インベストメント・バンキングの基本的なコト

インベストメント・バンキングの基本的なコトから説明します。

投資銀行には「2人のクライアント」がいます。ひとりは発行体(イシュアー)、もうひとりは投資家(インベスターズ)。このどちらも、投資銀行にとっては、大事なお客さんです。ところが……発行体(売り手)の利害と、投資家(買い手)の利害は、真っ向から対立するのです。

発行体は(なるべく自分に有利な値段でIPOしたい!)と願います。その場合、有利な値段とは高い値決め価格を指します。投資家は(なるべく安く買わせて!)と願います。投資銀行は両者の板挟みになるのです。

投資銀行の社内を見ると、組織構成的に、ちゃんとこの「せめぎ合い」を装置として上手く処理できるように、それぞれの利害を代弁する部署が分かれています。すなわち発行体の利害を守るのは投資銀行(IB)部門、平たくいえば、バンカーたちです。

一方、投資家の利害を守るのは株式営業部、平たく言えば、ブローカー(=機関投資家向け営業マン)たちです。

双方が、それぞれのクライアントの利害を代表し、値決め価格を巡って激突するわけです。

リフトのディールは、発行体から見れば大成功のディールでした。なぜなら当初売出目論見書に刷り込まれた価格レンジを、上方修正しているから。実際の値決めは、さらにそれより上でした。そして上場初値は、そこからまた上で開きました。

つまり1.発行体、2.投資家という投資銀行の二つの大事なお客さんのうち、少なくとも発行体は大満足だったということです。もちろん、アフターマーケットで買った投資家の目線からは、一本調子で株価が下げたので、クソ面白くもない展開でした。

つぎにUberのディールを1.発行体、2.投資家の両方の見地から検証しましょう。まず売出目論見書に刷り込まれた価格レンジは、当初の下馬評よりかなり低い価格になりました。その時点で発行体は機嫌を損ねているはず。

次に値決め価格はレンジの下限近くでした。これもガッカリさせられる仕事ぶり。ところが上場初値は?……一度も値決め価格に達することなく水面下に没した、、、つまりバイヤー(投資家)に有利なはずの価格設定にしたのに、その投資家すらも損させる結末に。

冒頭で述べたように、発行体と投資家は対立する利害を持っているのだから、すくなくともそのうちのどちらかの利害は普通なら充足できるはず…ところがモルスタはその両方ともを怒らせた(笑) だから引受部長は切腹して当然!

投資銀行はジャングルです。投資銀行は喧嘩ばかりしています。外へ出ればライバル投資銀行と取っ組み合いの喧嘩しているし、会社に帰れば他の部署と上に述べたように取っ組み合いしている(笑) 喧嘩嫌いな人は投資銀行には向きません!

たとえばこんなことがありました。あるIPOを売った後、幹事証券間でセールスクレジット(=報酬)を巡って揉めた。僕は相手証券の担当者に電話して、まくしたてました。そしたら相手の担当者が彼の部長に「タカオというとんでもないヤツが電話してきて口汚く罵った!」と報告した。

その後、彼のボスが僕のところに電話してきた。 開口一番「おまえ、ずいぶん無茶しているようだな。ところで、ウチに来ない?」 つまり部長は、もっと獰猛なチームを編成したいと思っていたので、自分の部下をお払い箱にしたのです。