テクノロジーを重視することで、結果的には人物を見ている

ベンチャー投資を始めて9年になります。1999年に南場智子さんと共同で創業したディー・エヌ・エー(DeNA)が、2008年に東証1部に指定替えになったのを機に非常勤になり、いずれやりたいと思っていた会社投資の道に入ったのです。

これまでに30社余りに投資してきました。基本的には自分の勘が働くIT・ネット系ベンチャーを対象に、スタートアップの段階から資金を入れています。いわゆる“エンジェル投資”で、投資金額は1社当たり500万~数千万円。その時点で私が外部最大の出資者になるような案件を重視しています。他の投資家とシンジケートを組むこともあります。

実績として、インターネットサービスを手がける「フリークアウト」と「はてな」の2社が株式を公開し、ほかにも企業価値を認められM&A(買収・合併)に漕ぎ着けて保有していた株式すべてを買い取ってもらった会社が2つあります。現在のところ投資金額に対するリターンは、プラスで推移している状況です。

そもそも投資家になろうと考えた背景には、大学時代に学生ベンチャーに関わっていたという体験があります。80年代の終わりから90年代初頭の頃であり、バブル全盛期でお金は余っていたはずなのですが、銀行は学生にお金を貸してくれません。ベンチャーキャピタル(VC)にしても、出資の前提条件は担保となる土地の保有というケースもありました。そのため学生ベンチャー起業家たちは資金繰りに困ると、何枚もクレジットカードを作ってカードローンに頼っていたのです。

しかし、当時から米国は違っていました。将来有望な技術があると資本家やVCが着目し、「テクノロジー×資本主義」という形でマネーが付き、ベンチャーが続々と創出されるというダイナミズムが生まれていました。一方で、日本にはそうした「真の資本家」「プロの投資家」が存在していませんでした。そして、20歳のときに学生ベンチャーで挫折した私は、「それなら自分がプロの投資家になろう」と心に誓ったのです。

私が最初にベンチャー企業に投資したのが、京都市にあるソフト開発会社の「NOTA」でした。知人の紹介で社長の洛西一周さんと出会い、彼の仲間と飲み会をしたのがきっかけです。日本では未発売のiPhoneをポケットから取り出し、当たり前のように使いこなす彼らの姿を見て私はとても驚きました。

基本的に私が投資するのは起業して間もないアーリーステージの会社で、判断基準は候補会社のテクノロジーやプロダクトのレベルや将来性。優れた技術を有し、皆が使うような製品やサービスを出しているところが成功する確率は高くなる。私はDeNAでシステムとサービス開発を統括していましたから、ウェブやシステム、アプリなりのクオリティの評価はできます。NOTAの場合、データの共有システムのレベルの高さと将来性を評価しました。

創業者個人の人となりも非常に大切な要件になります。ただし、投資先の経営者に限れば、世の中の役に立つプロダクトを作れる人は人間的にも魅力があります。ですから、テクノロジーを重視することで、結果的には人物を見ているわけです。

よく、フェイスブックなどSNSを通して直接売り込んでくる会社がありますが、ややリスキーです。それなりに成長してVCが資本参加するようになった会社でも、そこからIPO(新規株式公開)できるのは10社に1社あるかないかなのです。時間の制約もあって、直接の売り込みには対応していません。

その点、投資先の経営者たちが、有望なアーリーステージの会社を紹介してくれることが多くなり、助かっています。私が信用し、実績を上げつつある経営者の目によってスクリーニングがかけられていれば、ヒットする率は上がってきます。

ただし、そうした有望な投資先は他の投資家も鵜の目鷹の目で探していて、売り手市場になっているのが現状です。そのため、いい案件は獲り合いで、起業家サイドも「どうコミットしてくれるのか」といった条件を当たり前のように出してきます。