ケガ人が出て傭兵が使えないという、ベストのチーム状態ではない中で戦うのは、監督として一番辛いことではあります。しかし、なんて言うんですかね。ぼくはそういうチーム状態って嫌いじゃなくて。
望んでピンチを求めようとは思わないけれど、長いペナントレースを戦っていますとね、チーム状態が悪いときも1回か2回は来ますよ。ピンチだけれど、ぼくの中ではチャンスです。
新しい力が出てくる、というチャンスです。スターティングメンバーにしても、試合が始まってからの戦術的な部分においても、ものすごく考えるわけです。ベストではないチーム状態は、嫌いじゃない。やっぱりね、ピンチはチャンスですよ。逆に、チーム状態がいいときは、我々も一緒になって調子に乗っていたら、すぐに足元をすくわれます。チーム状態がベストじゃなくて、これ以上動かしようがない悪い状態というのは、貪欲さも出るから好きですね。
「今のチーム状態はピンチなんだ」なんて、選手には言えません。「え? だから出されてるの?」というふうには思ってもらいたくないから。ジャイアンツのユニフォームを着せている限り、負け犬的な発想の選手は送り出せません。「今のジャイアンツ、ベストの中で俺たちは戦うぜ」という感じで、背中を押しますね。
ただね、ピンチではあるんですよ。「すごくピンチ。でも、チャンスなんだ!」というふうな感覚でしょうかね。ピンチはチャンスだと思いながら「陽」の気持ちで戦う自分というのは、嫌いじゃないんです。
強い人っていうのは、打つことも強いんだけれど、打たれ強さもありますよね。
「なんで巨人は広島にあんなに負けるんですか?」と質問してみたところ、「広島は巨人の強さを認めているんじゃないですか」とお答えになった。「えっ?」と思って、もうちょっと聞いてみたら「本当に巨人のことを強いと思っていたら、ギリギリで勝てばいいと思っているんですよ」。
その一方で巨人のほうは、相手にギリギリで勝とうとはしていなかった。格闘技の試合なんかを見ていると、絶対に勝つなんて試合は、そんなにありません。それこそ、この前のボクシングですよね。「広島は接戦が当たり前だと思っているから、1ミリだけでも相手を上回れば勝ち、という試合をしている」。これを言われたのがきっかけで、今シーズンの後半からのぼくは、「接戦上等」を意識して見るようにしたんですよ。
接戦を求めるようになってこないとダメですよね。ゲーム展開の中で接戦に追い込めているときが、そのゲームで一番の大事なポイントです。大差で勝つ、大差で負けるゲームもありますが、それは、それでいいんですよ。
接戦ばかりでした。要するにジャイアンツは、接戦じゃないと勝てないチームなんですよ。だから、勝っても負けても接戦に持ち込もうぜと、我々は選手に教育していくわけですよ。接戦で勝ったときと負けたときには、同じくらいの価値があるわけです。
もし接戦で負けたとしてもね、「今日はいいゲームだったんじゃないの?」と選手たちを励ますわけです。「こんなに僅差だったじゃないか。こういう戦い方をしていくことが、ペナントレースではやっぱり大事なんだ。優勝するチームというのは、一番苦しむチームだよ。一番苦しんだチームが優勝できるんだから、接戦だとか、あるいは僅差だとか、プレッシャーがかかるとかいうことを、あえて喜びとして戦っていこう」ということを伝えていますね。