサラリーマン社長がそういう思考回路であることはわかります。(内部留保をため込んだ方が)リスクはないんですから。

――でも、それは経営ではなくて「保身」ですよね?


 保身をするのが日本の多くの経営者です。それは仕方ない。一方で、それをきちんとガバナンスするのが株主です。なぜROE(株主資本利益率)という指標が生まれたのか。それはE(株主資本)を活用して、どれだけR(利益)を生み出すか、ということでしょう。

絶対に給料を上げるべきです。日本は全体的に給料が低い。昔は「日本企業は給料が高い」と言われていたけど、そのころから一切伸びてない。頑張ったら給料を上げるということを、もっと明確にすべきです。

年功序列や終身雇用がおかしいというより、安定した雇用が重要であって、それが保たれたうえで、結果に応じた適切な給与体系が必要なんです。成果主義というと嫌がられるでしょうけど。

絶対に格差は縮小させないといけない。特に底辺層、低所得者の人たちには手を打たないと。誰が好き好んで生活保護費なんてもらうのでしょうか。もらわざるを得なくてもらっている人がほとんどですよ。そういう人たちが自分で働いて、一定の収入を得られるようになる機会を与えるべきです。

いま一番対策すべきなのは就職氷河期の人たちなんです。高齢者の問題はある意味では仕方なくて、70歳まで働けっていうのは無理だから、そこには最低限の社会保証やベーシックインカムなどで対応する以外はない。だから、20~40代で働ける人達には働いてもらって、生活保護が不要な状態にする。しかも、無理して生活保護をやめさせるのではなくて、楽しく不要になるようにすることが一番重要ですね。僕はそこに寄付してもいいと思っている。それをやらないと国はもたないですよ。

自己責任は自己責任でいいんですよ。ただ、その前に機会を与えないといけない。働く気のない人を働かせてもしんどいですから。幸せに働きたい人をいかに増やすかが国として重要なんじゃないですか。

内部留保の話にもつながるのですが、「資産課税」でしょうね。意味のない遊休地や金融資産には税をかけるよ、と。小さい税率でもいいから、早くやり始めたほうがいい。それは企業だけでなく、個人の富裕層にもですよ。適切な税率が0.5%なのか1.0%なのかは分からないけど、日本という国で活躍させてもらう以上、少しでもきちんと日本に還元すべきなんです。

僕は消費税よりも、そっちの方がずっといいと思っている。米国でもトレンドになっているんですよね。民主党政権でウォーレンさんが主張しています。もしかすると、世界の潮流として、資産課税が出てくる可能性があります。ファンドの運用をしている人たちも含めて、やるべきだという人が増えています。でも、それは格差是正というよりは、世界経済の安定的な成長として必要なことだ、という観点からの発言でもありますね。

そこは心配する必要はないですよ。例えば僕はシンガポールに住んでいるし、周りにも日本人の富裕層がいますけど、みんなどこに多くの資産を持っていると思いますか。日本ですよ。日本に対して、ある一定の量は納めればいいんです。個人が個人の金を海外に持っていったっていいじゃないですか。それは、たいした金額じゃないですよ。しかも、いまでは日本からお金を持ち出すときもしっかりと課税されるようになりました。

金融教育は一部に過ぎません。教育全体が重要なんです。教育を通して、さまざまな機会を子どもたちに与えたい。例えば、いま検討されている「高校の無償化」は絶対にいいですよ。